ホゾ加工の治具


 最初の画像は、昇降盤(丸ノコ盤)を使ったホゾ加工のデモンストレーションである。部材を縦にして両手で保持し、フェンスに沿わせて前方に送り、丸ノコで切り込む。技術専門校で習った方法であり、我が国の木工現場では一般的な方法だと思う。私も開業当時はこの方法を使っていた。しかし、横切り盤という、移動テーブルを備えた機械を導入した時から、やり方を変えた。理由は、元の方法では加工精度のムラが出るということと、部材の寸法や、切り込み深さによっては、危険を感じたからである。

 現在は、横切り盤の移動テーブルに、手製の治具(加工用の補助具)を取りつけてやっている。二枚目の画像がそれである。加工する部材は、クランプで治具に固定する。この方式だと、加工精度は均一に保たれる。しかも、怪我をする心配が無い。このような治具を外国ではTenonn Jigと呼ぶ。直訳をすれば、「ホゾ治具」となる。部材をクランプで固定して加工するということが基本概念になっている欧米の木工では、こういう治具が一般的に使われる。移動テーブルが無い丸ノコ盤でも、同様の原理のものを使うことが多い。

 日本の伝統的な木工では、部材をクランプで固定するということが無かった。ネジというものが無かったせいもあるだろう。部材を固定するには、手で押さえたり、足で挟んだりした。それはそれで、味のある木工の世界ではあると思う。しかし私は、工業系の大学を出た背景もあってか、欧米流の合理主義に傾いている。

 このホゾ治具を使った加工の欠点は、クランプを掛けたり外したりに時間がかかることである。普通、ホゾは部材の両端にあることが多く、一本の部材で4回クランプを掛け替えることになる。部材の数量が少なければまだ良い。何十本という単位になると、時間のロスは馬鹿にならないし、心理的にもうんざりしてしまう。我が国の伝統木工の職人だったら、「こんなとろいことやってられっか!」と言いたくなるかも知れない。

 そこで登場するのが、下の画像の治具である。これはホゾ治具に取り付けて使われる。クランプの代わりに、ワンタッチで部材を固定するためのものである。 

   



 部材をホゾ治具に押さえ付けて固定する役目は、円盤状の物が担う。その円盤は、中心を外れた所に軸が通っている。つまり偏心した回転円板である。レバーがホゾ治具の反対側へ倒れているときは、円盤と部材との間にすきまが有る。レバーをホゾ治具の方へ持っていくと、円盤の半径が大きくなって、部材を圧迫し、固定する。このような仕組により、ワンタッチで部材の固定ができる。




 良く考えられた仕組みだが、私のオリジナルではない。どこかで見た外国文献をヒントにして、真似して作ったものである。こういうことを考えるのは、たぶん欧米人が得意とするところなのだろう。あるいは、いろいろな方法で物を固定する技術が、昔からあったのかも知れない。しかも、固定するだけでなく、締めたり外したりがワンタッチでできるところが、合理的である。ともあれ、こういうものを使うと、とても能率が良い。それに作業が楽しくなる。作業の楽しさというのは、工夫によって支えられる面が大きい。









 ところで、ついでに説明しておくと、円盤の先に、垂直に降ろされた薄い板がある。これは、切り落とされた木片を、手前に回収する目的で設置されている。丸ノコの回転刃で切り落とされた木片は、その場に留まったり、風圧で飛ばされたり、挙動が一定しない。その場に留まったものが回転刃に巻き込まれると、刃に衝撃が加わって、切断面を荒らしたりする。また、粉砕された木片が飛び散って危険でもある。

 だから、回転刃のそばに留まった木片は、次の部材を送る前に取り除かなければならない。直接手で触れるのは、すぐそばで回転刃が回っているから、危なくて出来ない。普通は細い棒などではじいて取り除く。それでも、棒が回転刃に触れると怖いから、慎重を要す。加工する部材の数量が多いと、この動作もけっこう煩わしい。

 この垂直の板を設置すれば、移動テーブルを手前に戻すのと同時に、木片は板で押されて自動的に手前に移動する。回転刃から離れた場所なら、手で触れて処理することができる。こんなことでも、実際に使ってみれば、便利である。ちなみに、板を薄くしてあるのは、万一何かの加減で板が回転刃に触れるトラブルがあったとしても、容易にぶっ壊れて大事に至らないようにするためである。



(Copy Right OTAKE 2010.2.9)