脱出 OK
予想外の事態が発生した。
地下レイヴンの中で最近優秀な奴がいるので、取り込もうとしたのだ。
だが、企業には向かった彼は、やはり潰される運命を辿った――筈だった。
気が付けば、集結している武装勢力。
拙い、そう感じた頃は既に遅すぎた。
あろう事か、他のレイヴンや各組織専属レイヴン機すら確認される、その勢力は、企業に取って最悪な事に地上への脱出を目論み、進行を開始した。
これを阻止すべく、大量の部隊を派遣した企業だが、分離していた勢力は、地下トンネルの構造を把握し、企業部隊へ挟撃作戦を実行。
企業部隊の多くは、疲弊しレイヴン部隊も同様であった。
それでも企業はレイヴンを多用して居た。
一つは、経済運用。
二つに、時間稼ぎ。
そして導入された大型兵器。
脱出勢力の目論見を潰せると踏んだ企業だが不安がない訳では無いであった。
巨大兵器が大量に連装したパルスガンを乱射し続ける。
お蔭でトンネル内は真っ黒焦げになってしまっている。
エグ達は武器を壁から出して反撃している。
『誰かパルスガンを狙えないのか?』
『無理だ、弾がパルスにやられる!』
『届かねぇ!!』
合流間際の襲撃だ。
中々対応し辛い。
『このまま固まっても包囲される。
だが誰かが突出せぬばかりは…』
『おいおい、死ぬぞ!?』
『そう言うが、こればかりは誰かが死ななければ皆死ぬぞ。
それに自殺行為でこそあるが、何も本当に自殺するつもりである訳ではない。
此処は儂が。
どうせ老い耄れだ。
最後に希望を見て死ねるなら本望であろう、レイヴンならば!!』
『なら、トレーラーに戻ってアセンブル変更して来い。
両腕にエネルギーシールド、背部はオートキャノン固め。
どうせの事だ、市街地戦を想定したオービットブースターがあるだろう。
あれなら調整しなくても狭いトンネルで使い易さが真価を発揮する』
『お前の装備だろう』
エグの提案に老い耄れた重量タンクACのレイヴンが呆れる。
だがエグは断言した。
『あれは地下世界を回りながら活動してた頃、大量に入手してしまったガラクタをくっつけた類だ。
偶然似たパーツがあったからそうしただけだ。
シールドに関しては改造を繰り返し続けている。
耐久力なら自慢の一品だ。
この状況、あいつの為にある状況だ!
使ってくれ!』
『…後退する。
火力が乏しいと言い訳して撤退するなよ』
『此処で引いたら、何処に逃げればいいんだ。
地獄だろう。
それに、俺は無用なプライドはないが、真にある誇りは捨てない』
『良かろう、期待する』
『了解』
『如何する?
このままじゃ、奴の接近を許すだけだ』
MTパイロットの質問にエグは答えを少し考えた。
其処へ現れるAC。
『………問題ない、我が道歩むのみ』
出て来たのは先程の老レイヴンとは違うタンクAC。
(な、何だそりゃあ!!!?)
右腕はエネルギー砲の様だ。
それ自体は良い。
しかし、エネルギー砲の大きさが可笑しい。
そして背部には、見た事もない様な大きさの大型ジェネレーターが追加されている。
そのACを守る為か、正面に巨大シールドを構えた重装甲なMTがフロントブースターで突っ込んで来る。
『レーザーなら問題なかろう!!』
放たれた極太のレーザーがパルスガンと無限軌道を焼き払う。
攻撃力が激減し、姿勢が崩れ、大きく減速する巨大兵器。
壁を大きく抉り、凄まじい衝撃を届ける。
『チャージ完了、正面から退け。
さもなければ消し炭にする!!』
操縦桿を動かして機体を後退させたエグが見たのは、モニター一杯に広がる光だった。
巨大兵器の、もう半分の無限軌道を破壊し動きを止める。
(あ、あのエネルギー砲で破壊したのか…!?)
無限軌道を狙う所を考慮すると、流石に一撃で巨大兵器を葬る事は無理な様だったが、それでも尚、その威力は驚異的である。
咄嗟にコンパターを操作、回線を開ける。
「お前は何者だ!?」
巨大兵器がミサイルを発射。
重装甲MTとタンクACが迎撃装置と専用のミサイルを使って排除する。
(あの狭い空間で…あれだけの回避能力…を発揮!?
何者だ、奴は!?
地上レイヴン!?
じゃあ、何故味方する!?)
数の減ったミサイルを回避して左手に持つマシンガンで発射管を破壊する。
残ったミサイルに引火したのか、大爆発する巨大兵器の一部。
だが、それをパージして、何かの起動音を唸らせる。
「隠れろ!!」
エグが怒鳴った瞬間、巨大兵器が浮き始める。
『フロートだ!』
『スラスターを破壊しろ』
だが、その速度故に碌に攻撃する事も敵わずに特攻を許してしまう。
重量級MT2機がミサイルを下部へ集中させるが、減速しない。
トンネルの端によって、壁を抉っている突出部分へレーザーバルカンとミサイルを集中させてスペースを確保する左側のMTと横から同様の二種類同時火器使用攻撃によってスラスター部分を攻撃する右側のMT、垂直噴射で中央の突出部分を回避しながら上に逃げるタンクAC。
『回避成功』
(何とかなったか。
し、しかし何て特攻だ。
特攻ってより体当たりなのか?)
まあ良い、として支持する。
「全機総攻撃!」
左右のブースターが爆発し、一気に減速する。
「良し、スラスターを破壊しろ!
俺達ACは反対側を警戒する」
『了解』
スラスター部が次々とは破損し、故障し、負荷が蓄積されていく。
その負荷が限界突破したのは早い物で、気が付けば金属音と火花を撒き散らしながら奥の急カーブの所で壁に激突していた。
『…敵巨大兵器、沈黙確認。
エネルギー反応、急速低下。
確認できる熱源は…ユニット部分から出た領域にも確認。
火災による物と思われます』
トレーラーの男性オペレーターの言う通り、爆発を繰り返す巨大兵器。
『全機トレーラーに戻れ。
此処から先は一本道だ。
先行隊と追尾隊に分かれる。
機体損傷、機体消耗の激しい機体は追尾隊、それ以外は先行隊だ。
車両は修理系統以外は護衛勢力を除き先行隊とする』
エグの指示に各部隊の指揮官から了解の返答が帰って来た。
(これだけの規模を率いる事になるとはな)
ふふ、と苦笑しながらスキャンモードに切り替え、機体状況を確認する。
(エレンに、この規模を見せたら引っくり返るだろうなぁ。
アンタレスは笑いそうだが…。
ふふ)
「レルドベイングすらもが、破壊され、ただとぉお!!?」
企業部隊の指揮官が腰を抜かす。
元々椅子に座っていた彼だが、その姿勢は何だか椅子に依存して居る様にさえ見えた。
「お気を確かに。
しかし、奴らは一本道の所を使用しています。
あの地区は旧地下戦争時代の外部コロニー勢力による無数の非公式通路が交差していますが…」
「あ、あ、あああ、ああ……。
きゅっ、旧時代のとは言え…非公式な通路…だな。
情報だけでも、収集した方が良いかも知れんが…。
そうか一本道なら、追いかける程の他はあるまい。
動かせる部隊は、どれだけの数が存在するんだ?
どれ位の戦力になる?」
「ざっとアームズフォード1,5個分でしょう。
部隊数は344です」
「分断する意味もないな」
「は?」
「何でもない」
司令官が問う。
「地上ルートでトンネルの出口へ回り込めるか?」
「彼らが、それなりに警戒していれば、ですが。
しかし、その場合の警戒対象は一本道の道中の真正面からの今回の様な兵器を使用した通せんぼを、でしょう。
それを行うだけであれば、長射程のレーザー兵器を真正面に陣取らせれば良いでしょうし。
しかし、状況からして、これを警戒する可能性は薄いと思われます。
事実、配備していません。
よって予想進行速度と照らし合わせた場合、彼らに追い付くのが精いっぱいと思われます。
何分、あのトンネルはACの様な高機動兵器が戦うには十分幅がありますし、天井の高さを考慮しても、重量型であれば高くジャンプしない限り意味はありません。
それに逆関節の跳躍力は、どの道邪魔なだけでしょう。
良くて歩行速度が速い位でしょうが、フロートに追い付くレベルではないでしょう」
「なら大規模な部隊を先回りさせるのは無理があるな。
幾つかに分けて戦力を回すのも意味は薄かろう。
それなら同じ要領で後ろから直接トンネルを追った方が速いだろう。
それで追跡しよう。
ある程度戦力を分ければ崩壊的戦力喪失する可能性も低いだろうからな」
「では、そう致しましょう」
企業側は、この作戦を『反乱因子脱出阻止作戦』と命名。
同作戦成功の為に大規模な分断勢力追撃を開始する。
一方、エグ達脱出側は、一本道の出口寸前で大地震に見舞われた。
彼らの脱出劇は勝利か敗北か、そのどちらかによる終焉を迎えようとしていた。
地下レイヴンの中で最近優秀な奴がいるので、取り込もうとしたのだ。
だが、企業には向かった彼は、やはり潰される運命を辿った――筈だった。
気が付けば、集結している武装勢力。
拙い、そう感じた頃は既に遅すぎた。
あろう事か、他のレイヴンや各組織専属レイヴン機すら確認される、その勢力は、企業に取って最悪な事に地上への脱出を目論み、進行を開始した。
これを阻止すべく、大量の部隊を派遣した企業だが、分離していた勢力は、地下トンネルの構造を把握し、企業部隊へ挟撃作戦を実行。
企業部隊の多くは、疲弊しレイヴン部隊も同様であった。
それでも企業はレイヴンを多用して居た。
一つは、経済運用。
二つに、時間稼ぎ。
そして導入された大型兵器。
脱出勢力の目論見を潰せると踏んだ企業だが不安がない訳では無いであった。
巨大兵器が大量に連装したパルスガンを乱射し続ける。
お蔭でトンネル内は真っ黒焦げになってしまっている。
エグ達は武器を壁から出して反撃している。
『誰かパルスガンを狙えないのか?』
『無理だ、弾がパルスにやられる!』
『届かねぇ!!』
合流間際の襲撃だ。
中々対応し辛い。
『このまま固まっても包囲される。
だが誰かが突出せぬばかりは…』
『おいおい、死ぬぞ!?』
『そう言うが、こればかりは誰かが死ななければ皆死ぬぞ。
それに自殺行為でこそあるが、何も本当に自殺するつもりである訳ではない。
此処は儂が。
どうせ老い耄れだ。
最後に希望を見て死ねるなら本望であろう、レイヴンならば!!』
『なら、トレーラーに戻ってアセンブル変更して来い。
両腕にエネルギーシールド、背部はオートキャノン固め。
どうせの事だ、市街地戦を想定したオービットブースターがあるだろう。
あれなら調整しなくても狭いトンネルで使い易さが真価を発揮する』
『お前の装備だろう』
エグの提案に老い耄れた重量タンクACのレイヴンが呆れる。
だがエグは断言した。
『あれは地下世界を回りながら活動してた頃、大量に入手してしまったガラクタをくっつけた類だ。
偶然似たパーツがあったからそうしただけだ。
シールドに関しては改造を繰り返し続けている。
耐久力なら自慢の一品だ。
この状況、あいつの為にある状況だ!
使ってくれ!』
『…後退する。
火力が乏しいと言い訳して撤退するなよ』
『此処で引いたら、何処に逃げればいいんだ。
地獄だろう。
それに、俺は無用なプライドはないが、真にある誇りは捨てない』
『良かろう、期待する』
『了解』
『如何する?
このままじゃ、奴の接近を許すだけだ』
MTパイロットの質問にエグは答えを少し考えた。
其処へ現れるAC。
『………問題ない、我が道歩むのみ』
出て来たのは先程の老レイヴンとは違うタンクAC。
(な、何だそりゃあ!!!?)
右腕はエネルギー砲の様だ。
それ自体は良い。
しかし、エネルギー砲の大きさが可笑しい。
そして背部には、見た事もない様な大きさの大型ジェネレーターが追加されている。
そのACを守る為か、正面に巨大シールドを構えた重装甲なMTがフロントブースターで突っ込んで来る。
『レーザーなら問題なかろう!!』
放たれた極太のレーザーがパルスガンと無限軌道を焼き払う。
攻撃力が激減し、姿勢が崩れ、大きく減速する巨大兵器。
壁を大きく抉り、凄まじい衝撃を届ける。
『チャージ完了、正面から退け。
さもなければ消し炭にする!!』
操縦桿を動かして機体を後退させたエグが見たのは、モニター一杯に広がる光だった。
巨大兵器の、もう半分の無限軌道を破壊し動きを止める。
(あ、あのエネルギー砲で破壊したのか…!?)
無限軌道を狙う所を考慮すると、流石に一撃で巨大兵器を葬る事は無理な様だったが、それでも尚、その威力は驚異的である。
咄嗟にコンパターを操作、回線を開ける。
「お前は何者だ!?」
巨大兵器がミサイルを発射。
重装甲MTとタンクACが迎撃装置と専用のミサイルを使って排除する。
(あの狭い空間で…あれだけの回避能力…を発揮!?
何者だ、奴は!?
地上レイヴン!?
じゃあ、何故味方する!?)
数の減ったミサイルを回避して左手に持つマシンガンで発射管を破壊する。
残ったミサイルに引火したのか、大爆発する巨大兵器の一部。
だが、それをパージして、何かの起動音を唸らせる。
「隠れろ!!」
エグが怒鳴った瞬間、巨大兵器が浮き始める。
『フロートだ!』
『スラスターを破壊しろ』
だが、その速度故に碌に攻撃する事も敵わずに特攻を許してしまう。
重量級MT2機がミサイルを下部へ集中させるが、減速しない。
トンネルの端によって、壁を抉っている突出部分へレーザーバルカンとミサイルを集中させてスペースを確保する左側のMTと横から同様の二種類同時火器使用攻撃によってスラスター部分を攻撃する右側のMT、垂直噴射で中央の突出部分を回避しながら上に逃げるタンクAC。
『回避成功』
(何とかなったか。
し、しかし何て特攻だ。
特攻ってより体当たりなのか?)
まあ良い、として支持する。
「全機総攻撃!」
左右のブースターが爆発し、一気に減速する。
「良し、スラスターを破壊しろ!
俺達ACは反対側を警戒する」
『了解』
スラスター部が次々とは破損し、故障し、負荷が蓄積されていく。
その負荷が限界突破したのは早い物で、気が付けば金属音と火花を撒き散らしながら奥の急カーブの所で壁に激突していた。
『…敵巨大兵器、沈黙確認。
エネルギー反応、急速低下。
確認できる熱源は…ユニット部分から出た領域にも確認。
火災による物と思われます』
トレーラーの男性オペレーターの言う通り、爆発を繰り返す巨大兵器。
『全機トレーラーに戻れ。
此処から先は一本道だ。
先行隊と追尾隊に分かれる。
機体損傷、機体消耗の激しい機体は追尾隊、それ以外は先行隊だ。
車両は修理系統以外は護衛勢力を除き先行隊とする』
エグの指示に各部隊の指揮官から了解の返答が帰って来た。
(これだけの規模を率いる事になるとはな)
ふふ、と苦笑しながらスキャンモードに切り替え、機体状況を確認する。
(エレンに、この規模を見せたら引っくり返るだろうなぁ。
アンタレスは笑いそうだが…。
ふふ)
「レルドベイングすらもが、破壊され、ただとぉお!!?」
企業部隊の指揮官が腰を抜かす。
元々椅子に座っていた彼だが、その姿勢は何だか椅子に依存して居る様にさえ見えた。
「お気を確かに。
しかし、奴らは一本道の所を使用しています。
あの地区は旧地下戦争時代の外部コロニー勢力による無数の非公式通路が交差していますが…」
「あ、あ、あああ、ああ……。
きゅっ、旧時代のとは言え…非公式な通路…だな。
情報だけでも、収集した方が良いかも知れんが…。
そうか一本道なら、追いかける程の他はあるまい。
動かせる部隊は、どれだけの数が存在するんだ?
どれ位の戦力になる?」
「ざっとアームズフォード1,5個分でしょう。
部隊数は344です」
「分断する意味もないな」
「は?」
「何でもない」
司令官が問う。
「地上ルートでトンネルの出口へ回り込めるか?」
「彼らが、それなりに警戒していれば、ですが。
しかし、その場合の警戒対象は一本道の道中の真正面からの今回の様な兵器を使用した通せんぼを、でしょう。
それを行うだけであれば、長射程のレーザー兵器を真正面に陣取らせれば良いでしょうし。
しかし、状況からして、これを警戒する可能性は薄いと思われます。
事実、配備していません。
よって予想進行速度と照らし合わせた場合、彼らに追い付くのが精いっぱいと思われます。
何分、あのトンネルはACの様な高機動兵器が戦うには十分幅がありますし、天井の高さを考慮しても、重量型であれば高くジャンプしない限り意味はありません。
それに逆関節の跳躍力は、どの道邪魔なだけでしょう。
良くて歩行速度が速い位でしょうが、フロートに追い付くレベルではないでしょう」
「なら大規模な部隊を先回りさせるのは無理があるな。
幾つかに分けて戦力を回すのも意味は薄かろう。
それなら同じ要領で後ろから直接トンネルを追った方が速いだろう。
それで追跡しよう。
ある程度戦力を分ければ崩壊的戦力喪失する可能性も低いだろうからな」
「では、そう致しましょう」
企業側は、この作戦を『反乱因子脱出阻止作戦』と命名。
同作戦成功の為に大規模な分断勢力追撃を開始する。
一方、エグ達脱出側は、一本道の出口寸前で大地震に見舞われた。
彼らの脱出劇は勝利か敗北か、そのどちらかによる終焉を迎えようとしていた。
13/03/07 12:49更新 / 天