ラメロ
ラメロ(Lamello)というのはドイツ製の電動工具である。これは固有名詞であり、こういうタイプの電動工具を一般的にはビスケット・ジョイナーと呼ぶ。ジョイナーとは、接続加工をする道具の意。ビスケット・ジョイナーを直訳すれば、ビスケットで接続する道具ということになる。
木材を接続するには、凸と凹を組み合わせるのが基本である。接着剤や釘などを用いない場合は、この方法以外に接続する手段はない。接着剤を使う場合でも、凸と凹の組み合わせと併用すると、接合強度が大きくなる。
凸と凹は、部材に切り込んで作るのが伝統的な方法である。例えば、片側の部材にホゾを作り、相手側にホゾ穴を掘る。あるいは片方に溝を掘り、相方に長い舌状の加工をして組み合わせるなど。しかし、そのように、部材に切り込んで凸凹を作るのは、技術的に面倒であり、手間がかかる。そこで、接続部の両側の部材に丸穴を開け、それに丸棒形の小木片を入れることで接続するという手法が登場する。ダボと呼ばれるものである。この方法だと、加工に要する手間は格段に小さくなる。
そのように便利なダボであるが、実際にやってみると、意外に苦労することがある。接続する部材どうしで、開けた穴がずれてしまっては具合が悪い。また、穴を垂直に開ける必要もある。つまり、精度良く、垂直な穴を、場合によってはいくつも開けなければならない。部材の形状や大きさなどによっては、これがなかなか難しいのである。
ダボのように中間介在物を使って接続するやり方を、ひとくくりに「雇い」と呼ぶ。ダボは、丸穴に丸棒の雇いをいれる接続技術である。その「雇い」に薄い木片を使うのが、ビスケット・ジョイナーである。ビスケットというのはこの場合、薄い木片を意味する。
ラメロの仕組みを説明しよう。
電動式の回転刃が内蔵されている。木材に押し当てる面には細長い開口部があり、手で保持して力を加えると、回転刃が開口部から出てきて、木材に溝を切る。通常の使用姿勢では、溝が水平方向に切られる。溝の上下方向の位置決めは、可動式のガイド板によって制御される。水平方向の位置は、回転刃のセンターを示す目印を、部材の目的とする場所に付けたマークに目視で合わせる。
接続する双方に溝を切ったら、そこに専用のビスケットを入れる。接着剤は、あらかじめ溝に入れ、ビスケットにも塗布しておく。ビスケットを挟んで、双方の部材を締め付ければ、接続作業は完了となる。
この道具の利点は、位置決めと溝掘りを同時にできるところにある。また、加工する方向が、水平でも、垂直でも、あるいは斜めでも可能である。つまり取り回しが良い。右上の画像は、水平に置いた板の木端に溝を掘っているシーンだが、これをダボでやろうとすると、穴を材面に垂直に開けるのが難しい。横向きのドリルスタンドは、特殊なもの以外は無いからである。
さて、このラメロ、使い方は色々ある。木工家によっては、かなり広範な利用をしているらしい。私は主に板矧ぎの際に使っている。それは、接続強度を増すという目的よりも、接続する板どうしの平面出しを目的としている。板の表面から溝までの寸法は、ガイド板により一定に保たれるから、ビスケットを介して強制的に位置決めがなされ、矧ぎ部の段差はほとんどゼロになる。大きな板を4枚とか5枚矧ぐばあいには、これの助けが無ければ、平面を出すのは至難の業である。
もちろん、接続強度の面でも期待はある。矧ぎ部が端から切れた場合、どこまで割れが進行するかが問題であるが、ビスケットが入っていれば、そこで割れが止まる可能性が高い。つまり、テーブルの甲板の矧ぎが切れても、割れて二つになってしまう事態が回避できるということだ。もっとも私の場合は、矧ぎが切れたというトラブルは、これまで一度も無いが。
他に、簡単な箱を作る場合などにも、ラメロを使うと便利である。ただし、機械の特性から、板の厚さ方向には位置決めが可能だが、長手方向には多少の「ずれ」が生じる可能性がある。そこのところは、テクニックでカバーするしかない。
ビスケットは、段ボール箱に1000個入ったものを購入している。そんなにたくさんの数を使い切るかと思ったが、思いの外早い時期に1箱が終わり、現在2箱目の途中である。
ビスケットの厚みは、溝にピッタリ入るように製造されているはずだが、バラつきがある。試しに溝に入れてみると、固くて入らないものもあるし、逆にユルユルのものもある。一見ピッタリで丁度良いように感じても、接着剤を塗布すると水分で膨張し、きつくなることもある。厚過ぎるビスケットは、サンドペーパーで擦って調整をする。薄すぎるものはどうしようもないから、除外しておく。どれくらいの締まり具合に調整するかは、ケース・バイ・ケースである。便利な道具でも、やはりひと手間かけることによって、最善の効果を発揮する。
(Copy Right OTAKE 2009.12.29)