使い込んだ家具



 見知らぬお客様が我が家へ来た。使っている椅子を見て、買いたいと言った。同じものを新品で作りましょうかと申し出たが、その現物が欲しいという。中古品に相応しい値段でお渡しした。

 たまにこういう方がおられる。現物主義ということなのか、それとも使い込まれた物に魅力を感じるのか。

 現物主義と言えば、こんな人もいた。ある場所で私の作品(小テーブル)を見て、同じものが欲しいのだが、在庫が有れば見たいと言う。私が、在庫は無いけれど、作りましょうか、と言うと、それなら要りませんと断られた。

 木は自然素材であり、多かれ少なかれ個体差がある。そこが工業的に作られた材料と大きく違うところである。製品の寸法、形状を同じに作っても、見た目の印象を全く同じにすることはできない。

 金属やプラスチックで作られた工業製品なら、同じものを並べてどちらが好きですかと聞いても意味が無い。ところが、木製品の場合は、そこに判断の余地がある。人によって感じ方の差はあるだろうが、大方の人は木目の表情を読み取って、どちらが好きか決めるだろう。

 そういう意味では、木工品を求める場合、現物主義という方針があってもおかしくはない。同じように作られていても、細かく見れば差があるのだから、自分の目で見て気に入った物を手に入れたいという考え方。それも一理あるだろう。

 しかしこのやり方は、現物が無ければ通用しないから、結局何も手に入らないということにもなりかねない。上に述べた小テーブルのケースなど、まさにその例である。その人は、いったい何が欲しかったのだろうか。

 さて、冒頭に述べた話は、使い古したもので良いというのだから、さらに奥が深い。使われてきた物には、それなりの価値があるということなのだろう。

 当然だが、一般的には新品が好まれる。それは何故かと考えれば、傷や汚れが無いということだろう。しかし、傷や汚れが付いていても、物の価値に変わりが無いと割り切れば、実際は何の問題も無い。木工家具は、鏡やレンズのように、傷や汚れが有れば商品価値が失われるというものではない。

 中古品は経年劣化で品質が下がっている、と心配するのも普通であろう。車や家電製品なら、そういう事もあるだろう。しかし、木工品の場合は、むしろ逆でもある。

 木工家具は、四季を一回り過ごせば大丈夫だなどと言われる。木は気温、湿度の関係で膨張・収縮を繰り返す。乾燥した冬と、湿っぽい梅雨時では、細かい所で寸法が変化する。使い始めは調子が良かった引出しが、半年後にはきつくなったりする。それを見越して製作をするのだが、実際には使用環境に置いてみなければ分からない。一年間使ってみてトラブルが無ければ安心できるというわけだ。

 また、乾燥が不十分な材木を用いた家具は、使用を始めてから狂ったり、ガタが来たりすることがある。家具店の売り場で、引出しの前板が外れた箪笥を見たことがある。テーブルの甲板が凸や凹の曲面になった例も、何件かのお宅で目撃した。いずれも、製作した時点では問題無かったろうが、時間が経つにつれて狂ってしまったのだ。逆に考えれば、ある程度の年月を使って問題が生じない家具は、正しく作られた事が証明されたと言える。

 家電製品などは、保証期間が1年間だったりする。それは、1年間は故障をしても無料で修理をします、言い換えれば、1年間は壊れませんということ。裏を返せば、その期間を過ぎれば、故障が起きても当然だということになる。

 木工家具の場合は、1年間使って問題が無ければ、品質が保証される。使い込んで正常な家具は、品質が高いことの証しである。

 中古品と言うと聞こえは悪いが、使われてきた家具で、問題なく機能し、狂いもガタも無く、しかも気に入った風合いのものが有れば、手に入れる価値があると言えよう。そういう買い方も、正しい木工家具の買い方の一つのように思われる。 




(Copy Right OTAKE 2011.1.20)