「我行くはクイズの大会」


 「たのもう!」
 新選組の屯所の前に、銅鑼声が響く。昨今の京都の状勢を鑑みれば、道場破りのような物言いは、勇気ある行動と呼べよう。
「ハイ。どちら様で?」
「島田誠はいるか?」
 男の尊大な態度に、応対に出た隊士は、怒るより呆れてしまったようだった。
「俺が島田だけど…?」
 ―――否、100%呆れていたのだった。
「…って、お前はSF番長!」
「フ…銀河鉄道の夜を越えて…SF番長、見参!」
 その男は、以前押し借りにおいて、2430両をせしめられ、木星へ別れを告げたSF番長だった。
 だが、以前会った筈の男に、島田は何か違和感を感じていた。
「お前に敗れてから、俺は修行に修行を重ねてきた。それはすべて、島田誠、お前への雪辱を晴らすためだ!」
「帰ってくれ」
「実は今、京の町でクイズ大会が開催され、優勝者には金5000両。そして、俺は参加者」
 乗って来ないと見て、あっさり戦法を変える番長。しかしそれは、島田の足を止めるだけの力があった。
 実は今、組の財政は危機的状況にあった。以前番長からせしめた2430両などではどうにもならないほど。そこに5000両は、非常に美味しい話ではある。
「何をしている、島田?」
「あ、土方さん…実は…」
「ほう…」
 確かに、5000両は大きい。それに、正々堂々としたクイズ大会で優勝できるほどの識者がいるとなれば、新選組にとって恰好の宣伝材料になる。
 瞬時にそこまで計算を働かせ、土方にしては珍しくGOサインを出した。代表が島田というのが唯一の不安材料だが、これはこの際目を瞑ることにしたようだ。
「ただし、恥を晒すような負け方をしたら切腹だ」
 土方らしい釘を刺すのも忘れなかったが。
「では、行くぞ!」
「応!」
 番長だけでなく、島田も気合充分で勝負に臨む。何といっても、命がかかってるし。
「第一問。☆矢で、山羊座のシュ○が○山昇○○の返し技として使った技は?」
「待ていっ!」
 思わず叫びを上げる島田に、土方と番長の二人は不審な視線を向ける。
「星矢はSFじゃないだろ!」
「ぬうっ!」
 なぜか、苦しげに顔を歪める番長。それを見た島田は、最初に感じた違和感を思い出していた。
「ならば、第二問! ク○ィミー○ミの挿入歌、『美衝撃』の読み方は?」
「待ていっ!」
 またもや叫びを上げる島田。
「○ミは断じてSFではない!」
「ぬううっ!」
 さらに苦しげな顔をする番長。それを見た島田の中の不信感はさらに上がった。
「だ、第三問。今日のあなたの運勢は?」
「あああああっ! もう、クイズですら無いっ!」
 この時点で、島田の中の不信感は、最高潮に達した。
 が、ただ独り、それらにまったく頓着しない人物がいた。
「どうした、島田? 早く答えたらどうだ」
 土方である。
「そんな、土方さん。二問目ならともかく、三問目なんて…」
「ほほう。島田は二問目なら答えられる、と」
 土方の目がスッと細まる。
「なんとなく、士道不覚悟っぽいから、後で切腹だ」
「のおぉぉぉっ!」
 のた打ち回る島田。そこに、容赦なく追い討ちをかける。
「答えれば介錯だけはしてやろう。さあ、とっとと答えろ」
「大凶確定!?」
 完全に進退窮まった島田。しかしそこに、新たな声がかぶさった。
「待て!」
 三人の視線が集中する。その先にいたのは―――。
「真・SF番長、参上!」
 それも、SF番長だった。ただし、屋台は無い。
「新選組の諸君らよ、屋台泥棒を捕まえてくれたこと、感謝する」
「屋台…」
「泥棒…?」
 島田と土方の視線が、ゆっくりと偽番長の方を向く。
「そいつは似非エフ番長。俺の敗北を聞き、俺と取って代わろうとしたのだろう」
 『そんなもん、取って代わってどうする』とは、本人の手前、言わなかった。それ以上に、気にかかることもあったからでもある。
「じゃあ、クイズ大会は?」
「嘘、だろう」
 それだけを言うと、SF番長は、屋台を引いて去って行った。
「成る程な…」
 土方の視線が、強さを増す。蛇とて、蛙をこんな風に睨んだりはしないだろう。
 そして―――。

 数刻後。
 ボコボコに殴られた後に、がんじがらめに縛られて、島田と番長は、カモちゃん砲に詰められていた。
「イヤァァァッ! 月世界旅行は、イヤァァァッ!」
「どうして俺まで…」
 恐怖の悲鳴を上げ続ける番長と、諦めきった島田。そんな二人に、土方はむしろ優しく声をかける。
「何を言う。切腹のところを流刑に軽減してやろうというのに」
「流刑って言うんですか、これ?」
 そんなやりとりの横では、芹沢が着々と準備を進めていた。
「さぁて、どこまで飛ぶかなぁ。鞍馬山? それとも、思い切って下関まで行ってみようか!」
 やたらと楽しげな芹沢を尻目に、土方は最後の言葉をかける。
「さて、島田。お前はどこに落ちたい?」

 『明けの明星が輝くとき、
   一つの砲弾が宇宙に向かって飛んでいく。
    それが僕なんだよ。
                 ―島田 誠―』


<あとがき>
 


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