鉋台の仕込み
2月26日、工業デザイナーA氏に誘われて、名古屋の青山鉋店へ取材に行った。
店主の青山氏は、鉋の台に刃を仕込む職人である。ユーザーと顔を合わせて、希望通りに鉋を作る仕事は、おそらく全国でもほとんど残っていないそうである。
その作業工程を見学させて頂いた。
鉋のは刃、鍛冶屋が作るわけだが、同じように見えても、微妙に寸法や形状が違う。それを、木の台に仕込む。木にも当然癖がある。だからその作業は、機械にまかせた加工では限界がある。刃がピッタリと台に納まるためには、手加工がいまだに最良の手段だと思われる。
お店は市内の商店街にある。外観は普通の道具屋。
店内には、いろいろな刃物や大工道具が並んでいる
売り場の奥の部屋が、作業場。
仕込み作業は、この小さなスペースで行われる。
この画面の右奥に、板を木取りする木工機械や、刃を研ぐ設備がある。
加工工程を、順を追って紹介しよう。
まず、台を選ぶ
材はカシ(シラカシ)
刃を仕込む勾配を墨付けする
刃の輪郭を写す
マーキングは全て「墨さし」を使う
ドリルで荒堀りをする
この日使った電動工具は、このボール盤だけ
ドリルの穴を目印にして、ノミで掘る
使う玄能は、250匁。これくらい重い玄能でなければ、効率良く掘れないという
刃口は反対側(下端)から掘る
まっさらな材面にノミを立てるシーンは、感覚的にギョッとするものがある。
掘り込みを、突きノミで仕上げていく
刃が納まる溝を、ノコギリで切る
ここまでの加工で、こんな感じになる
溝を、細い突きノミで削る
いよいよ刃を入れる
背側に油を付け
プラスチック・ハンマーで叩いて入れる
プラスチック・ハンマーを使うのは、刃に傷を付けないため
最初は、刃の半分までも入らない。
刃を抜いて台を削り、また刃を入れて様子を見るということを、何十回も繰り返す。
「ここからが長いんですよ」と氏は言った。
削る目印は油の跡。油が付いている部分は刃に当たっているから、そこを削る。その作業を繰り返すうちに、刃はだんだん深く入って行く。
このように、「当たり」を見ながら刃を仕込む際に、よく使うのが墨や鉛筆。油を使うというのは今回初めて見た。青山氏は、油は台が汚れないから良いと言う。また、刃の方の油の光り具合でも、当たりがチェックできるとのこと。これも初めて知った。
刃の仕込がだいたい終わると、裏金の仕込みに移る
裏金の厚みを墨付けし
押さえの金棒を入れる穴を開ける
この穴を、丁度良い位置に開けるのが、けっこう難しいそうだ。
台を削って、綺麗にする
鉋を作る職人だから、鉋がけはさすがに上手い。
裏金の耳を叩いて、押さえの具合を調整する
かくして、完成
ガンガンとノミで掘る荒っぽい加工から始まったが、出来上がりはとても美しい。
また、刃口のスリットは、糸のように細い。
まさに名人の技である。
(Copy Right OTAKE 2011.3.8)