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 先日完成した、注文によるキャビネット。クリ材を使い、注文主の希望により、着色塗装(オスモ・カラー)を施している。

 サイズは高さ700、幅500、奥行450である。上に置く物、中に入れる物、そして隣接する家具の寸法に合わせて、このサイズを決めたとのこと。

 本体を組み手を用いた「板指し」で作り、引出しと扉を「仕込み」で納めるという、私の定番的手法である。板の厚みは8分(24ミリ)。クリ材は、私が使う材の中では比較的軽い方だが、この頑丈な構造は、総重量20キロ近くになる。

 引き出しと扉の取っ手は、シュリザクラ材を使っている。取っ手は手垢で汚れる心配があるので、色の暗い材を使うことにしている。シュリザクラは、色が濃いだけでなく、手触りも良いので、私が作る家具の取っ手に登場することが多い。

 引き出しのスライド機構は、「吊り桟」というものを採用している。引き出しの側板の溝が、キャビネット本体に組み込んだ桟にはまって、吊られている形である。奥行き方向の位置は、引き出し前板の裏面が、桟の前端に当たって止まるようになっている。板指し構造は、本体の膨張・収縮(湿度変化による動き)が大きい。引き出しの奥の突き当りで位置決めをする方法だと、経時変化によっては、引き出しの前面が出っ張ったり、引っ込んだりして見栄えが悪くなる。

 いずれも私にとっては手慣れた手法である。そんな中で、今回特別なことをやったと言えば、扉の内側の棚の作りである。

 上の棚は、前後にスライドできるようになっている。仕込みの扉は、開いても扉の厚みの分だけ間口が狭くなる。それを考慮しないと、棚を引き出すことができない。そこら辺の細工が、ひと工夫である。

 下の棚は、途中で折れている。まるで書院造りにあるような棚の形である。背が高い本と、低い本を、効率よく収納するというアイデアらしい。このような棚を作ったのは初めてであり、実際に上手く機能するかどうか確信が無かった。それで、不要になったら、あるいは邪魔になったら、取り外せるような仕組みにした。

 連休中のある日、注文主ご夫妻が旅行の途上工房に来られて、塗装中だったこのキャビネットをご覧になった。旦那さんは、図に描いて注文したものが、実際にこのような感じに出来上がったのを見て、いささかの感慨を持ったようであった。現物の存在感というものであろうか。





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