「ラヴラヴ愛モードでCHU 3」
「う〜ん、久しぶりに平和な一時だな」
目の前には抜き身の刀を引っ提げたキンノーが四人。そんな状況にもかかわらず、島田そう口走っていた。
「そうかな?」
「ここんところ、心臓に悪い日々が続いてたからなぁ」
思わず深々と溜息をついてしまう。キンノー達は完全に無視だ。
「ま、仕方ないよね。それじゃ、二人づつ担当ってことで」
それまで無視されたまま喚いていたキンノー達は、突然の変化に対応できなかった。藤堂の横殴りの一撃にあえなく倒される。
『な!?』
「それじゃ、俺も」
それで浮き足立った一人が、島田にこれもあっさりと打ち倒される。
『もう一人は…』
素早く視線を巡らせ、もう一人の姿を視認する。まだ立ち直っておらず、楽に倒せそうだ。
と、
『島田さん、あぶな〜〜〜いっ!!』
唐突に横から体当たりで突き飛ばされた。その声には聞き覚えがあったような気がしたが、目の前で青空がグルングルン回っていると、そんなことはどうでもよく思えてくる。
「島田さん! 寝てる場合じゃありませんよ!」
ところがその声の主は、さらに馬乗りになって頭を地面にガンガンと打ち付ける。それが誰か分かった時点で、島田はもう何もかもがどうでもよくなってきていた。
「誠、戦闘中に寝るのは危ないよ?」
その声で、ようやく御花畑から帰ってこれた。そうだ、キンノーがもう一人いたはずだが…。
「キンノーならもう全員やっつけたから。駄目だよ、ちゃんと二人倒さないと」
この状況を見て、言うことはそれだけなのだろうか。
「貴方が藤堂さんですね。はじめまして、島田さんとは結婚を前提にアレコレしちゃってるおまちと申します」
と、マウントポジションをといたおまちが、いきなりそんなこと言い出す。
「してない! そんなことはしてないぞ!」
無論、島田の訴えは無視だ。そして、ニコニコ顔を崩さない藤堂に向かって、さらに付け加える。
「ちなみに、子供は三人で、上の子は五つになります」
「ならない! って言うか計算が合わないだろ!」
必死になる島田。しかし、当の藤堂は、やはり笑い顔を崩さない。そして、
「そうなんだ、仕方ないね。それじゃあ、シングルマザーで子育て頑張ってね」
と、のたまった。
場が凍りつく。既に蚊帳の外に放り出されかけてた島田ですら、一瞬で凍りつくほどの冷たさだ。そんな中でも変わらない藤堂の笑顔は、それまでとは違って、妙に凄みがあるように感じられる。
「それじゃ、帰ろっか、誠」
「あ、ああ…」
そうして、凍りついたままのおまちを置いて立ち去る。
「ふう、助かったよ」
おまちの姿が見えなくなったところで、島田は安堵の溜息をつく。
「ん?」
「いや、例え冗談でもあんなこと、沙乃とかの前で言われたりしたら…」
「沙乃がどうかしたの?」
と、何の気配もなく声を掛けられる。
「あ、沙乃ちゃん、アラタちゃん」
幻聴では無く、振り返ると確かに二人がそこにいた。
「あ、いえ、何でもありません、原田様」
思わず直立不動の姿勢をとってしまう島田。不機嫌そうな表情も怖いが、それ以上に真新しい血糊がべっとりついた槍のほうが怖かった。
「沙乃ちゃん、槍拭かないと駄目になっちゃうよ」
「そうね」
フンッと鼻息を漏らすと、島田に見せ付けるようにして槍を拭う。ナンと言うか、『気が向いたら刺す』と言っているようだ。
「なあ、永倉…」
「ん? 沙乃ならずっとあんな感じだぞ」
考えたくなかったが、予想通りの答えをもらい、島田は陰鬱な表情で歩く。その口からは『屯所怖い。帰るの嫌だ』という呟きがブツブツと漏れていた。
そんな島田に合わせて歩いたせいで、四人が帰るのはやや遅めになってしまった。
しかし、屯所では、さらに思わぬことが彼らを待っていたのだった。
<あとがき>