クランプ


 先頃亡くなった米国の著名な木工家具作家サム・マルーフ氏は、その著書の中で「クランプを買い集めるのは、私の趣味の一つのようなものだ」と書いている。その文に添えられた写真には、様々なサイズの、膨大な数のクランプが、工房の壁にぶら下がっている様子があった。

 欧米の木工は、圧締の道具を重用する。圧締とは締め付けること。その道具とは、一口に言えばクランプである。この分野では、我が国は遅れを取っていると言えるだろう。その理由として、日本の伝統的な木工では、ネジの締め付け力を利用した加工法が無かったからだと思う。いや、ネジという物自体が、明治の世になるまで我が国に無かったのではあるまいか。


 
現代の木工家は、欧米流の技術も取り入れているから、クランプをよく使う。私も、買い集めるのが趣味ではないが、便利で使い易いものを求めるうちに、ある程度の数を保有するようになった。数えてみたら、工房の中に50ケほどあった。

 右は基本的なタイプのクランプである。和風の呼び名は、「シャコ万」という。

 サイズもいろいろ有る。オレンジ色の握りのものが二つあるが、L字形の部分の長さが5センチ違う。この差で、挟めるものと挟めないものが出てくる。

 青色のものは小型だが、あまり良い品物ではない。


 オレンジ色の握りは、断面が角の丸い三角になっている。それで、回すときに滑らなくて良い。

 赤い握りは、丸いだけだから、強く締めようとすると、手が滑る。その点では行き届かない品物だが、全体のバランスが良く、結構気に入っている道具である。





 
もう20年使っているので、ネジの先の方のよく使う所は、ネジ山がすり減っている。こうなると、まだ山が残っている根元付近しか使えない。

 「すり減り」を防ぐために、機械油を塗布する。それでも少しずつ摩耗した微細な鉄粉が、油に混じって黒いペーストのようになる。それが木材に付くと、拭いても取れない汚れとなる。その点が、要注意である。










 クランプも、大は小を兼ねるというわけには行かない。不適切に大きいクランプで小さいものを挟むのは、まことにもどかしい事で、時には失敗に終わる。

 ごく小さいクランプもある。右の画像の黒いものは、アメリカの道具屋で購入したものだが、なかなか具合が良い。これはネジ式ではなく、レバーを引くと移動部が進んで締め付けるしくみ。締め付け力は大きくないが、片手で操作できる点も便利である。















 



 長い物を締め付けるクランプは、「ハタ金」と呼ぶ。私が多く持っているのは、左の画像のクランク型のハンドルが付いたタイプ。12本持っている。箱物の組み立ては、同時に締め付けなければならないので、何本も必要になる。

 このハタ金、実はあまり使い勝手が良くない。ハンドルを回しても、移動部が竿に噛んでしまって、スムーズに動かない。しかし代わりが無いので、仕方なく使っている。だましだまし使うという感じである。

 青い色のものは、パワーがある。これは使い易い。作業台の上に置いて、クランプで固定して使っても具合が良い。

 極端に長いハタ金もある。右の画像は長さ2メートル近いもの。間口の広い箱物を組み立てるときに有効である。


























 ダブル・クランプというものもある。ハタ金だと、締め付けの力が偏る場合もあるが、このタイプなら平行な力を加えることができる。そして、締め付け力も大きい。板矧ぎの時など、最適である。

 これも米国製だが、売っているのは両端の部品だけ。ロッドはガス管を使う。ガス管の先端にネジを切り、ヘッドにねじ込んで取り付ける。ガス管の長さは自由に決めれば良い。

 移動部分は、内蔵された鉄片がロッドに噛むことで固定される。解除するときは、鉄片を逆方向
から押してやれば良い。単純だが、確実な構造である。そのしくみにより、固定する場所を自由に選ぶことができる。







このダブル・クランプ。板矧ぎや練り付けの時には大活躍をするのだが、組み立ての時に使うこともある。アームチェアCatの組み立ては、このクランプ無しでは具合が悪い。




































 このような品物が、国産には無い。私が駆け出しの頃手伝ったある工房では、このクランプが導入されておらず、鉄工所に特注で作らせたダブル・クランプを板矧ぎ専用に使っていた。使い勝手はこのクランプほど優れておらず、また値段も高かった。それを8本くらい買ったというのだから、今から考えれば気の毒な話である。






(Copy Right OTAKE 2009.12.6)