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>>過去のマルタケ

 我が工房は、常に散らかっていて、ゴチャゴチャな状態にある。

 この夏に来た次女の婿殿が、次女にこっそり言ったところによると、「お義父さんの仕事場、ちゃと片付けた方が良いと思うけど…」。彼は重工業メーカーの工事部門で働いていて、日頃「整理整頓」を指導する立場である。

 工房内をきちんと片付けておけば、作業能率が良い。散らかっていると、探し物に時間を取られるからである。また、清掃しておけば、安全でもある。床に散らかった残材につまづいて、よろめいた時に回転中の刃物に触れたりしたら、一大事である。だから片付けや清掃は、やるに越した事は無い。それは判ってはいるが、仕事に追われていると、つい後回しになる。そして、いったん散らかり始めれば、弾みが付いてどんどん進行する。これはいかんと気が付いても、「今さら・・・」という気になって、放置する。かくして、工房内は足の踏み場も無いほどゴチャゴチャになる。

 10月の上旬、コロナに感染して十日間の自宅待機となった。ちょうどリンゴ農園の、秋の作業の最中だったが、急遽休みを頂いた。思いがけなく、数日間の休日となったわけだが、他にすることも思い付かなかったので、工房の清掃をすることにした。前回いつやったかと言えば、そんな昔の事は覚えていない。

 工房の清掃は、二つのステージに分かれる。一つ目は、床に散らかった残材の片付け。二番目は、おが屑、切り落としの木端類、つまり細かいゴミの清掃である。

 残材は、バンドソーで適当なサイズに切って、コンテナに収納する。コンテナの中身は、最終的に薪ストーブの薪となる。この作業は、やる気さえあれば、難しさは無く、むしろ着々と進み、また薪が蓄えられるというプラスの面もあるので、それほど苦にならない。

 面倒なのは、おが屑と切り落としの小さな木片が混在しているゴミの片付けである。おが屑だけなら、集塵機のホースで吸い取れば良い。集塵機に溜まったおが屑は、袋ごと取り出して庭に撒かれ、土に混ざって肥料となる。しかし実際は、おが屑の中に木片が散らばっているケースが多い。おが屑と木片が混じっていると、集塵機を傷めるので、吸い取ることができない。そこで、木片を分ける必要がある。一つ一つ手で拾って集めるので、これはかなり面倒な作業である。集めた木片は、薪ストーブで燃やす。後に残ったおが屑は、集塵機で吸い取る。

 以上は、機械場の清掃作業に関する記述である。これまでは、これだけで済ませていた。今回は日数に余裕があるので、組み立て場の、作業台回りの清掃も行うことにした。作業台の正面は、作業の際に立つ場所なので、さすがに散らかってはいないが、脇とか裏側は、まるでごみ溜めのようで、見た目に非常に印象の悪い状態になっていたが、見て見ぬふりをして過ごしてきたのである。

 このエリアは、釘、木ネジ、針金、その他雑多な金具類が散乱している。さらに、一部の工具類や治具なども散らかっている。それらを整理し、不要な金属類を集めて処分しなければならない。金属類をゴミとして出すのは、けっこう面倒な気がしていた。それがネックとなって、ここは清掃、片付けの空白地帯となっていたのである。

 針金の切り落としや、不要となったネジ類などの細かい金属を、そのままゴミとして出すわけには行かず、金属の缶に納めなければならない。何か良い缶が無いかと探したら、見付かった。蚊取り線香の缶。丁度良い大きさである。散乱した金属ゴミを、手で拾ってその缶に入れる。これも面倒な作業だが、少しずつ時間をかけてやった。金属ゴミを取り除き、工具や治具を片付け、最後に木屑を吸い取れば作業完了。

 毎日少しずつ、数日をかけて、工房全体の清掃と片付けが終了した。機械場は、床の土間コンが見え、散らかった木材の上を歩かなくて済むようになった。組み立て場も見違えるほど綺麗になり、作業台の周りを歩いて通過できるようになった。

 綺麗になった仕事場を見るのは、気持ちが良い。整理整頓は、仕事をする際の、心理的な面でも大切な事だと、殊勝な気持ちになった。

 こんなに綺麗になった工房で木工仕事をするのは、さぞかし気持ちが良いだろう。しかし、やるべき木工の仕事は無く、待っているのはリンゴ農園のバイトだけ(笑)。こういうのを、マーフィーの法則と言うのである。

 マーフィーの法則と言えば、こんなのがあった。

 「幸せを願って木を叩こうとしたとき、身の回りのものが金属とプラスチックだけでできていることに気がつく」

 欧米には、木で作られた物を叩くと、願いがかない、幸せが得られるという伝説があり、その行為を Knock On Wood と言う。