木屑  


 右の画像は自動鉋盤。機械から出ている太いホースは、集塵用のものである。ホースは他に1本あり、帯のこ盤や横切り盤などに、繋ぎ替えて使っている。これら2本のホースが下流で1本にまとまり、屋外の小屋に設置されている集塵機に繋がっている。自動鉋盤だけ専用にホースが有るのは、この機械から出る木屑の飛び散り方が最も激しく、集塵機を設置する必要性の一番がこの機械のためであることによる。

 木工機械から出る木屑の粉塵は、おろそかにできないものである。これで健康を害した木工家は、大勢いるだろう。かく申す私も、開業して5年目くらいに、気管支炎で入院した。原因は、木屑の粉塵による、アレルギーだった。その病気は、幸いにして全快したが、それからは機械作業をする時は、必ず防塵マスクを着用するようにした。

 集塵機を使っても、マスクをしなければ粉塵の害は避けられないが、集塵機が無ければ、工房の中はひどいことになるだろう。それくらい、木工機械から出る木屑の量は多く、また粉塵は激しく飛散する。

 集塵機を接続できない機械もある。そういう機械から出る木屑は、繋ぎ替え式のホースを使って、床から吸い上げる。電気掃除機の巨大版である。この使い方も便利である。箒とチリ取りで掃き集めるのに比べれば、はるかに能率が良い。

 集められた木屑は、集塵機の中で大きな布袋にたまる仕組みになっている。それが一杯になると、袋を外して運び、中身を捨てる。敷地の中の決まった場所に捨てるので、木屑が小山のようになっている。それを少しづつ崩して、庭や畑に撒いたりする。それが次第に土に還る。発生する木屑の方が、消費する木屑より多ければ、木屑の山はだんだん大きくなって、手に負えなくなるのではと思うが、上手い具合にバランスしているらしく、小山の大きさはこの20年間でほぼ一定している。

 以前は木屑を庭で燃やしたこともあった。ところが最近は市の規則で野焼きが規制され、木屑は燃やせなくなった。枯れ草、枯れ枝、剪定木は燃やして良いし、農家のモミ殻も許されている。木屑だけ燃やしてはいけないというのは、不公平な感じもする。しかし、木屑は燃やし難いものであるし、以前木屑の燃え残りから危うく火事になりかけたので、燃やす事は諦めた。

 日常的に出る木屑の、何か良い利用法は無いものかと思う。

 以前、ある年配の男性が、少し分けてくれと言って来たことがあった。工房の前を通りかかり、木屑の山を見て、思い立ったそうである。いくらでもどうぞと答えたが、大した量は持っていかなかったようだ。何に使うのかは、分からない。それ一回きりで、後は来なかった。

 木屑を押し固めて、薪にすることができれば具合がよい。そう思って、実験をやりかけたこともあったが、そのうちに忘れてうやむやになってしまった。こういうことは、それなりの設備と態勢で臨まなければ、中途半端で手間と時間ばかり掛ってしまう。それほど、出る量が多いのである。結局、庭や畑に撒くのが、一番手っとり早い。かさばる木屑も、土に混ぜて分解されれば、燃やした後の灰と同じで、ほんのわずかの量でしかない。もっとも、燃やすのと違って、分解するまでにずいぶん時間がかかるが。

 ほんの少量なら使い道もある。

 同居していた母は、枕の半分くらいの大きさの布袋を作り、その中に乾燥した木屑を入れ、居室の壁際にぶら下げて、除湿に使っていた。どれほどの効果があったかは分からないが、なんかエコっぽくて微笑ましい光景ではあった。

 家内は、冬場の野菜の保存に利用している。冬はネギや大根を地中に活けておけば乾燥しないと言われるが、この地域では地面が凍結することがあるので具合が悪い。それで、段ボール箱に木屑を入れ、そこに野菜を埋めておく。こうすれば、家の中に置いても、野菜が乾燥しない。木屑は良く乾燥しているものだから、逆に水分を持って行かれるのではないかと思ったが、実際には空気にさらすよりも乾燥が防げるのである。

 そういえば、ドイツの木工家、ロクロ細工の名人であるジークフリート・シュライバー氏と技術交流を持った時に、似たような事を言っていた。ある程度の大きさの品物をロクロで作る場合、一気に加工すると、割れたり変形したりして具合が悪い。そこで、段階的に加工をして、その間に乾燥の期間を入れる。それでも、デリケートな形状の品物は、割れが入る恐れがある。そこでシュライバー氏は、木屑の中に埋めて保存することを思いついた。こうすれば急激な乾燥を避けることができ、割れが入らずに済むのではないかと。結果は上々だったと氏は語った。

 木を削って物を作るということは、目的とする物の回りの木材を取り除くということである。取り除いて、いきなり空気に触れさせると、変化が大き過ぎる。そこで、木と空気の混合物である木屑で包むことで、ワンクッション置く。それは理に叶ったことなのであろう。





(Copy Right OTAKE 2009.1.26)