丸太の量り方

 
 丸太を売買するときは、その体積を基準とする。重さではない。ところで、丸太というものは、基本的に円筒のような形であるから、その体積は断面である円の面積に長さを掛けて求めると思われるだろう。しかし、これが違うのである。

 材木業者が丸太を売買する際、材積(材の体積)を測るのに使われている方法を、末口二乗法と呼ぶ。末口(すえくち)とは、丸太の二つの切り口のうち、樹が立っていたときの先端に近い側のものを言う。反対側の、根に近い側を元口(もとくち)と言う。当然末口の方が元口よりも直径が小さい。樹は上へ行くほど細くなっているからである。

 末口二乗法とは、この末口の直径を二乗し、それに丸太の長さを掛けた数値をもって、丸太の体積とするという方法である。細かいことは農林規格に定められているが、基本的にはこういうことである。なんだかおかしな話である。まるで、中に丸太を入れればぴったりと納まる四角い箱の体積を、丸太の体積とみなすというのであるから、即座に納得しかねる事である。

 ここで簡単な試算をしてみよう。直径1メートル、長さ2メートルの、完全にずんどうな(円筒形な)丸太があったとする。円筒形状であるから、真の体積は0.5×0.5×3.14×2=1.57立方メートルとなる。それに対して、末口二乗法で計算すれば、1×1×2=2立方メートルとなる。実際の体積よりも、約27パーセントも大きな値の計算結果が出るのが、末口二乗法なのである。1立方メートル当たりの金額を単価とし、それに材積を掛けて値段を決めるのが材木の売買であるから、これでは買う側が大損を被ることになりはしないだろうか。

 この点について、ある材木屋に問いただしてみたら、こんな返事が返って来た。「大竹さん、それは違います。買い手が損をすることなどありません。丸太というものは、必ず末が元より細いのです。その細い末口の寸法で測るのだから、これはむしろ、買い手側に有利なのです。経験的に見て、そういうことが言えると思います」と言うのである。

 円筒の両端の面の大きさが違う形の立体を円錐台と呼ぶ。その体積の公式を使って検証してみれば、末と元の直径の比がおよそ1.24となる場合に、末口二乗法による計算結果は、真の体積とほぼ一致する。それよりも比が大きい場合、つまり元口の直径が末口の直径の1.24倍よりも大きい場合は、買い手が得をすることになる。その逆の場合は、買い手が損をすることになる。くだんの材木屋の見解では、丸太というものは、元と末の直径の差が大きいものだから、買い手が得をすることの方が多いと言うのである。

 丸太は、「まん丸、まっすぐ」が良いとされる。ついでに、元と末の直径の差が少ない事が良しとされる。つまり、円筒形に近いものの方が価値があるのである。それは、板や角材を切り出す時に、無駄となる部分が少なくなるからである。杉や檜の植林地では、なるべく下から上まで直径が変化しないような樹に育てるべく、いろいろな工夫をしていると聞いたことがある。ところが、末口二乗法では、円筒に近い丸太ほど買い手にとって不利になる。いつも丸太を良く見て、円筒形に近いものだけ選んで買っている木工家がいたとしたら、その人は常に3割ほど損をしていることになる。これはやはり木工家にとって意地悪な制度だと言えるだろう。

 何故このような理不尽な方法が使われて来たのか、私は学者の先生方にもお尋ねしたが、今までのところ明解な回答は得られていない。ただ、海外には別の量り方もあるそうだとは聞いた。私は、国内の樹木の一般的形態からして、末と元との寸法の差に、ある一定の関係が存在するのかとも思った。そこら辺もある大学に問い合わせてみたが、あいにくデータは入手できなかった。針葉樹材なら、そのようなことから末口二乗法が妥当性を持っている可能性もあると考えたのである。長さが4メートルとか6メートルの長い丸太であれば、末と元の直径の比が1.24くらいになることは、あり得るかも知れない。植林で作られた針葉樹には、形態にもある程度そろった部分があり、標準化して考えられる部分が有ってもおかしくはない。そんなことから、山元と材木屋、そして材木屋どうしの間に、末口二乗法が簡便でリーズナブルな材積計算法として認知され、伝統的に使われて来たのかも知れない。そんなふうに、私なりに思いをめぐらしてみた。当っているかどうかは、分からない。

 

(Copy Right OTAKE 2003)

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