「ラヴラヴ恋愛モードでCHU 2」
藤堂の爆弾発言から数日、今日も島田と藤堂の二人は揃って巡回に出ていた。そして、その後をコッソリつける影二つ。
「あの二人、いつもいつもいちゃいちゃして…」
「そうかぁ?」
原田と永倉の二人だ。しかし、原だが殺気立っているのに対し、永倉はいかにもやる気無さ気だが。
「大体、アタイ達何で二人の後をつけてるんだ?」
「そんなの決まってるじゃない! 二人っきりにしたら島田がどんな間違いを犯すか分かったもんじゃないのよ!」
大声で喚き散らす原田を、道行く人々が奇異な目で見る。普段、人一倍評判を気にするはずの原田だけに、内心の動揺が見え見えだ。
「そんな心配いらないと思うけどなぁ。第一、島田とへーじゃ、へーの方が強いだろ」
「何言ってるのよ! 島田は男なのよ! それも、図体ばっかりでっかい! 腕力勝負になったらへーに勝ち目なんて無いわよ!」
実際のところ、原田の言ってる事は滅茶苦茶だった。それもそのはず、原田自身、勢いと苛立ちに任せて怒鳴っているだけなのだ。これでは永倉すら言いくるめられはしない。
「けど、あの二人って、そんなに一緒にいること多いか? アタイ、昨日は島田と巡回行ったぞ」
「…そうなのよね」
そう、そこが疑問なところだった。島田はともかく、藤堂はあの後も特に変化の無い日々を送っているのだ。多少島田と行動を共にする回数が増えたが、むしろ今までが少なかったくらいなのだし。
もっとも、原田としてはそれが見せ付けられてるような気がして仕方ないのだが。
「ああ! あの二人、巡回の途中だってのに、休憩してお茶なんか飲んでるじゃないの!」
「アタイ達もよくやってるじゃん、それ」
彼女にここまで出来たのか、と思うほどに的確に突っ込み返す永倉。あまりにあんまりな相方を前に、どんどん冷静になっていくようだった。
と、そこに運悪く、手配中のキンノーが通りかかる。
「………アラタ」
「おおよっ!」
いくら言ってる事が破綻していても、そこは原田、職務を忘れ去ることは無かった。その熱くなり切れない部分が、彼女自身の苛立ちを募らせているのだが。
とにかく、運の悪いキンノーだった。
一方、早めに巡回を切り上げた沖田は、珍しく道場へ足を運んでいた。
誰もいない道場。そこで沖田は、練習用の剣ではなく自分の刀を構える。
構えて、ただ微動だにせず立ち続ける。その体勢で、イメージの中の敵と対する。
沖田にとっては、それは稽古に他ならなかった。剣の天才である彼女は、一般的な稽古は必要が無かった。自分の力と敵の力、それらを完璧に把握し、イメージできる。そしてそれを、イメージの中で動かし、対峙させるのだ。そこには、一切の間違いが入り込まない。そして、そのままの動きを自身が行うことが出来る。それは、実戦においても瞬時に行え、読み違えたことは無い。故に彼女は天才剣士なのだ。
「…フゥ」
「あれ? そーじ?」
緊張を解いたところで、タイミングよく近藤が道場に現れた。それとも、近藤が来たのが分かったから緊張を解いたのか。
とにかく、沖田の稽古は一時休憩のようだ。
「珍しいね、そーじが道場にいるなんて」
「…斬馬刀の相手はしたことが無かったから」
淡々と答える沖田。緊張は解いたと言っても、今の沖田はまだどこかピリピリした雰囲気をまとっていた。
もっとも、それは厳密にはあの日からずっとなのだが。
「ぁ…えっと、斬馬刀相手の練習がしたいなら…」
空気が重い。その雰囲気をどうにかしようと口を開く。それに、実際疑問に思った事でもあったのだし。
ところが、沖田はその空気を和ませようともせず、近藤言葉を遮って言い切った。
「へーちゃんじゃ駄目」
それはもう、取り付く島も無い程キッパリした言い方だった。その静かな剣幕に、近藤は『そうなんだ』とモゴモゴと口篭るしかなかった。
実際、沖田の稽古は藤堂相手を想定していた。そしてイメージの中で出した結論は『負ける要素は無し』だ。
だがそれは、結局刀を使った戦いの上での話だ。今の戦いでは、刀など無用の長物に過ぎない。刀が役に立たない戦いを経験したことが無かった沖田にしてみれば、まさに『勝てる要素無し』だ。
「…それじゃあ、稽古頑張ってね」
結局、空気に耐えられなくなった近藤が去って行ったことで、沖田はまた道場に独りで立ち尽くすことになった。
今度は刀を構えない。稽古はもう終わっているのだから。これ以上は、無駄な行為でしかない。
「…お兄ちゃん」
ただ、誰もいなくなったことで、沖田は自分の思いを声に出すことが出来た。自分に嘘ついて、誤魔化して、気付かない振りをしてたもの。けど、それを失うことを恐れてたもの。それらを全部認めて、戦うことを決めるための一言。
燻っていた火は、また炎になりつつあるようだった。
<あとがき>