更新:2013年2月10日(2002年11月10日頃開始) このページの最後へ
方丈記(鴨長明、講談社文庫、川瀬一馬注)より
一 序
行く河のながれは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、
ひさしくとどまりたる例なし。世の中にある人とすみかと、
またかくのごとし。
玉敷の都のうちに、棟をならべ、いらかをあらそへる、
貴(たか)きいやしき人の住居は、世世をへて尽きせぬものなれど、
これをまことかとたづぬれば、むかしありし家はまれなり。
或は去年(こぞ)焼けて今年つくれり。或は大家ほろびて小家となる。
住む人もこれにおなじ。ところも変わらず、人も多かれど
古へみし人は、二三十人が中に、わづかに一人・二人なり。
朝に死に夕に生るるならひ、ただ水のあわにぞ似たりける
知らず、生まれ死ぬる人、何方(いずかた)よりきたりて、
何方へか去る。また知らず、仮のやどり、誰がためにか
心をなやまし、何によりてか目をよろこばしむる。
その主とすみかと無常をあらそふさま、
いはば朝顔の露にことならず。
或はつゆ落ちて花残れり。残るといへども朝日に枯れぬ。
或は花しぼみてつゆなほ消えず。
きえずといへども夕を待つことなし。
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