やまのはな 日本語だけ  

更新:2013年2月10日(2002年11月10日頃開始)  このページの最後へ

 

    方丈記(鴨長明、講談社文庫、川瀬一馬注)より

  
七 煩悩の俗世間

 すべて世の中にありにくく、わが身とすみかとの、
はかなく、あだなるさま、またかくのごとし。
いはんや、こころによる、身のほどにしたがひつつ、
心を悩ますことは、あげてかぞふべからず。

 もし、己が身、数ならずして、権門の傍に居る者は、
深くよろこぶことあれども、大きに楽しむにあたはず。
嘆き切なる時も、声をあげて泣くことなし。
進退やすからず、起居(たちゐ)につけて。恐れをののくさま、
たとへば、雀の鷹の巣に近づけるがごとし。
 もし、貧しくして、富める家の隣にをる者は、朝夕、
すぼき姿を恥ぢて、諂(へつら)いつつ出で入る。
妻子・童僕のうらやめるさまを見るにも、福家の人の、
ないがしろなる気色を聞くにも、心、念念に動きて
時として安からず。
 もし、狭き地にをれば、近く炎上ある時、その灾(さい)を
遁(のが)るることなし。もし、辺地にあれば、往反煩ひ多く、
盗賊の難甚し。また勢ある者は、貪欲深く、
独身なる者は、人に軽めらる。財あれば、おそれ多く、
貧しければ、恨み切なり。人をたのめば、身他の有なり、
人を育めば、心、恩愛に使はる。
世に順へば、身苦し。順はねば、凶せるに似たり。
何れのところを占めて、如何なる業をしてか、しばしも、
この身を宿し、たまゆらも、心を休むべき。

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