「ラヴラヴ愛モードでCHU 6」


「…っんの!!」
 上段から打ち下ろされる一撃を、力で無理矢理押し返す。
「野郎!」
 そして相手が踏鞴を踏んだところを袈裟懸けに切り伏せる。
「斎藤! そっちは!?」
「終わったよ」
 気負った様子もなく答える。巡回の途中で三人のキンノーを見つけ戦闘に入ったのだが、二人とも息を乱すことなく、難無くこれを打ち倒していた。
「島田、調子いいみたいだね」
「おおよ。今の俺に怖いものは無い!」
 事実、島田の腕は新選組みに入った頃より格段に上がっていた。今回、三人中二人を倒したのも島田の方だ。
「じゃあ、屯所に帰ろうか」
「嫌ぁぁぁぁぁっ! 屯所怖い! 帰るの怖い!」
 当然叫ぶと、頭を抱えてゴロゴロと転げ回る。『怖いものは無い』と言った舌の根も乾かない内に。
 もっとも、ここのところいつもこうなので、斎藤は慣れた様子で島田を助け起こすと、子供をあやすように宥める。
「大丈夫、大丈夫だよ。さ、帰ろう」
「うう。いつもすまんのぉ…」
 街の人々の生暖かい視線に見送られながら、二人は重い足取りで屯所へと帰っていく。

「ところで―――」
 そして、巡回から帰るとまっすぐ向かった道場で、竹刀を持って対峙しながら口を開く。
「最近、妙にキンノーが多いと思わないか?」
「そうだね」
 今日島田らが戦ったのは三人だったが、ここのところ、多い時は八人にもなることがある。それも、あくまで島田が遭った中でなので、全体としての総数はかなりの数に上る。
「お、やってるな」
 と、そこに見るからに巡回帰りといった風情の永倉が入ってくる。
「ああ、永倉か。今、最近キンノーが多いなって話をしてたんだが」
「そう言やぁ、アタイも今日は四人ぶっ倒したな」
 これも、今日に限った数字ではなかった。
「とにかく、キンノーが増えたってことは、アタイ達がますます頑張らなきゃならねえってことだろ。グダグダ言ってる暇があるなら、アタイの相手してくれよ」
「そうだな。何かあるなら土方さん達が見つけてくれるだろうし」
 というわけで、永倉を交えて稽古することになった。もっとも、島田や斎藤と永倉では、まだまだ実力に差があるので、稽古をつけてもらうというニュアンスが強いが。
 そして小一時間後、島田・斎藤は道場にへたりこんでいた。唯一立っている永倉も、いい汗がかけて満足気である。
「いやぁ、それにしても二人とも、結構腕上げたよなぁ」
「…それでも五分には程遠いけどな。いいとこ二分ってところか?」
 少しふてた様に言う。が、永倉相手に五分に戦えたら、新選組でも五指に入るくらいの腕と言えるのだから、そう不貞腐れることも無いが。
「はっはっは。ま、アタイも二人も、まだまだ強くなれるって。じゃ、アタイはもう行くぞ」
 そう言って去っていく永倉に、声をかける元気は二人とも残っていなかった。

 一方その頃。
「ふぅぅぅぅぅ。いいお湯だねぇぇぇ」
 巡回から帰った藤堂は、まっすぐ風呂に向かい、すっかりくつろぎモードに入っていた。
「………」
「? どうしたの、沙乃ちゃん?」
「別に」
 先客の原田はそんな藤堂をじっと睨みつけていた。というのも、彼女が何を考えているかさっぱり掴めないからだ。
 突然のラヴラヴ宣言。しかし、それ以来藤堂の様子が変わったとかというと、決してそんなことは無いのだ。
 つい引きずられてしまったが、当面争っている相手は専ら沖田だった。要するに、藤堂は宣言しただけでしかないのだ。
 余裕? そうは思えなかった。が、何もしない相手に対しては、打つ手もやはり何も無いのだ。
「…負けるつもりは無いからね…」
 結局、そう呟くだけで、まともに会話をしないまま原田が出て行く。
 その後しばらく、一人でくつろいでいた藤堂だったが、いい加減のぼせるのではないかというくらい時間が立ってから、原田が出て行った扉に向かって呟いた。
「…勝ち負けの問題じゃないんだよね」


 翌日。
「ダッシャァァァァッ!!」
 共に巡回に出た島田と永倉は、大人数のキンノー達と立ち回りを演じていた。
「そっち行ったぞ、島田!」
「おおよ!」
 最近永倉か斎藤とばかり巡回に行ってる島田だったが、永倉と一緒の方がキンノーと出会う確率が高いような気がしていた。
 今回も、一度に十一人と、今までで最高記録を更新している。
 そして、右も左も分からない乱戦の中、不意に辺りが静かになったことに気付く。
「…終わったか?」
「みたいだな」
 いつの間にか、立っているのは島田と永倉だけになっていた。立ち込める血煙と血臭で、嫌に現実感が湧かない状態だった。
「アタイ達もよくやるよなぁ。援軍も無しに十一人切りなんて」
「まったくだ」
 つい苦笑してしまう島田。だが、その視界に微かに動くものの姿が掠めた。
「永倉!」
 完全に背面を取られた位置にいる永倉を押し退けると、もう一人いたキンノーを、体ごと当たるように突き倒す。
 一撃で相手を絶命させたものの、勢い余ってそのまま地面に突っ込んでしまう。
「ありがとな、島田。大丈夫か?」
「ああ」
「………そう言やあさ」
 手を差し伸べながら、不意に真面目な顔つきになって永倉が聞いてくる。
「島田さ、へー達のことどう思ってるんだ?」
「!? な…!?」
 思わぬことを聞かれ、体勢を崩してしまう。が、自分よりずっと大きい相手を片手で支えながら、永倉はびくともせずにそのまま引き上げる。
「もし、どうとも思ってないなら…アタイが貰っちゃおうかな…」
 そして、引き上げた勢いのままグッと顔を近付けると、そっとそんなことを言ってくる。
 思いもしなかった展開に固まった島田の顔に、さらに永倉の顔が近づく…。
『キンノーだ!』
 だが、きわどいところで叫びが聞こえた。
「またか! よし、行くぞ島田!」
 と、あっさりと手を離して駆け出してしまう。
 ただ島田は、茫然となりながらも、この後の生活に思いを馳せ暗澹たる気持ちになるのだった。


<あとがき>
  永倉参戦! この期に及んで!
 しかし、考えてみれば、島田が誰かを選ぶとして、それ以外の人達と一緒に暮らし、あまつさえ有事の際には命を預けなければならないわけで、そりゃあ単純にもてて嬉しいとは言えませんな。
 誰だ、こんな酷い状況に追い込んだのは。

 と、冗談は置いといて、いつの間にか『6』と長丁場になってしまいましたが、あと二回の予定です。
 この展開で、あと二回…。


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