「小さな小さな狂想曲1」


「た〜らったった♪ たったったらったら〜♪」
 今日も今日とて巡回に励む新選組。島田・斎藤・永倉・原田の四人は、終了間際に出会い、連れ立って帰るところだった。
 先頭を歩く永倉は、機嫌よく歌(?)などを口ずさんでいた。が、その後に続く島田・斎藤は、落ち着かない気分だった。
 その原因は、最後尾を歩く原田にあった。振り向かなくても分かるほどの、不機嫌オーラを発しているのだ。
(なあ、斎藤。沙乃、なんかあったのか?)
(さあ…僕に聞かれても)
(永倉に聞くのは…無駄かな?)
 ヒソヒソと話す姿が気に食わなかったのか、原田が声を荒げた。
「何こそこそやってんのよ、島田!」
 言うが早いか、手にした槍の石突で、島田の頭を小突く。
 こんな風に因縁をつけ、なおかつ手を出してくるのは、原田にしては珍しいことだった。ここにいたって、島田らはようやく永倉に相談することにした。
「なあ、永倉。今日の沙乃、ちょっと変じゃないか?」
 言われてようやく気付いた。と言うよりは、言われても分からないといった顔で、永倉が振り向く。
「変? 沙乃が?」
 そっぽを向いて目を合わせようとしない沙乃をしばらく観察していたが、やはり分からないようだった。
「いつも通りじゃないか? ちっちゃいまんまだぞ?」
「いや、見かけじゃなくて」
「ブツブツうるさいわよ、島田!」
 またもや、石突で一撃。
「ほら。いつもは口で言ったり、駄々こねて暴れるだけで、殴ったりはしないだろ」
「う〜ん…」
 しばらく、腕を組んで何かを考えていたが、名案を思いついたらしく、ビシッと島田を指差し、告げる。
「よしっ! 今日からお前、沙乃係に決定!」
「…はぁ?」
 何のことか分からず、間抜けな声を上げる。
「何だそれ?」
「何って、沙乃係だよ」
「だからそれが何なんだと聞いてるんだ。何をする係なんだ?」
「決まってるだろ!」
 何故か、さも当然とばかりに言い切る。
「沙乃がイラついてたら、殴られ、沙乃がムカついてたら、蹴られ、沙乃が暴れてたら、刺される役だ!」
「人身御供かい!」
「うるさい、島田!」
 またもや、石突で一撃。
「お、早速仕事を果たしたな」
「何でだっ! …て、まあ、なんか刺されてないのが不思議なくらいの不機嫌さだな、今日は」
 殴られた部分をさすりながら、ぼやく。
「なあ、不機嫌の心当たり、何か無いか?」
 もともとは、原田と永倉二人で巡回していたのを、島田と斎藤が合流したのだ。朝のことは覚えてないので、とりあえず巡回中の様子を聞いてみたのだが、
「無いな」
 と、あっさり切られる。
「あ、キンノーだ」
 島田と永倉が話してる間、前方を警戒していた斎藤が呟く。
「なに!? よし、行く…」

 ザスッ! グサッ! ドヒュッ!

 永倉が反応して駆け出すより早く、風のようなスピードで踊り出た原田が、瞬く間にキンノーを倒してしまった。
 見事な手際だが、島田にはそれが、八つ当たりにしか見えなかった。そして、つくづく『キンノーじゃなくてよかった』と思った。
「あ〜…」
 完全に出番を取られた永倉が、ハンマーをぶら下げ、茫然と立ちすくむ。
「確かに変かもな。けど、アタイと一緒にいたときは、変わって見えなかったぞ」
「う〜む…」
 チラッと後ろを伺うと、たまたま目が合い、凄まじい形相で睨まれてしまう。
 また何か言われる前に、目を逸らす。今回は、何も言われなかったし、石突も飛んで来なかったが、イライラと槍で地面を叩く様子が伝わってくる。
「あの目、血に飢えた獣みたいだったぞ」
 そう洩らした島田につられ、永倉と斎藤も、こっそり原田の様子をうかがう。
「ああ。腹減らした犬みたいだな」
「それはちょっと…」
 永倉の感想に、呆れながら突っ込む。が、斎藤の台詞は、それ以上に吹っ飛んでいた。
「そうかな…。僕には、なんて言うか、恋する乙女のように見えたけど…」
 ………。
 斎藤の言葉が染み渡るまで、一分近くの時間を要した。
『はぁ〜?』
 異口同音に呆れと困惑が入り混じった声を上げると、もう一度原田の方をうかがう。
『永倉、どう思う?』
『アタイに聞くなよ、分かるわけ無いよ』
 こそこそと話す二人。やはり、斎藤の言うようには見えない。
『よし。こうなったら、沙乃ちゃんの秘密を探ろう大作戦だ! 屯所に戻ったら、本当に沙乃に男がいるかどうか、探ってみるぞ!』
 斎藤の首根っこを捕まえ、逃がさないようにして、島田が気炎を上げる。
 こうして、『沙乃ちゃんの秘密を探ろう大作戦』は、決行される運びとなった。



<あとがき>
 


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