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>>過去のマルタケ

 会社勤めをしていた頃、まだ入社3年目くらいだったと思うが、上司から初の海外出張を命ぜられた。行先はオーストリアのウイーン。用件は、CIMAC(国際内燃機学会)へ出席と、その後の欧州各地のガスタービン製造会社の視察巡り。ヒヨッコの若造が、そんな学会を聴講しても、何ら得る所が無いのは明白。つまり金の無駄使いだが、その当時は会社の景気が良かったのである。

 勤めていた会社は、ほとんどの仕事が海外向けだったので、海外出張をする社員が多かった。それで、航空券の手配や、ホテルの予約などの業務を行う、ミニ旅行社のような子会社を持っていた。旅行スケジュールを伝えて、足や宿の手配を頼むと、数日後に予定表が出来上がってきた。説明をしてくれた男性社員は、ウイーンでの滞在はザッヒャーホテルだと言った。

 いざウイーンに着いて、ザッヒャーホテルの前に立ったら、伝統を感じさせる立派なホテルだった。客室は、さほど広くはなかったが、壁にゴヤが描いたような大きな絵画が掛かっていた。たぶん本物だったろう。

 ホテルのレストランで食事をした後、カフェでデザートを頼んだ。少々大き目の、チョコレートケーキだった。とても美味しくて、印象に残った。

 帰国してだいぶ経ってから、そのケーキは有名なザッハ・トルテであったことが判明した。旅行会社の社員がザッヒャーと言ったホテルの名は、正しくはザッハだったのである。ザッハ・トルテは、日本国内でも愛好家が多く、中には本場ホテル・ザッハ・ウイーンのカフェでザッハ・トルテを食べる事に憧れている人たちもいるらしい。私は図らずも、そのような機会に恵まれたと言うわけだ。

 それにしても、あのように格式の高いホテルだから、料金も高かったろう。そんなホテルに、ヒヨッコ社員を泊まらせたのだから、これまた並外れた無駄使いであった。