mudai
 不思議な町並みである。

 流行のデザイナーズ風困コンクリートと変った形のアルミ格開口部のものの隣にとても古い黒板---かつては美しかったであろう--壁や、ところどころ剥がれ落ちたしっくいの壁をもつ家が並ぶ。

 お屋敷風の広い敷地と、こまごまとした30平米程度の敷地。そして大通り沿いには瀟洒なマンションが立ち並び、かつての猛烈な地上げにも耐えぬいたはずの商店らは、景気回復の足音とともに、そっとため息をついたかのように影をひそめ、跡地にまた小型の賃貸アパートが建つ。

 廃墟の家。ここで子供らは肝試しをしたろうか。秘密基地にしたろうか。

 その廃墟が例の巨大な鉄のくちばしによって屋根を剥ぎ取られ、壁の心材が剥き出し、埃にまみれコイルをはみ出しながらつぶれたソファーを目にするとき、大人になった子供は何を思うだろう?

 大人には内緒のひそやかな、うわさ話を中心とした子供の営み。その中では激しく全能感をまとったプライドと絶えざる自己規定が進んでいる。

 自惚れはいつしか怠惰と同義になっている。

 記憶の隅においやられ顧みられることのなかったはずの、しかし貴重なおもちゃを、白昼堂々と人目にさらされたとき、 物語が芽をふく。

2006.05.23
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