連載小説
[TOP][目次]
逃走 OK
 「本当に助かりました、有難う御座います!」
深々と頭を下げるエグ。
その横に聳え立つのは、順調に整備が進められているナストロファージだ。
技術関係の違いで完全修復とは至らないが、その分別系統の技術が導入された事で、寧ろ性能は以前よりも増している様だ。
特に、オーバードブーストの熱関係が効率化され、推力と燃費の向上が図られた。
 「なあに。
地上じゃ時代遅れな技術も、地下じゃ最新だ。
こんな物、触らせてくれたんだ。
俺達も礼はしたいが…生憎ないんだ、色々と」
老人の言葉には、恥ずかしさが混じっていた。
物資、資金、その他様々な分野に於いて足りなさ過ぎる。
それが地下レジスタンスの実情であった。
 暫く、この組織に傭兵として雇われたエグだったが、例の機体でこそなかったがフライトナーズ機と数度の交戦を経験し、何れも撃退に成功している。
撃退する度に、企業部隊の襲撃率が上がっていったが、他武装組織の襲撃率が激減したのは自分の力を恐れたからだろうか、と誇らしげに感じる。
同時に傲慢だとも思った。
 何にせよ、武器調達が出来たエグは、ナストロファージの整備が行き届いた状態で、地下都市を渡り歩ける様になった。
 溜まった資金で購入したのは、半ばスポーツカーの様な性能を持った企業部隊が昔使用していた戦闘区域を高速突破する為の戦術トレーラーと呼ばれる物だった。
火力は申し分なく、自動迎撃機能がある事からエグは、これを援護として旅の間、襲い掛かる様々な脅威を排除して来た。
 そんな旅を続けている内に、色々な所で依頼を受けて来たエグに、企業のスカウトが来た。
「是非、我が社コンコード社が運営するレイヴン管轄組織に――」
大方の決まり台詞が、耳に入った所で、その言葉を遮る。
「――素性の調査はしたのか?」
「どうせレイヴン…傭兵です。
傭兵なら余程騒がれている場合でなければ特に問題はないですから」
「…成程。
 それなら良い。
 話を戻す。
登録する、しないは現状で判断しきれない。
取り敢えず、したらどんな感じなのかを知っておく必要がある。
登録の有無は、それで判断する」
 相手の表情は少々強張った、呆れの含まれた物へ変化する。
企業連中と称される彼らは、レイヴンを下に見る社員が殆どらしく、その殆どが地上コロニー市民である。
又、コロニー市民自体、その色がかなり強く、特に抗争関係に対しては「低能だ」と一言嘲笑うのみである。
コロニーと地下世界の結び目たる区域別巨大エレベーター両都市周辺は、専ら、この辺の小競り合いが多く、最近は特に地下都市市民が武装してコロニーで暴れる事が多くなった為、その大半が稼働停止に陥り、運営中止になったエレベーターの数は辛うじて供給の回っていた地下世界の循環システムへ打撃を与え始めてすらいる状態らしい。
そんな地下世界で活躍しているレイヴンは、社員達には如何見えるか。
「…登録しない場合、他の武装勢力と同等とし、同様の対応を取ります」
「取る時は、か?」
エグは地上出身のレイヴンだ。
無論、それは伏せてあるし、出身を含め地上レジスタンス・レイヴンである事等整備の恩のある彼らにさえ言っていない。
 「…地上でいざこざがあった場合、地下レイヴンに依頼は来るのか?
鎮圧依頼とか」
「その類は地上レイヴンに優先して依頼させて頂いております」
「ふうん」
つまり、簡単な仕事や安い報酬しか来ない可能性が高い可能性が高い。
そして、その発言の色から察するに、「従わないと殺す」と云う方向性なのだろう。
(…登録…。
まあ、如何にでもなろう)
地下世界には沢山トンネルと繋がった地区がある。
その地区での依頼があれば、地区侵入の口実になる。
後は何度か下調べがあれば問題ないだろう。
 「――尚、登録して頂ける場合、衣食住は此方で確保させて貰います」
スカウトマンの黒い笑みに、エグは内心舌打ちした。
(確保じゃなくて管理だろう。
衣は兎も角、食も管理されるのか!?)
これでは牢獄に入れと言っているのと同義ではないか!!
そんな怒りが胸の奥で、ぐつぐつとマグマを大きな窯で熱するかの様に煮えたぎる。
 「三日後です」
「あ?」
突然の言葉に、思わずガラの悪い声が漏れてしまう。
「ああ、三日後に返答がないとノーと判断する、そうだな?」
「はい」
「じゃあ、ノーで。
俺に地上で戦える様な腕を持つと確信しているなら、話は別だがな。
まあ、力はそっちが上だ。
煮るなり焼くなり窯は用意してあるんだろう?」
だからと言って、素直に従う訳がなかろう。
そう心の中で付け加える。
「…其方がそう仰るなら」
「三日後だな」
「ええ」

 その翌日。
ふと思いついたエグが、過去回って来た様々な武装集団へメールで事の次第を相談した所、思いの他物凄い軍勢が出来上がってしまった。
幸運にもフライトナーズから逃げた際のビルの地下格納庫が思いの他広かったので、兵器の全てを格納する事が出来たのだが、当然企業を刺激し、コンコード社だけでなく他の企業部隊も送り込まれてしまった。
「な、何でこうなった…?」
ナストロファージのコクピット内でエグは悩んだ。
確かにメールを送った件数は数十に及ぶ。
かと言って、まさか全組織が、それも全力を注いで援軍を回してくれるとは思わなかった。
「何故高がレイヴン一人に、こんなに集まってくれるんだ?
そんなにカリスマがあるのか、俺は?」
多分ない。
それがエグの結論だった。
 爆薬はエグが集めたもの以外の、各組織から集められた物がある為、かなり爆弾を制作出来た。
既に何度も何度も交戦を繰り返しているので、敵の進行ルートは大体予想可能だ。
 もう引き返せない。
頭の中で諦めるべき物を整理する。
諦めざらぬ物と、諦められない物も整理する。
それを以て通信回線で演説する。
「皆で地上迄生きて出る。
トンネルへの進攻を開始するぞ!!」
 余りにも短い演説。
しかし、演説とさえ言い辛い筈の言葉は、一斉に通信回線を歓声で賑わせた。
『行くぜ、エグ!』
中にはレイヴンさえいる。
只のACパイロットも居ればエグと一緒に雇われて仕事した仲間も居る。
後者は地下世界内での戦力提供を行う事で利益を得る組織で、仕事場を地上に移そうと計画していた所に、彼と一緒に仕事した仲間がメールの事で相談し、結果、組織ぐるみで地上進出軍勢として、これに参加する事になった。
その絆は、この時代に於いて非常に珍しい程強く結ばれていた。
 「いざ、地上へ!!」
『明るき太陽降り注ぐ大地へ!!』
それが、この軍勢の謳い文句である。
雄たけびを上げた軍勢が今、地上へ向けて大行進を開始した。

 『ぐああ!!』
『何て数だ、抑えきれない!!』
『それより敵ACの動きが可笑しい!!
何なんだ、あの動きは!!』
トンネル内で怒涛の攻撃を受ける企業部隊。
その中でもエグ達レイヴン部隊は敵部隊の予想を超えた動きで次々と敵MTを処理していった。
 四脚のバズーカ腕部のACが躍り出る。
機体名をスカルフォックス、レイヴン名をシャドーミラ。
オーバードブーストで狭いトンネルを駆け抜ける。
『うわあ、て、敵が…ACがか、壁をブーストダッシュしやがったァあ!!』
華麗な壁走りで敵弾幕を回避、両腕から時間差で放たれる衝撃力に特化したバズーカ弾が次々とMTを潰す。
 狭い所でミサイルを放たれれば、壁から離れて急激な動きの中でバズーカを命中させ発射元を潰す。
背後に敵が居れば四脚自慢の旋回力で反転し、進行方向そのままにバズーカを命中させる。
彼の凄い所はブースト制御にあり、フロートの様な旋回攻撃に敵は唖然としてしまう。
それは企業側レイヴンも同じだった。
『あれがACの動きだと!?』
『じゃあ俺らのACは何だ!
あんな動き、モーションなんかあっても邪魔な筈なのに!!』
『無理だ、離脱する!
強すぎる、お前らもそうしろ!!
無理だぞ、これ!!』
『畜生、不公平だろ…』
『俺達をゴミの様に…』
『駄目だ。
逃げても…無理だ!!
撃て、撃ちまくれ!
相手も人間だ、倒せない筈ないだろう!!』
 『無駄口叩くな、敵――』
敵ACが来る。
そう言おうとした瞬間、レーザーでMTの上半身が消された。
レーザーの発射元、敵MT部隊が接近、近距離から数によるバルカン攻撃とロケット攻撃が始まる。
 『俺らはトンネルの事なら全部知ってる』
その言葉と共に放たれた弾丸がマシンガンからミサイルへ切り替えていた敵MTの頭部を破壊。
それを皮切りにガトリングガンが掃射され、ミサイルに引火したのか大爆発する。
 爆炎の中から現れたナストロファージのレーザーブレードが敵ACの左腕を切り裂き、スカルフォックスが慌てた所をバズーカで一閃、すれ違い様に奥の一機、そして背後の一機をバズーカで撃破し、オーバードブーストでナストロファージの後を追う。
後から高機動MTがフロントブーストで追い、後ろの敵へミサイルを発射、牽制する。

 合流地点で落ち合った彼らを待っていたのは巨大兵器だった。
狭い所ばかりをルートとして使用して来たエグ達に機動力の高いACには寧ろ荷が重いと感じたのだろう。
証拠として大火力の機動力を捨てたACが多い。
其処でエグ達は、最寄りのプラントを調べた。
如何やらレジスタンスコロニーのプラントの様だ。
「上手く取引して、次の旅の準備と行こうか」
13/03/07 12:49更新 /
前へ 次へ

■作者メッセージ
書き加えました。

執筆中、休止状態にして一晩過ごしたら、セキュルティーシステムの自動更新で内容がパァになりました。
更新の度にウィンドウを勝手に閉じないで下さい、くそったれぇええ!!
 尚、本話『逃走』は実は途中です。
中途半端な状態での送信は嫌なんですが…。
流石に内容パァが怖すぎるので。
まあ、流石に更新したばっかで再びパァはないんでしょうが、やっぱり恐怖です。
後日、書き加えます。
今後、夜を過ごす時は、更新して朝になったら再び…。
誤字があったら後で直します。
学生なんで登校時にも投稿したいです。  ――洒落じゃないよ?

TOP | 目次

まろやか投稿小説 Ver1.50