「ラヴラヴ薔・薇・モ−ドで誅」
ウッス! 自分、このたび新選組に入った大石秋次郎言います!
腕に覚えがあったんで、別に攘夷どうこうはどうでもよくって入ったんスけど…いいとこッスね、ここは!
というのも…。
「ん? おお。早いな」
おお!
「…どうした?」
島田先輩ッスよ! 憧れの!
「おはようございます! 島田先輩!」
「ああ。…元気いいな。確か、大石だっけ?」
「はい! 大石秋次郎ッス! アッキーと呼んで下さい!」
「いや、それはちょっと…」
この少し困った顔もいいッスねー。もう、激ラヴッスよ!
そう、自分、島田先輩にマジラヴッス。新選組のために命は張れなくても、先輩のためなら命張れるッスよ!
「で、大石。ここの生活は慣れたか?」
「はい。けど、まだ道が分かり辛いッス」
「そうか。まあ、元々巡回は何人か組になって行くんだしな。じゃあ、一緒に来るか?」
「はい! 御一緒させて頂きますッス!」
早速先輩の横をキープ!
先輩、背が大きいんスよね。自分、160p無いから、横に並ぶと、見上げないと先輩の顔が見えないッス…。
けど、逆に斜めから見下ろした視点が、人の顔が一番綺麗に見えるって言うから、それはそれでOKッス。
それに、丁度自分の目の高さに、先輩の胸板が…。…ああ、…あの胸に抱かれたい…。
「それにしてもおまえ、沙乃みたいだな。その身長で槍持ってるし」
「自分、あそこまで子供じゃないッスよ」
「はははは、悪い悪い。けど、そんなこと沙乃に聞かれたら、ハヤニエにされるぞー」
先輩、思いっきり棒読みなんスけど…。
「自分、原田先輩はあまり好きじゃないッス」
はっきり言って、嫌いッスけどね。あの人、何かと先輩に突っかかってくるし。
まあ、正直、ルックスは自分の方が上ッスね。この女顔で油断する相手を、素早くぶっすりと。伊達に『特技:暗殺』じゃないッスよ。
もっとも、あの人、子供ッスから、島田先輩がなびくことは無いでしょうけど。
「じゃあ、誰が好きなんだ?」
………え゛?
それを聞きますか? それはOKって事ッスか? 自分の後ろを貰ってくれるんッスか?
もう、いつでもOKッスよ!
………? あれ? 先輩?
「おおい、行くぞ、大石」
うう、先輩、愛が冷たいッス…。
けど、自分、絶対負けないッスよ!
* * *
そして時は流れ、慶応三年十一月十八日―――。
「御苦労だ。大石」
自分の足元に倒れる死体を、表情の無い顔で見下ろしていた。
伊東甲子。佐幕路線の新選組から分離し、御稜衛士を結成して尊皇攘夷の活動を行おうとしていた謀略の女。
それが、今ここに死んだ。大石の槍によって。
「この死体を運べ! 残りの者達を誘き出すのだ! …大石、おまえは屯所に帰っていいぞ」
「はい…」
ノロノロと頷く大石に構わず、土方は忙しく指示を出しながらその場を去る。
一人残された大石は、屯所には向かわず、幽鬼の様な表情でゆっくりと歩く。そうしていれば、誰か来てくれると言わんばかりに。
「大石!」
そして、聞こえた声に顔を上げる。
「…島田先輩」
本当に、来た。確証があったわけではない。あるとすれば、それはただの希望だった。それでも、彼ならば来てくれるのではないかと思っていた。
「何やってるんだ、こんな所で。ほら、帰ろう」
手を差し出す島田。しかし大石は、はっきりと顔を上げると、首を横に振る。
「駄目ッスよ、先輩…」
そう言うと、見せ付けるように両手を挙げる。真っ赤に染まった両手を。
「自分の手、もう、真っ赤ッスよ。手だけじゃなく、ほら、全身…」
「それは俺も同じだ」
しかし、その場から動かず頭を振る。
「手を汚したのは、今だけじゃないッス。茨木さんや中村さんも自分が…」
言いながら、興奮してきたのか、声が大きくなっていく。
「全部、新選組の為ッス! 弟が殺された時も我慢したッスよ。組のため。けど、組の為組の為に、自分は…」
「大石!」
聞いていられなくなった島田が、グイッと自分の胸元に大石を引き寄せる。まるで力のこもっていない身体は、何の抵抗も無く島田の胸に収まる。手にしていた槍も、力なく転がった。
「先輩、血が…」
「いいんだ。どうせ俺も汚れてる」
事実、島田も伊東以外の衛士達の暗殺に携わってきたばかりだった。
「先輩、自分は…。自分は本当は、組の為なんかじゃなく、先輩の為に…」
「もういい。何も言うな」
さらに力を込め、抱き締める。
その腕の中で、大石は、『勝った!』と思っていた。
日々の生活の中で、島田という男は弱い所を見せれば落ちる、と踏んでいたのだった。それが見事に図に当たったのだ。
「先輩…」
島田の腰に手をまわし、ゆっくりと顔を上げる。少し瞳を潤ませると言う芸当も忘れない。
そして………。
「島田、危ない!」
と、直前まで大石の頭が合った空間を、剣閃が抜ける。
「斎藤!?」
まったく容赦のない一撃を繰り出したのは、斎藤だった。その目は、大石への怒りと敵愾心でいっぱいだった。
「駄目だ、島田。罠だよ」
「…何が、罠ッスか?」
とっさに突き離れることで、危うく難を逃れた大石が、ユラリと立ち上がる。
その目も、斎藤に負けないほどの怒りと敵愾心に燃えていた。
斎藤と大石、二人は出会った頃から互いに共通した認識を持っていた。すなわち、こいつは敵だ、と。
「先輩、こいつの言うことを聞いちゃ駄目ッスよ! こいつは御稜衛士、すなわち敵なんスから!」
「…ック。ぼ、僕は土方さんの命で、奴らのスパイをしてたんだ!」
「おやおや、自分で自分がスパイだなんて…。そんなこと言うスパイがいるわけ無いッス!」
島田を盾に槍を拾うと、激しく睨み合う。
「島田!」
「島田先輩!」
「ああ、う〜ん…」
一方、取り残された島田は、困惑して立ち尽くしていた。殺気までの怪しい雰囲気はとっくに拭い去られていたし、その上で自分を巡って争われても、如何ともし難かった。ただ、もう帰っていいかなぁ、というのが正直な所だった。
そしてそれは、同じマインドを持つ二人に、寸分違わず伝わった。
「もう、こんな奴に構ってられないッス…」
「こうなったら、実力行使しか…」
標的を島田に変えると、武器を捨ててにじり寄る。
「…? おまえら…」
「先輩! 自分のお尻、貰って欲しいッス!」
「島田! 僕はもう我慢できない!」
「な、何を、止めっ…!」
ただ一人、違うマインドを持っていた島田は、事態に着いて行けずに逃げ遅れた。
「自分、普段は受けッスけど、攻めもいけるッスよ!」
「もう、3Pでも何でもいい! 島田、好きだぁぁぁぁぁっ!」
「おまえら、やめっ…! ………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
そして、油小路にその夜最後の悲鳴が響いた。
* * *
『局中、しきりに男色流行つかまつり候』
後世の人々は、近藤の書いたこの手紙の一節に、様々な想いを巡らせるのだった。
<あとがき>