スノーホワイト
「鏡の独り言」



はじめに…


  都会の片隅のホストクラブ「スノーホワイト」
  その名前は、言わずと知れた「白雪姫」から取られた店の名前である。
  オーナーの趣味で、店内にアンティークの姿見が置いてある。
  そして、この店の人気メニューは、りんごを使ったカクテルと言うこだわり。
  そんな中で、競合店の注目の範疇から外れながらも
  店に出ているメンバーには、足蹴く通う常連が増えつつあった。
  そんな、彼等と彼等を取り巻く人々の日々を見守る、店の鏡の独り言として、
  お話しは進んでいく。

  まず、私鏡の紹介から、
  店に来るお客の中には、古ぼけた汚い鏡と言うが、れっきとしたヨーロッパ生まれの、
  一級品では無いが…。充分この店の中心として役に立っていると自負している。
  そして、白雪姫の継母のように、毎日誰かが話しかけて来る。
  自分の姿を写しながら。その毎日のお話しを皆さんに、お聞かせしましょう。






八人目・一帆


 一帆「鏡よ、鏡。」

  おや、一帆か…珍しいな。

 一帆「鏡よ、俺マジになりそうで、怖いんだけど…。」

  マジ!?って、何に…!?

 一帆「この前、開店間際に、桂を追っかけて怒鳴りこんできたお客様覚えてるか!?」

  あぁ、覚えてる。ちっこいのに元気なお嬢さんだった。

 一帆「彼女の事が、頭から離れないだ…。」

  おいおい、一帆らしくなく弱気な…。


  ここからは、その時の様子を、話したいと思います。


 シナ「桂!!待ちなさい!!あんた、やりたい事見つけたって、家出たって。
   何やってるかは、おばさんに言ってないって聞いてたけど、
   そんな恰好してこんな店出入りしてる何て!!」
 桂 「待ってよ!!今から仕事何だから、確かに母さんに話して無いけど、やりたい仕事何だから、
   嘘はついてないよ。」
 シナ「嘘じゃないにしても、ホストクラブって、水商売じゃないの!!」

  うっわ、激しいお嬢さんの登場だね。桂とはどんな関係何だか!?

 一帆「桂、どうした!?開店前にお客様入れるなよ!!」
 シナ「客じゃ無いわよ!!」
 一帆「お客様じゃない!?」
 桂 「一帆さん…。シナ…実家の近所の姉貴って言うか…、幼馴染み。」
 一帆「姉貴!?桂より年上って事か!?」

  一帆、まじまじと見てやるなよ(苦笑)いくら、ちっこくても…。

 シナ「悪かったわね。年齢に身長は関係無いでしょ!!桂とは、小さい時から良く遊んだし、
   桂の家にも出入りしてるの。だから、おばさんが、桂の事心配してるのに、
   まともに連絡してないって聞いてたから、さっき見かけてここまで、追っかけて来たの。」
 一帆「そしたら、ホストクラブへ入って行ったから、驚いたって事!?」
 シナ「そうよ!!男の仕事じゃ無いでしょ!!」
 一帆「言ってくれるね。俺達はこう見えても、この仕事にプライド持ってる。」
 シナ「プライド!?男が女に媚びてお金出させて、それにプライド持ってどうなるのよ。」
 一帆「媚びてね。そう思われても、反論はしない。でも、一夜の夢をお客様は買いに来るんだ。
   俺達も、その一時朝になれば消えるうたかたの泡のような物だけど、夢を売る。夢を作る。
   その事にプライドを持ってる。」
 シナ「消えてしまう、夢を売って何が、残るの!?結局お金じゃない。」
 一帆「だから、否定はしない。でも、夢は安らぎと明日への活力に繋がってると、信じてる。」
 桂 「はい、来店した時は疲れ切ってたお客様が、だんだん元気になって、帰る時笑顔で帰ってくれたら、
   今日も良い夢届けられたかなって、嬉しくなります。」
 一帆「桂、ようやく分かって来たな!!」
 桂 「最初から、分かってます。うまく出来ないだけで…。」
 シナ「夢ね…。お客を誉めて、お酒飲ませて。酔わせるだけじゃないの!?」

  あらら、現実的と言うか何というか…。

 一帆「それが、必要な人がやって来る。それで構わないと思うけど…!?」
 シナ「必要な!?」
 一帆「そう、自分に自信無くしてたり、嫌な事忘れたくてここにやって来る。
   甘い言葉や、疲れた心を忘れさせるお酒が必要なら、それで良いと思うけど。」
 シナ「…。」
 一帆「君は、とっても現実的に物事を見てるようだけど、仕事や人間関係とかで疲れて、
   嫌になった事は無いかい!?」
 シナ「ある…。」
 一帆「そんな時、話を聞いて優しい言葉をかけられたら、嬉しいと思わない!?」
 シナ「嬉しい…。」
 一帆「ここは、そんな疲れた心を癒しに来る場所なんだ。それを手助けするのが、俺達の仕事何だよ。」
 シナ「癒しね…何となく、言いくるめられた気もするけど…。桂!!一応、おばさんには報告するからね。」
 桂 「シナ!!待って、母さん心配するから、暫く待ってよ!!」
 シナ「心配させるって事は、自覚あるみたいね…。良いは、待ってあげる。
   でも、元気で働いてるって事は、知らせるし、桂も連絡入れるのよ!!出ていったきり連絡無いって、
   気にしてたから。」
 桂 「分かった…。」

  いやはや、元気なお嬢さんは、見慣れているが、このお嬢さんはとびっきり元気だね(笑)

 一帆「お嬢さん。シナさんかな!?」
 シナ「…!?」
 一帆「後少しで、開店時間だ、桂のホストっぷり堪能して帰ったら!?」
 シナ「えっ!!(爆笑)やめてよ、まだ赤ちゃんかって頃から知ってるのよ。
   照れくさくってやってられないわよ(爆笑)それに、私は帰らなきゃ、自分の親が心配するわ。」
 一帆「桂が、駄目なら、俺を指名してくれたら良いんだけど…。」
 シナ「貴方を…!?」

 おや、一瞬…。

 シナ「よす。ホストに溺れるってタイプじゃないし、普通のOLじゃこんな店で遊ぶ何て、
   とてもとても…。」
 一帆「それなら、一度だけ。一度だけ来てくれないかな!?俺の見せる夢を、見に来て欲しい。」
 シナ「一度ね…考えとく…。」
     「桂、さっき言った事、忘れないでよ!!」


 一帆「彼女は、そう言って帰って行った。あの後来店してくれるのを、俺は待ってる。
   いや、待ってる俺に、驚いてるんだ。素人に惚れたら…。」

   あぁ、本気みたいだね、それは…。おゃ…!?

 シナ「こんにちは、こちらの開店時間って何時からでしょう!?」
 一帆「シナさん!!」
 シナ「えっ!!あっ!!と…。」
 一帆「お待ちしてました。開店までまだ時間はありますが、今夜は帰さないので、
   その覚悟で居てください。」

  待ち人来たれりか…。
  一帆の奴、張り切ってるが、素人相手にどうなるやら…。
  良い夢で、お互い終われば良いんだが…。







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