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>>過去のマルタケ

 女学生は、会員制の女子大生クラブでバイトをすることになった。サークルの先輩が卒業するので、その後釜として紹介されたのである。その店は、会員制のバー、スナックのようなものである。ただしいわゆる風俗店ではない。接待する女学生ホステスは客の話を聞くだけ。客は企業の管理職クラスで、会費を払ってメンバーとなっている。店内における会員の品行は厳しく制限され、それに違反すると除名される。また、店外での接触も禁止されており、電話やメールのアドレスを聞くこともご法度ということであった。

 そんなことが商売になるのかと思うが、けっこう繁盛しているらしい。管理職も上の方になると、仕事の話をしたくても相手がいない。部下は酒席でそういう話を聞かされるのを嫌うし、職場の人には話せない内容もある。家族に話しても、仕事の話題に関心があるはずもなく、聞いてくれない。日々の仕事の苦労や楽しみ、喜びや悲しみを話したくても、聞いてくれる人がいないのである。役職が上になるほど、孤独感はつのる。そんなビジネスマンが、この店にやってくる。そして、女子大生を相手に、話すのである。

 いろいろな業種の客が来て、話を聞かされるのだから、ホステスにはそれなりの素養が求められる。よく分からないジャンルの話を、上手く調子を合わせて聞くには、ある程度の知性が必要なのである。それで、その地域で一番レベルが高い大学の女学生しか採用しない。さらに、ゴルフや舞踊、華道など、一芸を身につけさせるための費用をオーナーが出資するというのだから、念が入っている。

 考えてみれば、そういう場のニーズは確かにあるのだろう。話を聞いて欲しいというのは、一つの欲求である。それを叶えることができれば楽しいし、ストレス解消にもなる。別の種類の欲望なら、風俗店へ行けばよい。巷の風俗店では満たされない欲求を、客はこの女子大生クラブで解消するのである。客にとってこの店は、他には替えられない大切な場所となっている。だから、悪さをして会員権を失うような人はいないとのことだった。

 その女学生は卒業して大手の企業に就職した。さっそく社内で飲み会があり、本部長や部長なども出席した。同期の男性社員が固くなっているのを尻目に、彼女は上役の席に行ってビールを注ぎ、会話をしたそうである。ずいぶん度胸があるねと言われたとき、「だって、あの方たち、相手がいなくて寂しそうだったんだもの」と返したとか。バイトの経験が、さっそく生かされたようである。