コンシューマー・モデルのマルチトラック・レコーダーの先駆けは、「TEAC」社の
1972年に発表「A-3340S」に始まる。価格は、\214,000 (当時)。
3ヘッド構成、1/4インチテープ・38cm/s で4トラック録音が可能だった。
周波数特性は30Hz〜22kHzもあり、19cm/s も搭載、リモート・コントロールも可能。
ただし…ピンポン録音(バウンス)は出来ない仕様だったらしい。
多くのプロ・ミュージシャンが自宅でのデモ作りに利用したといわれる。
その後1974年、「TASCAM 」ブランドで「70-8」という業務用1/2インチ・8トラックを
開発したのをベースに、1976年、伝説の名機となった「80-8」が発売となる。
「80-8」の仕様は、1/2インチ38cm/s 固定、3ヘッド構成、
録音レベル・250nWb/m、周波数特性・40Hz〜18kHz、SN比・65dB。
当時の価格で80万、DBX-NR込みだと総額100万…結構な値段であった…。
ただし、8トラックをコンパクトにまとめた傑作であり、ピンポン録音も可能、
国内外問わず、本格的なレコーディングに利用される事も多かった様である。
1988年、「TASCAM」は1/2インチ16トラック「MSR-16」発表、価格は100万位。
「MSR-16S」の仕様は、38cm/s・19cm/s、2ヘッド構成、録音レベル・250nWb/m
周波数特性・40Hz〜20kHz、SN比・68dB (Dolby-S ON時 → 92dB)。
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TEAC A-3340s (1972)
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「TASCAM」のこういう流れに対抗する様に、海外では…。
「STUDER」社の民生ブランド「Revox」より「C278」が1990年に登場。
仕様は「TASCAM」と同じく、1/2インチ・8トラック、
テープ・スピードも 38cm/s・19cm/s の2スピード。
メーターは、ピーク・VU と切り替え表示が出来る様になっており、
メーター部分を手前に引くと、各オーディオ基盤に直接アクセス出来る点は、
民生機といえども… さすが「STUDER」である。
よって、入出力はプロ仕様の「バランス」のみである。
価格は当時で 8270ユーロ… 日本円で約112万 (1ユーロ=135円として)。
この価格からいって、対象が業務用なのか民生扱いなのか…微妙である…。
詳細は、http://www.revox-bandmaschine.com/revox%20C278.htm
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STUDER-Revox C278 (1990)
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1981年、「TASCAM 80-8」等の名機を生み出した設計者が、
スピーカー・メーカー「Foster電機」に移り、驚愕のマルチを世に送り出した。
「FOSTEX A8」…世界初1/4インチ8トラック、Dolby-C 内蔵で、定価38万円。
外装パネルが全プラスティック…"おもちゃ感"否めないものの、実力は高かった。
録音レベル・250nWb/m、周波数特性・40Hz〜18kHz、SN比・60dB (NR-OFF時)。
メカ部分もしっかり作られており、リモート・コントロールも可能。
完全に個人利用向けに設計されていた為か、同時録音は4トラックまでだった。
しかし、メーカーの予想に反し、小スタジオやプロ・レコーディングにも使用された。
1983年、8トラック同時録音に対応した改訂版「FOSTEX A8-LR」発表。
1983年、世界初の1/2インチ16トラック「FOSTEX B16」発表。定価は98万円。
1985年、ロケート部分のみを追加強化した「FOSTEX MODEL-80」発表。
1988年、更に低価格の8トラック「FOSTEX R8」を298000円で発表。
ただし…このモデルは大変コストダウン化が進み、駆動系が著しく貧弱になった。
もはや業務用としては怖くて使えない代物になってしまった。
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FOSTEX A8 (1981)
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これらの流れに「TASCAM」は「388 Studio」を発表。
8トラック録音の1/4インチ19cm/s、
ミキサーとDBX-NR付きで、国内外で話題になった。
特にアメリカ市場で大人気になった様である。
当方もコレを自宅仕事で6年ほど使っていたのだが、
使い勝手がよく、1本で30分記録出来るのも良かった。
ただ…DBX-NR の持つ、特有のブリージング・ノイズ、
それが気になり出し、結果「MSR-16S」に乗り換えた。
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TASCAM 388 Studio (1985)
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まずは参考までに…
4トラックで1967年初頭に録音された、ビートルズの「 With a Little Help from My Friends 」のトラック・データを載せてみる。
これは、某大手の動画サイトに2013年時にアップされてたマルチ・レコーダー解説モノから拾った資料。
しかしなぜ動画アップした人が、しっかり管理されてる筈のビートルズ・マルチ音源を所有してるのか…は不明…。
これは、2台の4トラックを使って、バウンス(ピンポン録音)制作されたと思われる。
曲名 「 With a Little Help from My Friends 」
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Chorus・Lead Guitar
| Bass
| Vocal・Chorus
| Dr・Piano・R.Guitar
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次に…8トラックで録音された1969年録音の、ビートルズの「GET BACK」セッションでのトラック・データ。
これは、当時録音を担当したエンジニア氏のインタビュー回想記事によるもの。
アルバム 「 LET IT BE 」
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Vocal
| Vocal
| E.Guitar
| E.Bass
| SMPTE Time Cord
| Drums
| E.Piano
| E.Guitar
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次は…同じく某動画サイトの、ビートルズ・マルチを所有の方がアップしていた、ドゥービー・ブラザースの名曲、
1973年発表の「 Long Train Runnin' 」のトラック・データ。1トラックに間奏のハーモニカがパンチ・インされている。
リズム隊が後半3トラックに集中してるのは、先々「チャンネル不足時にバウンス」を考慮して録音された結果…と推測。
曲名 「 Long Train Runnin' 」
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Chorus Harmonica
| Vocal
| Chorus
| A.Guitar
| E.Guitar
| E.Bass
| Conga
| Drums
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次は…名ミキサー・吉野金次さんの回想インタビューによる、「はっぴぃえんど」の2曲。
(参照先…chronology 1971-2)
使用された録音チャンネル番号は、あくまで推測。
曲名 「夏なんです」
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E.Bass
| Drums
| A.Guitar
| A.Guitar
| Vocal (細野)
| Vocal (細野)
| Chorus (細野)
| E.Guitar
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曲名 「暗闇坂むささび変化」
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E.Bass
| Drums
| A.Guitar (細野)
| F.Mandlin
| Vocal (細野)
| Vocal (細野)
| Chorus (大瀧)
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「DEREK AND THE DOMINOS」というグループの、邦題「愛しのレイラ」の16chレコーディング・データ。
1970年発表で、8トラック録音では厳しいだろうなぁ…と思っていたが、やはり当時で最新の16トラック録音であった。
下に記したデータは、楽曲の前半セクション(歌入り部分)のトラック・シートである。
この時代、一部では、ボーカル=Read、リード・ギター=Solo と表記された事もあった様である。
この曲はニューヨークにて、MCI 社製の24イン16アウトのミキサーと、「JH-16」というレコーダーで録音されている。
参考文献 レコーディングエンジニアが語るDerek & The Dominosの 'Layla'
Derek & The Dominos 曲名 「Rayla - 1st Section 」 1970.9/9
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Organ Bottom
| Organ Top
| Duplicate Solos (Eric Duane)
| Solos (Duane)
| Rhythm (Eric)
| E.Bass
| Drums_L
| Drums_R
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Guitar Harmony with 11.12 (Eric)
| Tambourine
| Guitar Harmony with 9.12 (Eric)
| Guitar Harmony with 9.11 (Eric)
| Chorus (Bobby)
| Read & Chorus (Eric)
| Chorus Double (Bobby)
| Chorus Double Eric Read (Eric)
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1971年にリリース、「カーペンターズ」の「スーパースター」の16chレコーディング・データ。
15トラックのボーカルはNGテイクだった様だが、これを7トラックのコーラスに一部混ぜて使用された様である。
NG とはいっても、歌唱の出来内容というより、原曲から少々歌詞を変更した経緯での NGテイクと思われる。
5トラックのボーカルは歌唱表現的なNGだった様だが、もし声をダブルにMIXする際には使用できる旨が記載されている。
参考資料
Superstar Trak_seet
Carpenters 曲名 「Superstar」 1971.
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Violins
| Viola-Cello
| Oboe-Harp
| Tambourine
| Sub_Vocal (Kalen)
| Chorus_1 E.Piano
| Chorus_2
| E.Piano
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Piano
| Bass
| Kick
| Vocal (Kalen)
| Drums
| Trumpets
| Vocal_NG (Kalen)
| Trombone Horns
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「風」というグループの16chレコーディング・データ。
2000年に2枚組のベスト盤として発売された「コンプリート・ベスト」に幾つかのトラック・シートが掲載されている。
曲名 「ロンリーネス」1975.4/22 Take-1
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E.Bass (後藤)
| B.Drum (林)
| Drums_L (林)
| Drums_R (林)
| Strings_1
| E.Guitar (銀次)
| オルガン
| E.Piano (松任谷)
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コンガ
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| マラカス
| Strings_2
| Chorus_L
| Chorus_R
| トライアングル 鈴
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曲名 「お前だけが」1975.4/22 Take-1
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E.Bass
| B.Drum
| Drums_L
| Drums_R
| Snare.Dr
| E.Guitar
| Piano_L
| Piano_R
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Conga
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| Chorus_低
| Ocarina
| Chorus_L
| Chorus_R
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曲名 「あの唄はもう唄わないのですか」1975.10/24 Take-1 (アルバム・バージョン)
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Kick (田中)
| Drums (田中)
| Snare.Dr (田中)
| Hat (田中)
| E.Bass (武部)
| Chorus
| A.Piano_L (大原)
| A.Piano_R (大原)
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A.Guitar (吉川)
| A.Guitar (水谷)
| Strings_L
| Strings_R
| チェンバロ
| ハープ
| Vocal (後半ハモ)
| Vocal
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曲名 「あの唄はもう唄わないのですか」1975.11/2 Take-2 (シングル・バージョン)
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Kick (田中)
| Drums (田中)
| Snare.Dr (田中)
| Hat (田中)
| E.Bass (武部)
| E.Guitar (水谷)
| Chorus_L
| Chorus_R
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A.Piano_L (渋谷)
| A.Piano_R (渋谷)
| Vocal_Harm
| Vocal
| Ob
| Strings_L
| Strings_R
| Cello
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上記のトラック・シートを見た限り、きちんとチャンネル整理された録音という事がわかる。
空いているトラックに後日、ボーカル入れしたと思われる。
テープ端(1ch・16ch)は、他トラックよりテープ走行する過程で、倍音成分が減衰しやすい特性があるのだが、
いくら2インチ・テープとはいえ、テープ端にボーカル入れの曲もあるとは…。
とはいえ、仕上がりはとても美しいサウンドになっており、時を経た今でも、十分な仕上がり感は素晴らしい。
その他、オフコースのセカンド・アルバムでは、
東芝EMI・毛利スタジオで16トラック録音されたトラック・シートがジャケット裏に印刷されている。
(当時、東芝EMI には MCI-16chマルチが入っていた様である)
コーラス・ワークの美しい、こだわりの詰まったボーカル・トラック数など、
この辺も、16トラック録音のチャンネル割り振りの参考になるのでは…と思う。
オフ・コース 曲名 「もう歌は作れない」 録音時期=1973(7月)〜1974(3月)
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Piano (和正)
| E.Guitar (大村)
| Strings
| E.Bass (高水)
| B.D. (村上)
| Drums Tom (村上)
| Drums Snare (村上)
| Strings
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Vocal Harmony
| Vocal Harmony
| Chiesta Solo (和正)
| B.G. Voices
| B.G. Voices
| B.G. Voices
| Vocal Solo (和正)
| Vocal Solo (和正)
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オフ・コース 曲名 「新しい門出」 録音時期=1973(7月)〜1974(3月)
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Piano (篠原)
| E.Bass (高水)
| B.D. (村上)
| Drums Snare (村上)
| Drums L (村上)
| Drums R (村上)
| E.Guitar (大村)
| A.Guitar (康)
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Drums Hi-Hat (村上)
| Conga (康)
| Vocal Solo (康)
| Vocal Solo (康)
| B.G. Voices
| Vocal Harmony
| Strings
| Strings
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オフ・コース 曲名 「のがすなチャンスを」 録音時期=1973(7月)〜1974(3月)
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E.Guitar (大村)
| Drums_L (村上)
| Drums_R (村上)
| B.D. (村上)
| E.Bass (高水)
| Hand Claps
| E.Guitar Solo (大村)
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Conga (大村)
| Vocal (康・和正)
| Vocal (康・和正)
| Organ (篠原)
| Vocal Harmony
| Vocal Harmony
| Strings
| Strings
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ちなみに、オフコースのトラック・シートには、テープ記録トラックとして録音が、8トラックか16トラックかの記入欄がある。
1974年当時でも、まだ8トラック録音が、普通に存在していた…という事になる。
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