帰還 OK
――唐突な出来事だった。
気付けばアームズフォートが幾つも無力化、或いは破壊されている。
それを行ったのは、数の少ない正体不明の武装集団だった。
しかし只の集団で到達出来る戦果等では決してない様な次元で、活躍する彼らを説明するには常識や理論では無理があった。
そもそも、『数の暴力』を以て敵を叩き潰すのがアームズフォートの真価である。
その真価を少数の武装集団如きに覆されるのは、非常に士気が揺さぶられる事実である。
「此方、コロニー大和所属のレイヴン、エグ・エルードだ。
遅れて悪かったな、皆」
陽動を掛けて、作った道を走り抜けたAC、ナストロファージ。
ナストロファージだと気づいた大和側は、それはもう物凄い動揺っぷりであった。
機体からエグが出て来た時は、確信が上回って何が何やらの状態であったが嬉しい事に違いは無かった。
「エグ、本当に帰って来たの?
帰って来れたの?」
『フライトナーズを撒いた直後の頃は弾切れで酷かったがな。
何はともあれ、仲間を集めて車両が制圧される前に此処迄脱出して来た』
ナストロファージのセンサーが鳴り響く。
「拙いな…。
第1部隊、第2部隊!
コロニー防壁防衛に!
第3部隊は此処で補給を!
残りは全車両部隊がコロニー正面迄移動出来る道を確保しろ!」
『MT部隊の指揮権だけじゃ――』
「今は構ってられない。
ああ、俺の所のMT部隊はどうなった?」
『一応、3番隊の副隊長が引き抜かれてる…。
けど、飽く迄臨時的な物だから…』
「じゃあ状況は?
今、何処に」
『直接リンク権は残ってるけど、オペレーションリンクが接続されてないから探すのは時間が掛かるけど、良い?』
「嫌、それなら良い。
それより――」
その先を言おうとして、しかしペダルを蹴る。
刹那、飛び上がったナストロファージの跳躍の衝撃で窪んだアスファルトが飛来した弾丸により粉々に砕かれる。
『っ、コンコード管轄機関所属のレイヴン、ランク1のストライク!!』
「トップランカーって奴か。
そんな奴迄駆り出されるなんて、企業は何をしようってんだ!?」
真っ黒な軽量二脚による軽快な動きをする軽量級のAC。
再び右手のハンドレールガンが撃ち光る。
瞬時にバックグラインド、サイドブースターの噴射でブーストダッシュの軌道を修正して攻撃を躱す。
相手も、これに応じてオーバードブーストで正面から急速接近。
左腕に装備する特殊エネルギーブレードから光波を射出する。
「ブレードが飛んだ!?」
衝撃のない熱エネルギー弾。
センサーがダメージを感知してけたたましく唸り上げる。
次に相手はサイドブースターで右に旋回し、そのまま通常旋回を空中で行って、落下してはブーストを繰り返しながら背後を取ろうとナストロファージの右手に移動する。
「っち」
モニターのロックサイト内に一瞬だけ映ったロックマーカーが少しの間、黒い影を追う。
右サイドブースターでグラインドブーストし、そのまま前方へブーストダッシュへ移行、メインブースターのグラインド出力で数秒間加速して距離を稼ぐ。
相手は右背部のミサイルを一発発射する。
グラインドブースト停止後、ブレーキング機能が作動する間、操縦桿を動かして右旋回させると、それに反応した左脚部が前に出た。
これによるバランス崩れを検知したバランサーが作動して、右脚部を後ろへ移動させる瞬間に、操縦桿の操作を逆方向で行い、頭部の操縦入力統合システムが、該当する入力パターンを検索して、該当するパターンに当て嵌まる挙動を機体全体に指示する。
結果、物凄い勢いでナストロファージが87度程右回転する事になった。
左手のショックライフルを発砲し、その反動発生と共にバックグラインド。
『敵脚部破損』
如何やら右脚の装甲が駄目になったらしく、着地時に転倒してしまった様だ。
「トップランカーが。
この程度か?」
煽りと僅かな正直な疑問。
「…」
ブースターで空中起動しつつ接近、マシンガンをショックライフルを乱発して敵機の爆散を見届ける。
ショックライフルの残弾は無かった。
何とか本部部車両部隊を大和内部に迎え入れる事が出来た頃、エグは格納庫の中で、指示をしていた。
何分、長旅の末の到着なのに、この激闘である。
両者共に、特にエグ側は長旅が故の特有の消費が激しく、一時的と言えど大和の整備班を困らせるに足りる要因となってしまった。
それでも、現状では戦力増加を喜んだアンタレスの判断により整備や補給が受けられる事になったのは、喜ぶべき事運びだろう。
整備面で一番の厄介だったのがAC組だった。
それこそ長年世話をしていたナストロファージなら、どんな弄り方をすれば、どの様な結果に繋がるかは、職人達の感で、正確に割り出せるので結構だが、他と言えば、全部が全部見た事も聞いた事も触った事もない機体ばかりだ。
加えて、地下世界出身のACと言えば、当然フレームや内装は企業が販売する物ばかり。
勿論ナストロファージの部品は多少、企業の製品だ。
MTに至っては純企業製等普通である。
が、色々パーツを組み合わせるコアシステムの関係上、あらゆるパーツと接続出来る必要があるなら、当然使用部品数は跳ね上がる。
MTに限って純性を扱える理由は、専ら必要部品数、及び種類が限定的であるからだ。
勿論企業側も同じ理由でMTを開発している訳だが、コロニーには技術があっても予算がない。
レジスタンス社会に於いて、敵対勢力の製品の入手は、極めて難しく、ルートが確保出来ても、企業社会内での販売価格の数十倍が相場、ルートによっては数千倍以上の値が張るのも確かで、勿論企業製パーツは高性能だが、其処迄出費する価値もない為、出回りが鈍く、それが結果として更に値上げの原因となっているのだ。
需要はあるのだが、特にACパーツとなれば、ACの兵器としての万能さ故に心理的事情が、より深く食い込む為、如何考えても高すぎる、と言う例は嵐の様に飛びまわっている話題の看板なのだ。
さて、高価格なパーツの塊であるAC。
当然、予算上の理由で手が出せない以上、整備員の仕事として運ばれて来る事自体、滅多にない事である。
コロニー大和とて、例外ではなく、酷い事に誰もナストロファージと、それを入荷する時に、少し関係のない物を見ただけで、触った事のある物はナストロファージ一機のみである。
当然、関係のない物を見たのは、古株組のみで当然ナストロファージを除く一切のACは整備経験がないのである。
同じACである為、ナストロファージから知恵と技術と知識を応用出来る部分はあるのだが、それも僅かな部分のみだ。
「駄目だ、企業製が、こんなにややこしいとは…」
「同じACで其処迄違いがあるのか?」
不思議そうにシャドーミラが覗き込む。
何分ACの整備で手間取っている中年を見た事がないのだ。
「おっさんばかりだし、素人はいないだろう」と思いきや寧ろ「おっさん達がド素人だった」だなんて誰も思いもしない筈である。
当のおっさん――整備員も自分がベテランである自信を、こうも粉砕されては素直に首を傾げる他ない。
どの道分からないのだ。
「ああ、分からん。
ユーフォーでも見てる様な気分だ…」
頭痛が酷くなった、と整備員が別の整備員と交代する。
「おいおい、何なんだ…?
本当に、こんな整備員しかいないのか…?」
「レジスタンスが沢山ACを弄ってる経験があれば別だろうが、デカいとは言え、高が一コロニーの規模じゃ…無理だろう…」
エグ達が、又通信が入る。
『敵ACが二機接近』
「了解、出せる機体を確認する」
そう言ってシャドーミラを見やる。
「機体が大丈夫なら、出撃してくれ。
敵のAC二機の掃除だ」
「分かった。
二機ならバズーカ腕部じゃ無理がある。
タイプは分かるか?」
「待ってくれ…」
ヘッドセットで通信するエグ。
「狙撃特化の重量二脚と軽量二脚だそうだ。
軽量の方は兎に角足が速くてふらふらしていてロックオン出来ないらしい。
MTが苦戦している」
「特化機相手に良く苦戦で済む物だ」
「MTの物量が自慢って戦い方だからな。
それに一人一人の力量と自信が戦線を支えている。
が、それも崩れてしまう可能性が高い」
「了解、支度は大丈夫だ」
バズーカ腕部を低燃費型のレーザー腕部へ換装したスカルフォックスが通常モードのオーバードブーストで現地へ向かう。
『現在、コロニー大和所属のスカルフォックスだ。
大和防衛部隊、ご苦労だ。
私も防衛側に参戦させて頂こう』
ヴァンジュラ・フォックスへレーザーが直撃する。
が、構わず、砲撃ライフルを放つヴァンジュラ・フォックス。
(この程度では回避するに値しない威力か。
馬鹿馬鹿しい耐熱性だ)
オーバードブーストと僅かなサイドブースト制御で砲撃ライフルを回避、レーザーガンのモードをアサルトモードからバーストモードへ切り替える。
槍の様な部分が四方に開き、照射ユニットが突き出る。
「どの程度耐え得る!?」
カォオオン!!!
独特の後に響く轟音が轟き、ヴァンジュラ・フォックスの左脚部の装甲を焼き貫く。
が、脚部自体には届いてない様だ。
ヴァンジュラ・フォックスが砲撃ライフルを格納して大型マシンガンを両手で構えて後ろに後退しながら乱射する。
計量機の援護のハンドガン攻撃もあって、激しい弾幕となるが、一旦引いて再びアサルトモードに変更したスカルフォックスのレーザー連射が計量機を叩き落とす。
進路上に落下した計量機の残骸を避けてオーバードブーストで追撃。
しかし相手も只でやられる程、弱くはなく構えもせずに砲撃ライフルを発射した。
「っ!!」
一瞬バックブースターを使う事を考えるが、それより先に右へ回避する。
それでも掠ったのか、凄まじい衝撃が走る。
『脚部損傷』
「ぐううっ!!?」
『姿勢制御能力低下』
荒々しく大地に降り立つ様は、着地と言うより不時着の様である。
『自動歩行制御開始』
自動的に歩行する事でバランスを保とうとする機能である。
が、左前脚が損傷しているので上手く減速出来ず、仕方なく右サイドブースターを使用し、その噴射によって漸く停止する事が出来た。
「ぐううっ…。
スカルフォックスより大和防衛部隊本部。
任務遂行完了、帰還する。
戦闘中、脚部に被弾し機動力が低下した。
有事の際は支援を要請する」
『了解した。
だが支援の編成は、今は余裕がない。
出せるかは運次第だ、悪いが頑張ってくれ』
「了解、通信終了」
『通信終了了解』
こんな調子で粗方の企業部隊を退ける事に成功したエグ達だったが、その被害は甚大で、エグ達が到着する前から受けた被害を合わせると、非常に深刻で、特にプラントの幾つかを破壊、制圧されたのは今後数十年の痛手となるだろう。
一月が経過した頃、漸くライフラインの復旧が終わりを見つけた時期であった。
そんな時期になると、同盟間コロニーでの会議が行われる様になった。
その議題の大半は、エグが引き連れて来たレイヴンや民間人の扱いで、結論として、幾つかに分けてコロニーに住まわせ、レイヴンや他の戦闘関係者も同じく各コロニーの勢力に取り込まれるか、同盟間での遊撃勢力として編成され以前より活動していた各コロニー勢力からの引き入れや引き出しが行われ、各遊撃勢力での混合化が進めされ監視に最適な形態へとなった。
「嫌ぁ、君も面白い人材を引き連れるねェ…」
「アンタレス…さん」
早速哨戒任務を受けたエグは、既に帰還しており、MTパイロットが着替え残っている中、一息ついて更衣室から出た。
話し掛けられたのは、その時だった。
「ああ、良いよ。
今は」
「休憩中でも一応仕事でしょう」
「それ、今日の分が全部終わったんだ」
「はあ?
コロニー代表って言えば、…、まあ……馬鹿みたいな仕事の量が待ち受けてるんじゃないんですか?」
「その馬鹿みたいな量を終わらせたって事」
「呆れますね」
苦笑して壁に靠れるエグ。
「敬語も良いのに」
「ま、勤務中なんで。
アンタレスさんの仕事と違って、書類の片づけが仕事じゃないんですよ。
いつお客さんが来るか分かったもんじゃない…ですしね」
するとアンタレスがにやり、と、こう言った。
「今、敵って書いてお客さんて呼んだでしょ?」
「あー、まあ……脳内…変換?
みたいな?
あはは」
「ふふ、良いね、それ」
そんな会話をしていた時だった。
『レーダー圏内に正体不明反応を確認!!
同反応体へ進路変更を要請するも、これを無視してコロニーに接近中!!
総員、第一戦闘用意、第三種対空戦闘態勢!!
企業勢力の可能性、極めて高し』
アンタレスが少々呆れた様に苦笑する。
「やれやれ、如何やら、この話題はお客さんを引き付けるに値する格好の宣伝文句の様だ」
「らしいですね」
「まあ、精々弾切れしない様にね。
君なら、多少の死亡フラグを相手に掴ませるに容易い実力者だろうから」
「余り買い被らないで下さい。
じゃ、行って来ます」
そう言って更衣室に再び入るエグ。
「行ってらっしゃい」
折角着替えたのにね、とアンタレスは小さく笑った。
気付けばアームズフォートが幾つも無力化、或いは破壊されている。
それを行ったのは、数の少ない正体不明の武装集団だった。
しかし只の集団で到達出来る戦果等では決してない様な次元で、活躍する彼らを説明するには常識や理論では無理があった。
そもそも、『数の暴力』を以て敵を叩き潰すのがアームズフォートの真価である。
その真価を少数の武装集団如きに覆されるのは、非常に士気が揺さぶられる事実である。
「此方、コロニー大和所属のレイヴン、エグ・エルードだ。
遅れて悪かったな、皆」
陽動を掛けて、作った道を走り抜けたAC、ナストロファージ。
ナストロファージだと気づいた大和側は、それはもう物凄い動揺っぷりであった。
機体からエグが出て来た時は、確信が上回って何が何やらの状態であったが嬉しい事に違いは無かった。
「エグ、本当に帰って来たの?
帰って来れたの?」
『フライトナーズを撒いた直後の頃は弾切れで酷かったがな。
何はともあれ、仲間を集めて車両が制圧される前に此処迄脱出して来た』
ナストロファージのセンサーが鳴り響く。
「拙いな…。
第1部隊、第2部隊!
コロニー防壁防衛に!
第3部隊は此処で補給を!
残りは全車両部隊がコロニー正面迄移動出来る道を確保しろ!」
『MT部隊の指揮権だけじゃ――』
「今は構ってられない。
ああ、俺の所のMT部隊はどうなった?」
『一応、3番隊の副隊長が引き抜かれてる…。
けど、飽く迄臨時的な物だから…』
「じゃあ状況は?
今、何処に」
『直接リンク権は残ってるけど、オペレーションリンクが接続されてないから探すのは時間が掛かるけど、良い?』
「嫌、それなら良い。
それより――」
その先を言おうとして、しかしペダルを蹴る。
刹那、飛び上がったナストロファージの跳躍の衝撃で窪んだアスファルトが飛来した弾丸により粉々に砕かれる。
『っ、コンコード管轄機関所属のレイヴン、ランク1のストライク!!』
「トップランカーって奴か。
そんな奴迄駆り出されるなんて、企業は何をしようってんだ!?」
真っ黒な軽量二脚による軽快な動きをする軽量級のAC。
再び右手のハンドレールガンが撃ち光る。
瞬時にバックグラインド、サイドブースターの噴射でブーストダッシュの軌道を修正して攻撃を躱す。
相手も、これに応じてオーバードブーストで正面から急速接近。
左腕に装備する特殊エネルギーブレードから光波を射出する。
「ブレードが飛んだ!?」
衝撃のない熱エネルギー弾。
センサーがダメージを感知してけたたましく唸り上げる。
次に相手はサイドブースターで右に旋回し、そのまま通常旋回を空中で行って、落下してはブーストを繰り返しながら背後を取ろうとナストロファージの右手に移動する。
「っち」
モニターのロックサイト内に一瞬だけ映ったロックマーカーが少しの間、黒い影を追う。
右サイドブースターでグラインドブーストし、そのまま前方へブーストダッシュへ移行、メインブースターのグラインド出力で数秒間加速して距離を稼ぐ。
相手は右背部のミサイルを一発発射する。
グラインドブースト停止後、ブレーキング機能が作動する間、操縦桿を動かして右旋回させると、それに反応した左脚部が前に出た。
これによるバランス崩れを検知したバランサーが作動して、右脚部を後ろへ移動させる瞬間に、操縦桿の操作を逆方向で行い、頭部の操縦入力統合システムが、該当する入力パターンを検索して、該当するパターンに当て嵌まる挙動を機体全体に指示する。
結果、物凄い勢いでナストロファージが87度程右回転する事になった。
左手のショックライフルを発砲し、その反動発生と共にバックグラインド。
『敵脚部破損』
如何やら右脚の装甲が駄目になったらしく、着地時に転倒してしまった様だ。
「トップランカーが。
この程度か?」
煽りと僅かな正直な疑問。
「…」
ブースターで空中起動しつつ接近、マシンガンをショックライフルを乱発して敵機の爆散を見届ける。
ショックライフルの残弾は無かった。
何とか本部部車両部隊を大和内部に迎え入れる事が出来た頃、エグは格納庫の中で、指示をしていた。
何分、長旅の末の到着なのに、この激闘である。
両者共に、特にエグ側は長旅が故の特有の消費が激しく、一時的と言えど大和の整備班を困らせるに足りる要因となってしまった。
それでも、現状では戦力増加を喜んだアンタレスの判断により整備や補給が受けられる事になったのは、喜ぶべき事運びだろう。
整備面で一番の厄介だったのがAC組だった。
それこそ長年世話をしていたナストロファージなら、どんな弄り方をすれば、どの様な結果に繋がるかは、職人達の感で、正確に割り出せるので結構だが、他と言えば、全部が全部見た事も聞いた事も触った事もない機体ばかりだ。
加えて、地下世界出身のACと言えば、当然フレームや内装は企業が販売する物ばかり。
勿論ナストロファージの部品は多少、企業の製品だ。
MTに至っては純企業製等普通である。
が、色々パーツを組み合わせるコアシステムの関係上、あらゆるパーツと接続出来る必要があるなら、当然使用部品数は跳ね上がる。
MTに限って純性を扱える理由は、専ら必要部品数、及び種類が限定的であるからだ。
勿論企業側も同じ理由でMTを開発している訳だが、コロニーには技術があっても予算がない。
レジスタンス社会に於いて、敵対勢力の製品の入手は、極めて難しく、ルートが確保出来ても、企業社会内での販売価格の数十倍が相場、ルートによっては数千倍以上の値が張るのも確かで、勿論企業製パーツは高性能だが、其処迄出費する価値もない為、出回りが鈍く、それが結果として更に値上げの原因となっているのだ。
需要はあるのだが、特にACパーツとなれば、ACの兵器としての万能さ故に心理的事情が、より深く食い込む為、如何考えても高すぎる、と言う例は嵐の様に飛びまわっている話題の看板なのだ。
さて、高価格なパーツの塊であるAC。
当然、予算上の理由で手が出せない以上、整備員の仕事として運ばれて来る事自体、滅多にない事である。
コロニー大和とて、例外ではなく、酷い事に誰もナストロファージと、それを入荷する時に、少し関係のない物を見ただけで、触った事のある物はナストロファージ一機のみである。
当然、関係のない物を見たのは、古株組のみで当然ナストロファージを除く一切のACは整備経験がないのである。
同じACである為、ナストロファージから知恵と技術と知識を応用出来る部分はあるのだが、それも僅かな部分のみだ。
「駄目だ、企業製が、こんなにややこしいとは…」
「同じACで其処迄違いがあるのか?」
不思議そうにシャドーミラが覗き込む。
何分ACの整備で手間取っている中年を見た事がないのだ。
「おっさんばかりだし、素人はいないだろう」と思いきや寧ろ「おっさん達がド素人だった」だなんて誰も思いもしない筈である。
当のおっさん――整備員も自分がベテランである自信を、こうも粉砕されては素直に首を傾げる他ない。
どの道分からないのだ。
「ああ、分からん。
ユーフォーでも見てる様な気分だ…」
頭痛が酷くなった、と整備員が別の整備員と交代する。
「おいおい、何なんだ…?
本当に、こんな整備員しかいないのか…?」
「レジスタンスが沢山ACを弄ってる経験があれば別だろうが、デカいとは言え、高が一コロニーの規模じゃ…無理だろう…」
エグ達が、又通信が入る。
『敵ACが二機接近』
「了解、出せる機体を確認する」
そう言ってシャドーミラを見やる。
「機体が大丈夫なら、出撃してくれ。
敵のAC二機の掃除だ」
「分かった。
二機ならバズーカ腕部じゃ無理がある。
タイプは分かるか?」
「待ってくれ…」
ヘッドセットで通信するエグ。
「狙撃特化の重量二脚と軽量二脚だそうだ。
軽量の方は兎に角足が速くてふらふらしていてロックオン出来ないらしい。
MTが苦戦している」
「特化機相手に良く苦戦で済む物だ」
「MTの物量が自慢って戦い方だからな。
それに一人一人の力量と自信が戦線を支えている。
が、それも崩れてしまう可能性が高い」
「了解、支度は大丈夫だ」
バズーカ腕部を低燃費型のレーザー腕部へ換装したスカルフォックスが通常モードのオーバードブーストで現地へ向かう。
『現在、コロニー大和所属のスカルフォックスだ。
大和防衛部隊、ご苦労だ。
私も防衛側に参戦させて頂こう』
ヴァンジュラ・フォックスへレーザーが直撃する。
が、構わず、砲撃ライフルを放つヴァンジュラ・フォックス。
(この程度では回避するに値しない威力か。
馬鹿馬鹿しい耐熱性だ)
オーバードブーストと僅かなサイドブースト制御で砲撃ライフルを回避、レーザーガンのモードをアサルトモードからバーストモードへ切り替える。
槍の様な部分が四方に開き、照射ユニットが突き出る。
「どの程度耐え得る!?」
カォオオン!!!
独特の後に響く轟音が轟き、ヴァンジュラ・フォックスの左脚部の装甲を焼き貫く。
が、脚部自体には届いてない様だ。
ヴァンジュラ・フォックスが砲撃ライフルを格納して大型マシンガンを両手で構えて後ろに後退しながら乱射する。
計量機の援護のハンドガン攻撃もあって、激しい弾幕となるが、一旦引いて再びアサルトモードに変更したスカルフォックスのレーザー連射が計量機を叩き落とす。
進路上に落下した計量機の残骸を避けてオーバードブーストで追撃。
しかし相手も只でやられる程、弱くはなく構えもせずに砲撃ライフルを発射した。
「っ!!」
一瞬バックブースターを使う事を考えるが、それより先に右へ回避する。
それでも掠ったのか、凄まじい衝撃が走る。
『脚部損傷』
「ぐううっ!!?」
『姿勢制御能力低下』
荒々しく大地に降り立つ様は、着地と言うより不時着の様である。
『自動歩行制御開始』
自動的に歩行する事でバランスを保とうとする機能である。
が、左前脚が損傷しているので上手く減速出来ず、仕方なく右サイドブースターを使用し、その噴射によって漸く停止する事が出来た。
「ぐううっ…。
スカルフォックスより大和防衛部隊本部。
任務遂行完了、帰還する。
戦闘中、脚部に被弾し機動力が低下した。
有事の際は支援を要請する」
『了解した。
だが支援の編成は、今は余裕がない。
出せるかは運次第だ、悪いが頑張ってくれ』
「了解、通信終了」
『通信終了了解』
こんな調子で粗方の企業部隊を退ける事に成功したエグ達だったが、その被害は甚大で、エグ達が到着する前から受けた被害を合わせると、非常に深刻で、特にプラントの幾つかを破壊、制圧されたのは今後数十年の痛手となるだろう。
一月が経過した頃、漸くライフラインの復旧が終わりを見つけた時期であった。
そんな時期になると、同盟間コロニーでの会議が行われる様になった。
その議題の大半は、エグが引き連れて来たレイヴンや民間人の扱いで、結論として、幾つかに分けてコロニーに住まわせ、レイヴンや他の戦闘関係者も同じく各コロニーの勢力に取り込まれるか、同盟間での遊撃勢力として編成され以前より活動していた各コロニー勢力からの引き入れや引き出しが行われ、各遊撃勢力での混合化が進めされ監視に最適な形態へとなった。
「嫌ぁ、君も面白い人材を引き連れるねェ…」
「アンタレス…さん」
早速哨戒任務を受けたエグは、既に帰還しており、MTパイロットが着替え残っている中、一息ついて更衣室から出た。
話し掛けられたのは、その時だった。
「ああ、良いよ。
今は」
「休憩中でも一応仕事でしょう」
「それ、今日の分が全部終わったんだ」
「はあ?
コロニー代表って言えば、…、まあ……馬鹿みたいな仕事の量が待ち受けてるんじゃないんですか?」
「その馬鹿みたいな量を終わらせたって事」
「呆れますね」
苦笑して壁に靠れるエグ。
「敬語も良いのに」
「ま、勤務中なんで。
アンタレスさんの仕事と違って、書類の片づけが仕事じゃないんですよ。
いつお客さんが来るか分かったもんじゃない…ですしね」
するとアンタレスがにやり、と、こう言った。
「今、敵って書いてお客さんて呼んだでしょ?」
「あー、まあ……脳内…変換?
みたいな?
あはは」
「ふふ、良いね、それ」
そんな会話をしていた時だった。
『レーダー圏内に正体不明反応を確認!!
同反応体へ進路変更を要請するも、これを無視してコロニーに接近中!!
総員、第一戦闘用意、第三種対空戦闘態勢!!
企業勢力の可能性、極めて高し』
アンタレスが少々呆れた様に苦笑する。
「やれやれ、如何やら、この話題はお客さんを引き付けるに値する格好の宣伝文句の様だ」
「らしいですね」
「まあ、精々弾切れしない様にね。
君なら、多少の死亡フラグを相手に掴ませるに容易い実力者だろうから」
「余り買い被らないで下さい。
じゃ、行って来ます」
そう言って更衣室に再び入るエグ。
「行ってらっしゃい」
折角着替えたのにね、とアンタレスは小さく笑った。
13/04/26 16:55更新 / 天