板を重ねて加工する

 
 画像は、引出しの側板の加工をしているところである。もっと詳しく言うと、組み手を刻んでいるシーンである。私の場合、引き出しの組み手は「ダブテール・ジョイント」という技法で行うのが標準となっている。かなり手間のかかる技法である。欧米の家具作りでは、高級品の条件となっているが、国内ではこういう作り方をしている人は少ない。

 画像で見て取れるが、何枚かの板を、すこしずつづらして重ね、クランプで止めて加工する。何故このようなことをするのか。

 開業したての頃、米国の木工文献でこのような写真を見た。それはやはり、引出しの板にダブテール・ジョイントの加工をしている場面だった。しかし、何故板を重ねて加工するのかは分からなかった。それに関する説明が書いてなかったからである。

 もちろん、日本の文献には、このようなことは書いていない。引出しをダブテール・ジョイントで組むこと自体、ほとんどやられていないから、文献に登場するはずもない。

 その後、マネをしてやってみた。そうしたら、これは一つの優れたアイデアだと気が付いた。加工の能率が良いのである。

 板を一枚づつ加工すると、クランプで止めたり外したりが面倒で、時間も食う。枚数が多ければ、わずかな事でも積み重なって、結構なロスになる。この画像のように、8枚積み重ねれば、クランプ操作の時間は8分の1で済む。

 さらに、メリットがある。板を作業台に固定する際には、間に木屑などの異物が入らないように注意をする必要がある。異物が挟まったままクランプで締め付けると、板に跡が付いてしまうからである。異物の挙動は気まぐれである。注意を払っていても、いつのまにか作業台の上や材の表面に付着する。だから、板を固定する前に、両者をブラシや手の平で払うことが欠かせない。それがまた、いちいち面倒なのである。

 画像のような方法だと、それが大幅に改善される。いったん板を重ねてしまえば、後はまとめてスライドさせるだけで良いので、板の間に異物が入る心配は無い。全体を作業台の上で反転するときだけ、注意をすれば良い。

 その上、加工のスピードや精度も上がる。手作業の加工は、一定の時間内に遅滞なく、同じ動作を繰り返すことで、手が動きを覚え、短時間に間違いなくできるようになる。スポーツや楽器の練習と同じことである。板が複数重ねてあることで、同じ動作が繰り返され、一つの流れを生む。その流れの中で、加工のスピードと精度が身に付くのである。

 たまたま文献の中で目にした写真だったが、それを自分で試してみたら、思いがけない事に気が付いたという顛末。説明が書いてあれば、簡単に理解できただろうが、自分でやってみて初めて分かるというのも、悪くない。



(Copy Right OTAKE 2009.9.29)

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