開陽丸スクリューの謎

《開陽丸のスクリューの謎!》


 新選組や幕末物で登場する幕府海軍最強の軍艦『開陽丸』。性能諸元等は、様々なホームページに書いてあるので、そちらに譲ります。調べたところ、開陽丸のスクリューに言及したページは見当たらないので私は開陽丸のスクリューの謎について解説します(謎だと思ってたのは私だけかもしないけど・・・)

◆開陽丸はこんな艦
※画像をクリックすると大きく表示されます。
※開陽丸の性能諸元その他は開陽丸(財団法人青少年センター)が一番詳しいと思います。
(我ながら何という手抜きな解説だろう・・・・。でもここのデータが一番詳しい。何と言っても本家本元だもの)

 戦艦大和とか空母キティーホークとかの軍艦のプラモデルを作った事がある人は分かるかと思いますが、船のスクリューの部分は、プロペラの部分を軸に差し込んで作ります。零戦とかのレシプロ戦闘機のプロペラと同じ構造です。
 ↓こんな感じ。(これは戦艦大和の艦尾部分)
 実際の艦でも同じような感じで、スクリューとシャフトは別のパーツになってます。
 ところが、『開陽丸、北へ 徳川海軍の興亡』(安部龍太郎 著 講談社文庫 ISBN:4-06-273613-6)で、87ページに、


「総員に告ぐ。これより追風航行レンセンに移る。エンジン停止。スクリューをアップせよ」
 エンジンが止まると、船に打ち寄せる波の音が急に大きく聞こえ始めた。
 波が砕けしぶきがふりそそぐ音に混じって、巻揚機ウインチを巻く金属音が小さく聞こえた。
 開陽丸は三本マストの帆船であり、蒸気機関はあくまで補助的な動力である。帆走のみの時には二枚羽根のスクリューはかえって邪魔になるので、主軸シャフトからはずして引き上げられるように最新式の設計がしてあった。


 とあります。
 航行中の船からスクリューを取り外すって、一体どうやって????
 船外へクレーンを振り向けてワイヤーか何かで引き上げるとしても、スクリューが船体に当たって船体を傷つけてしまう。というかそれ以前にスクリューとシャフトは固定されているから・・・潜水夫が潜ってロックボルトか何かを外すのか???
 あるいはスクリューシャフトが自在軸になってて、スクリューをシャフトごと斜め上に引き上げるのだろうか?(実際の漁船にそういうシステムがある) しかし、船尾がスパッと垂直になってる小型漁船ならいざ知らず、この規模の艦でそんな事が可能なのだろうか?
 どう考えても分からないし調べても分からなかったので、答えを見つけに遥か彼方の北海道は江差(開陽丸が復元されている)まで行って来ました。


左の2枚の写真は開陽丸の艦尾部分の写真です。
開陽丸(財団法人青少年センター)の中に正確な1/50の開陽丸の模型が展示してありました。オランダに保存してあった開陽丸の図面から起こしたのだそうです。通常、船の絵とか、写真では上半分しか表示されないため、スクリューの部分とかは分からないのですが、この模型では私の知りたかったスクリューの部分も正確に復元されてました。つまりスクリューの部分がシャフトとプロペラごと外枠に固定されており、スクリューユニットそのものを船内に引き上げるのです。
 なるほど!こういう仕組みだったのか! これは思い浮かばなかった。
 センターの方に伺った話では、このスクリューを引き上げるウインチと煙突を下げる(開陽丸の煙突は必要な時だけ上がって来る)機構が連動しており、スクリューがあがると自動的に煙突が下がるのだそうです。

※写真をクリックすると大きく表示されます。 


 引き上げられた開陽丸のスクリューシャフトの実物。写真の右側がエンジンの方へ繋がり、左側の溝のある部分がスクリュー側になります。つまりスクリューユニットが上からストンとこの溝に嵌まって、マイナスのネジを回す要領でスクリューを回転させるわけです。手前にあるギザギザの部品はスクリューの昇降装置です。
※写真をクリックすると大きく表示されます。

開陽丸の艦内(博物館になってる)に展示してあった開陽丸の図面の一部。
※写真をクリックすると大きく表示されます。


というわけで、開陽丸のスクリューは、ユニット式で船内に引き上げるという変わった構造だということが判明しました。1軸だからこそ出来る技ですね。

若竹書庫TOPに戻る