「ラヴラヴ愛モードでCHU 5」
突然の宴会も後半戦に突入! というところで、島田はすっかり酔いが覚めてしまっていた。それというのも、いろいろな物がぶつかったりしたからだが。
「ほうら、飲め飲め!」
「ジャンジャン持ってきなさい、ジャンジャン!」
「アハハハハ、このお酒も美味しいねえ」
離れたところでは永倉、原田、藤堂の三人が盛り上がっている。特に原田は何かを吹っ切ったようなハイテンション振りだ。
それを尻目にイマイチ盛り上がれないでチビチビやっていた島田に、そっと徳利が差し出された。
「飲んでますか、お兄ちゃん?」
「そーじか…」
島田の杯に酒を注ぐと、そのまま向かい合わせに座る。しばらくお互いに何も言わずに宴会の雰囲気に浸っていたが、ややあって沖田がオズオズと口を開く。
「誠さん…」
「ん?」
「…って言うんですね、お兄ちゃんの名前」
先だっての騒ぎを思い出して苦笑する。怒るとか呆れるとかより、侘しくなってしまった事だが、別に引きずっておらず、それこそ笑うしかない事ではある。
「いつもお兄ちゃんって呼んでたから、名前忘れちゃってた」
「別にいいさ。…そういえば俺のこと、いつの間にかお兄ちゃんって呼んでたよな」
「うん」
そしてしばらく思い出話に花を咲かす。
「あの…」
なかなか話題は尽きないものだが、不意に沖田が少し表情を引き締めて言って来た。
「お兄ちゃんはあたしの名前、覚えてる?」
「ああ。鈴音、だろ」
迷うでも無くあっさりと答える。と、沖田の顔がパーッと明るくなった。
「覚えててくれたんだ」
「ああ、そりゃあ、まあな」
「あたしはお兄ちゃんの名前を忘れてたのに」
「それはいいって」
苦笑を返す島田だが、沖田は顔を伏せてモジモジと呟く。
「…だったら、あたしの事は鈴音って呼んでほしいな…」
「ん?」
島田には聞こえなかったようで、怪訝な顔をする。と、沖田はさらに俯いてモゴモゴと呟く。
「…それに、お兄ちゃんの事…誠さんって…」
すぐ傍にいる島田にすら聞こえないほどの小さな声だが、それを耳ざとく聞きとがめた者達がいた。じっと二人の様子を窺っていた芹沢と土方だ。
「ウム。そーじにしては積極的でなかなか上出来だ」
「う〜ん。けど、まだまだ押しが足りないな〜」
昼間から飲んでいる芹沢はもとより、顔を真っ赤にした土方も、かなり酔っている様子が窺える。ので、普段では決して見られない、二人の結託という特殊な状況が出来上がっていたりするが。
「ほう。押しとは例えば?」
「例えばねぇ、こうガバーーーッて」
「ほうほう。ガバーーーッととな」
芹沢の無茶に真剣に聞き入っている辺り、『かなり』どころか『したたかに』酔っているようだ。
「そうやって押し倒して、後は…」
「フムフム。よし! 手本を見せてやるのだ、芹沢さん!」
「は〜〜〜い! カモミール芹沢、吶喊しま〜〜〜す! し、ま、だ、く〜〜〜〜〜〜ん!!」
突然のことに、島田も沖田も何の反応も出来ず、成す術も無く押し倒されてしまう。
「な、なんですか、カモちゃんさん!?」
「よし、いいぞ、そこだ!」
「土方さんまで!?」
芹沢が奇矯な行動をとるのには慣れていたが、土方の狂態までは予想していなかった島田は目を白黒させる。
さらに………。
「にゃふふふふふ」
誰も気にかけていなかったため、いつの間にか近藤まで酔っ払っていた。
「ワーーーーッ!! こ、近藤さんも!? あ、いや、………お助けぇぇぇぇぇっ!!」
こうして、宴会は狂乱の内に幕を閉じた。
そして明くる朝…。
「おはよう、誠。さ、早く起きなよ」
目が覚め切らない島田の脳に、藤堂の声が染み渡る。ただ、すこし離れた所から聞こえたようだが…。
「ああ、おはよ…おお!?」
ようやく半分以上頭が起きた島田だったが、その眼前には完全に目を覚まさせるような光景があった。
「いつまで寝ぼけてんのよ! さ、島田、巡回に行くわよ」
「…けほけほ、巡回に行きましょ、お兄ちゃん」
穂先を突き出した原田と、鯉口を切った沖田が静かに火花を散らしている。その向こう側で、藤堂がニコニコと手を振っている。
「起きたみたいだね。そろそろ朝礼が始まるよ」
「いや、あの、ちょっと助け…」
「島田! 沙乃と巡回行くわよね!」
「…お兄ちゃん…」
空恐ろしい状況に、藤堂に助けを求めるが、無常にも彼女はさっさと行ってしまう。
「ほら。朝礼があるって…」
「だから、その後の巡回よ!」
「………けほけほ」
プレッシャーがさらに強まる。助けを探すが、当然そんなものがすぐそこにあるはずも無い。
宴が終わり、島田を取り巻く状況はさらに厳しくなったようだった。
<あとがき>