国はなぜ被爆者にだけ〔医療の給付医療費の支給〕や〔各種手当の支給〕をするの?

 被爆者援護法の前文に、その答えがあります。

被爆者援護法〈前文〉: 

 昭和二十年八月、広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類ない破壊兵器は、幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず、たとい一命をとりとめた、被爆者にも生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し、不安の中での生活をもたらした。

 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保守及び増進並びに福祉を図るため、原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し、医療の給付、医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また、我らは、再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下、世界唯一の原子爆弾の被爆国として、核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。

 ここに、被爆五十年のときを迎えるに当り、我らは、核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし、原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう、恒久の平和を念願するとともに、国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、あわせて、国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため、この法律を制定する

 つまり、「被爆者」と「被爆者ではない人」との最も大きな違いは、「放射能を浴びたか」「放射能を浴びていないか」という点にあります。そのほか、身体的外傷やPTSD(事件・事故や災害など非日常的な恐怖体験が原因で起こる精神的後遺症〔『毎日新聞』より〕)など、他の戦争被害とも共通する後遺症もあります。

 …
 想像してみてください。
もしあなたが、どこかで、なんらかの事故に巻き込まれ、気づかないうちに一定数以上の放射能を浴びたとしたら ――

…ある日、あなたは、体の不調を感じます。
でも、周囲の人は「気のせいだよ」とか「怠け病だ」とか言って、誰も取り合ってくれません。
病院でも、よくわからない、と医師は首を傾げます。
あなたは漠然とした不安と、不安を誰にもわかってもらえない孤独感を覚えます。

…ある日、あなたの髪が突然、大量に抜け始めます。
突然、あなたは高熱を出し、黄色い液を多量に嘔吐します。
いったい、自分の体はどうなってしまったんだ? あなたは苦痛とともに、いっそうの不安にかられます。

…原因が明らかになります。
あなたは放射能を被曝しました、と宣告されます。
白血病?がん?…それまで気にも留めたことのなかったいろいろな病気の名前が、急に頭の中を駆けめぐり始めます。
自分はこれからどうなるんだ?
5年後の今ごろ、自分はこの世に存在しているんだろうか…

―― おそらく、その日を境に、あなたが見慣れた周囲の風景すら、
それまでとは違った姿であなたの目に映るようになるでしょう。
あなたはその日から、どうやって生きてゆきますか?