ハデハデなキノコは毒キノコ


 

 超有名な迷信。毒キノコはコレラタケ、ツキヨタケなどのように地味なものがほとんどで、ドクベニタケやカエンタケのようなハデハデな毒キノコはごく一部にすぎない。
 逆にタマゴタケ(ベニテングタケにそっくり)やベニヤマタケ(毒々しい赤色)、ムラサキアブラシメジ(紫色で粘膜あり)やシロマツタケモドキ(見事に真っ白)のように派手な食用キノコは掃いて捨てるほどある。例えばツキヨタケは椎茸にそっくりだが毒キノコである。また、猛毒のクサウラベニタケはウラベニホテイシメジ(食用)にあまりにも似ているため、「メイジンナカセ」の別名を持つ。さらに、毒キノコのカキシメジと食用のチャナメツムタケの判別には顕微鏡による胞子の検査が必要で、肉眼では判別できない。

 この迷信は、有名な毒キノコであるベニテングタケがハデハデな一方、有名な食用キノコである松茸・椎茸・ブナシメジ、舞茸・エリンギ・アサヒダケなどがたまたま地味であることからきていると思われる。

 匂いもあてにならない。ムラサキシメジは甘いよい香りがするものや腐った干し草のような臭いのするものもあるがいずれも食用である。なお、これによく似たウスムラサキシメジは毒キノコなので注意がいる。

 そのほか、虫がついているのは大丈夫とか、縦に裂けると大丈夫とか、煮るときに銀のスプーンを入れて黒くなったら平気だとか、そういう「毒キノコ判別法」はすべて迷信なので一切信じてはいけない。キノコ狩りのときはレンジャーを雇うか最新のキノコ図鑑を持っていくこと。

 また、ナスと一緒に煮ると無毒化するとか、塩漬けにすれば食べられるなどといった「無毒化法」もすべて迷信である(但し塩漬けにすれば食べられるものもある。それが何かはあえて書かない)。
 そもそも、キノコの毒にはアマニタトキシン群、イルジン群のような細胞毒から、ムスカリン、イボテン酸のような神経毒、さらにはシロシビンのような幻覚性物質まで多種多様なものがあるのに、解毒法が一様である方がおかしいのである(なお、シロシビン類を含むキノコ、いわゆるマジックマッシュルームは、現在麻薬等取締法で採取・所持が禁止されている)。
 ちなみにキノコの毒にはトリカブトなんぞよりずっと強烈なものもあり(トリカブトの毒成分アコニチンの致死量は0.4r、アマニタトキシン群のひとつ、アルファ・アマニチンは0.1r)、なかでもカエンタケに含まれる「トリセコテン」という毒素は、食さずとも手で触れるだけでも炎症を起こす(もちろん食せば死ぬ)。しかもこのトリセコテンに近似するトリセコテン化合物は、かつてベトナム戦争のとき化学兵器として使用されたというシャレになってない強烈なエピソードを持つ猛毒だ。
 このカエンタケ、見た目からして凄まじいほど毒々しく、先述のように触るのもダメというデンジャラスなキノコだが、なぜか毎年中毒死者が出る。まぁ、食用のホウキタケに似ていると言われれば似ていないと言えないこともないような気がするが、そもそもあんなもの口に入れる人はアタマおかしいと思う。
 万が一毒キノコを食べてしまったら、応急処置(ともかく吐かせる)をして、食べたキノコを専門の医師に見せて一刻も早く処方を受けること。

 ところで、毒キノコの代名詞となっているベニテングタケは、実はそれほど毒性は強くない。しかも「ある処理」をすれば食用になり、長野県上田市・真田市周辺では普通に食されており、濃厚な味で大変美味との事。現地で聞いた話では、かつては生食大会などもあったらしい。
 というのもベニテングタケの毒成分であるイボテン酸は、毒であると同時に食用キノコにも微量に含まれるキノコ全般の旨み成分でもあるからだ。その処理方法はあえて書かないが、興味のある方は一度行ってみてはいかがか。ちなみにメトセラは上田市・真田市にシーズン狙って行ってみたがベニテンを採取できなかった。またいつか行ってみようと思っている。

 毒キノコについてはこれほど多くの迷信が罷り通っているが、これは天然毒の中毒のうち毒キノコによるものが70%を占めるなど、毒キノコの危険が身近で関心の深いものであるからだと思われる。