更新:2013年2月10日(2002年11月10日頃開始) このページの最後へ
方丈記(鴨長明、講談社文庫、川瀬一馬注)より
三 治承の旋風
また、治承四年四月の頃、中御門京極のほどより、大
きなる辻風起りて、六条わたりまで吹けることはべりき。
三・四町を吹きまくる間にこもれる家ども、大きなるも、
小さきも、一つとして破れざるはなし。さながら平らに
倒れたるもあり、桁・柱ばかり残れるもあり。門を吹き
放ちて、四・五町が外に置き、また、垣を吹きはらひて、
隣と一つになせり。いはんや、家の中の資財、数を
尽くして、空にあり、檜皮・葺板の類、冬の木の葉の、
風にみだるるがごとし。塵を煙のごとく吹きたてたれば、
すべて目もみえずおびただしく鳴りとよむほどに、
もの言ふ声も聞えず。かの地獄の業の風なりとも、
かばかりにこそはとぞおぼゆる
家の損亡せるのみにあらず。これをとりつくろふ間に、
身をそこなひ、片輪付ける人、数も知らず、
この風、、ひつじの方にうつり行きて、多くの人の嘆き
なせり。辻風は、つねに吹くものなれど、かかることやある。
ただことにあらず、さるべきもののさとしかなどぞ、
うたがひはべりし。
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