はじまり
まず、最初は栄光。
セバスチャンの、ペテルスブルグでの、演奏会から。
舞台中央に、グランドピアノ。
彼の音は、澄み切った心そのもの。
演奏終わって、身分の高いと思われる家族が、登場する。
皇帝ニコライ2世の一家が、
パリから、来たセバスチャンの演奏を聞きにやって来て居た。
まず、皇后が彼の演奏の素晴らしさを褒める。
一緒に来ていた、皇女達も言葉は交わさないが、
満足してくれた事が分かる様子だった。
皇帝も、演奏の素晴らしさに、言葉少ないながら、セバスチャンに言葉をかける。
皇帝に、言葉をかけてもらえたと言う事は、外国人ながら名誉だと理解出来た。
また、皇帝は穏やかな人柄と受け止めて、
セバスチャンは、ペテルスブルグでの、演奏に満足して居た。
翌日(か、少し後)ガボン神父が、セバスチャンを訪ねて来る。
セバスチャンは、まだペテルスブルグを出ては居ない。
ガボン神父は、演奏会の成功を称え、セバスチャンに幸福が訪れるだろうと、話す。
そして、明日自分は、民衆を率いて、皇帝に嘆願書を渡しに行くつもりだと、言う。
労働者達の、悲惨な現実をわかってもらいたいのだと…。
セバスチャンは、皇帝はきっと会ってくださるだろうと、成功を信じて別れる。
翌朝民衆の声が、聞こえて来る。
セバスチャンの、宿泊先の前を通って行くのだ。
先頭を行くガボン神父を見つけて駆け寄る、セバスチャン。
もう少しで、皇帝の住む冬宮だと、話て居たら…突然悲鳴のような叫び声が上がる。
続いて、銃声が響く。
兵士の声、皇帝はお会いにならない、ここから進む事は許さない。
と、民衆に銃を向けた。
再度響く銃声と、人々の逃げ惑い、皇帝の名前を叫ぶ声が響く。
辺りは、一瞬にして人々が入り乱れる、地獄絵図と化す。
セバスチャンは、倒れた人を助けようとするが、
自分も、進む事も退く事も出来ずに、辺りを染める、赤に取り込まれて行く…。
赤から白へ
騒乱は、去り。白い壁と質素なベッド。
その傍らには、イヴェットが眠って居る。
ベッドから、ゆっくり起き上がる、セバスチャン。
眠ってる彼女の髪を愛しげに撫でる。
静かな、一時。
そこへ、マザーが、シャルロットと入って来る。
イヴェット以外には、恐怖に近い拒絶を見せる、セバスチャン。
そんな彼に、気付いて、目を覚ます、イヴェット。
マザーにまず謝り、セバスチャンを落ち着かせる。
マザー達は、貴方を傷つけない事。ここは、もうフランス、パリなのだから、
心配しなくても大丈夫だと、言って聞かせる。
マザーが、相変わらず、イヴェットの言葉しか、
理解しないのですか…と、少し淋しげに言う。
でも、二人はずっと寄り添って生きて来たのだものね。
と、二人を幼い頃から知っていると話す。
二人は、孤児である事、
でも教会の手伝いで、覚えた、ピアノ(オルガン)で、
セバスチャンは見出だされ成功し、
彼の助けで、イヴェットは、バレエを始めた事等語り合う。
シャルロットは、そんな二人が羨ましいと、話に入って来る。
彼女は、逆に裕福と言うか、温かい家庭で育ったが、兄弟は居なかった。
そんな中で、暫く落ち着いて居た、
セバスチャンが再度怯えたような、呻き声をあげてイヴェットに、縋り付く。
マザーが、語りかける。
セバスチャン、教会へ来なさい、
静かに、神様の光と言葉に耳を傾ければ、貴方の心の、光が見つかるでしょうと…。
それでも、怯えてイヴェットの影に隠れようとする、セバスチャン。
イヴェットが、自分は仕事とレッスンが…に。
シャルロットが、語りかける、私が迎えに来ます。
以前も、教会で会ってるんですよと…。
穏やかに、セバスチャンの顔を覗き込む、シャルロットに、
セバスチャンの警戒心が、薄れる。
朝の少女達
早朝、シャルロットとイヴェットに付き添われて、病院から出る、セバスチャン。
イヴェットが、外出はまだ無理じゃ無いかと不安げである。
シャルロットは、あの白い部屋に閉じこもって居たら、彼の心も閉ざされたまま。
まだ、人の多く無い早朝なら、セバスチャンも教会まで行くのも、
さほど心配要らないだろうと、微笑む。
ゆっくり、進む間に、散歩中の老夫婦や、子供達とすれ違う。
怯えた様子を見せながらも、立ちすくんで動けない程では無かった。
それでも、途中の川辺りのベンチに、セバスチャンを座らせて少し休む事にする。
イヴェットと、シャルロットは、セバスチャンが落ち着いて居る事に安心して、
昨日のレッスンの話を始める。
柔らかい、二人の少女のバレエレッスン。
朝靄の中で、二人の動きに聞こえる筈の無い、音が付いてるような錯覚を、
セバスチャンは覚えて居た。
まるで、眩しいものを見たように、目を覆ってしまう。
そんな彼に驚いて駆け寄る、イヴェットと、シャルロット。
怯えて、興奮して居る訳では無いとわかって、二人は安心する。
ゆっくりと、セバスチャンを両側から支えて、再び歩き出す。
声
賛美歌を歌う子供達の声が聞こえて居る。
セバスチャンは、不思議な感覚に包まれて、
イヴェットと、シャルロットに伴われて、教会の中へ入る。
柔らかな、ステンドガラスの光の中で、辺りを見渡す、セバスチャン。
歌って居た、子供達が入って来た三人に、少し驚き騒ぐ。
子供達は、セバスチャンが何者か知って居た。
以前、教会で慈善コンサートを開いた事があったのだ。
騒ぐ子供達に、怯えるセバスチャン。
マザーが、子供達に別の部屋へ行くように、言う。
素直に、子供達は行こうとするが、
一人セバスチャンを気にして残っている少年が居た。
仲間に呼ばれてから、部屋を出る。
マザーが、よく来た事、もう少ししたら、礼拝の為に、他の人達も来るけれど、
それまで、ここで神の声に耳を傾けなさい。と言って去る。
静寂と、光。
セバスチャンは、漠然と祭壇の、キリストを見る。
はっきり蘇る恐怖!!
十字架にかけられた、キリストが、血を流す民衆と重なった。
叫び声を上げて、うずくまる、セバスチャン。
イヴェットがしっかり、抱きしめる。
シャルロットは、神様は貴方を苦しめて居る筈無い…
不安も恐怖も、生きて行くには必要な事何じゃ無いかしら…。
貴方は、生かされ、自分の国へ愛する人の元へ帰って来たのだから。
イヴェット以外の、誰の声も受け付け無かった、セバスチャンの心の中に、
シャルロットの、生かされた…と言う言葉は、染み込んで来た。
苛立ち
再び、ベッドの上のセバスチャン。
膝を抱えて、何か考え事をして居るようにも、見える。
イヴェットが、入って来る。
シャルロットが、教会へ行こうと、迎えに来た事を告げる。
すぐには、反応しない、セバスチャン。
そこへ、シャルロットが、先日最後まで残って居た、少年と一緒に入って来る。
シャルロットに、声をかけられて、ようやく反応するセバスチャン。
少年を、セバスチャンに紹介して、今日は二人が一緒に行く事を説明する。
怪訝そうに…しかし、拒否を見せるセバスチャン。
蘇った恐怖は、彼に部屋から出るな!!と、告げて居た。
少年は、行儀良く。しかし、興奮した感じで、
セバスチャンに会えた事を喜び、彼の演奏が大好きだと告白する。
セバスチャンは、少年が話す中で、ピアノ、演奏、音楽と言う言葉に、苛立つ。
そして、初めての叫び声『出て行け!!神様何て、いやしない!!』
と…。
イヴェットは、あの日以来、言葉を無くして居たセバスチャンに、
言葉が戻った事に、喜びを感じつつ、神を信じ、天の音を奏でて来た、
彼の言葉とは思えず、泣き出す。
シャルロットは、それでも教会へ行きましょうと、誘う。
神が居るか、居ないかは、こんな場所で、今のセバスチャンの状態では、
わかる筈は無いと、言って少年と、さらに近づく…。
イヴェットが、二人を止める。
今日は、帰って欲しい事。
セバスチャンが、はっきりと感情を言葉にしたのだから、もう少し待ってくれと頼む。
シャルロットは、理解して少年と部屋を出る。
少年は、セバスチャンと行け無い事を残念そうに、
振り返り、何度も振り向きながら去って行く。
まだ、興奮と苛立ちに包まれた、セバスチャンに、イヴェットが問い掛ける。
何故、行きたく無いのか。あれ程信心深かった、セバスチャンが、
神様など居ないと叫んだのか…。
問い掛け、瞳を覗き込むように、見つめる、イヴェットから目を反らして。
神が居るなら…あの時人々を見殺しにする筈無い!!と…。
イヴェットは、逆に応える言葉が見つからずに…
セバスチャンを見つめて、立ち尽くす。
夢と現実
セバスチャンが、言葉を取り戻して数日…
シャルロットか、少年は毎日どちらかが、セバスチャンを教会へ誘いに通って居た。
荒れて、拒否を続けるセバスチャン。
それでも、彼の音を信じて二人は通い続けて居た…。
少年と、友人達。
少年が、セバスチャンの元に通う事が、友人達には理解出来なかった。
確かに、自分達と同じ境遇で、才能によって成功した人物だけど、
今の彼は荒んだ、世間的に使えない人物になり下がって居ると指摘する。
少年は、セバスチャンを庇いながらも、
今の彼は確かに、以前と違い過ぎると、淋しそうに語る。
憧れが、現実を目の前にして、失望に変わる事に、恐れも持って居た。
このまま、セバスチャンが神を憎んだまま生きて行くのは、
少年にとって、あってはならない事だと、
いや、ある筈無いと信じたかった。
バレエレッスン
セバスチャンが、眠っている傍らで、出来るだけ静かに、
イヴェットが、レッスンの復習をして居る。
それでも、バー代わりの、テーブル(ベッド)の軋む音に、セバスチャンは目覚める。
イヴェットは、起こした事を謝る。
セバスチャンは、少し苛立つが、レッスンは外で…と、言って再び眠るふり、
を、する。
イヴェットは、セバスチャンに、以前のように、貴方のピアノで踊りたい。
貴方のピアノを独り占め出来たのは、私だけだったのに…と、素直に思い出を語る。
そして、いつか自分がプリマになって、大舞台で
セバスチャンのピアノで、踊るのが夢だったと…。
セバスチャンは、皮肉混じりに、夢は夢に終わった事。
自分は、自分の指はもう以前のように動かないと、苛立ち吐き捨てるように言う。
イヴェットは、黙って聞いて居るが、
指の負傷は治って居る事、ピアノに向かえないのは、精神的な物だと分かって居た。
それでも、その事に触れるのは躊躇った。
無垢なる者
数日後…。
部屋は質素ながら、病院の白い部屋とは変わって居る。
セバスチャンの、住まい、小さいがピアノと、テーブル。
奥に扉があるので、寝室と思われる。
セバスチャンは、自分の部屋に戻って来た事に、喜びより、複雑な想いを持って居た。
ピアノに、近づくが触れる事を躊躇う。
テーブルに近づき、椅子に座って頭を抱え込む…。
夜明け…。
朝の光が、差し込む。
ベッドに行かずに、眠ってしまったようだ。
再び、ピアノに近づくが、やはり触れられない。
窓の外を、眺めた時人が居る事に気が付く。
外へ出る、セバスチャン。少年が、部屋に入るに入れないで、待って居た。
セバスチャンは、何故此処に居るのか、聞く。
教会に誘いに来たと、答える少年。
行く気は、無いと言いながら、淋しそうにして居る少年に、
朝の散歩ぐらいなら付き合うと言うセバスチャン。
少年の顔が、明るくなって、それで充分です。と、二人で歩き出す。
最初は、話す事も見付からずに、俯きながら並んで歩いて居たが、
セバスチャンから、何故毎日のように、誘いに来るのか、聞く。
セバスチャンに、憧れて居た事…
セバスチャンが、神様を信じない何てあって欲しく無いと語る。
セバスチャンは、それに答えられずに…居た。
沈黙の中で、オルゴールを奏でるワゴンに出会う。
二人足を止めて、少しの間聞いて居る。
少年は、不思議な物を見るような、感動を。
セバスチャンは、音楽への恐怖と、それを少年に悟らせたくない、迷いの中に居た。
演奏が終わって、二人はまた歩き出す。
人々の営みは、日々の生活の中、何があっても大きな変化があるようには、
思えなかった。
二人は、結局教会にたどり着く。
少年は、セバスチャンがどうするのかと、不安そうに見つめる。
セバスチャンは少年に、これからどうするか聞く。
少年は、今から聖歌隊の練習がある事、良かったら聞いて行って欲しいと、
恐る恐る聞く。
一瞬躊躇うが、少年の無垢さに、練習に付き合う事を承知する。
教会…
他の、少年少女達も集まって来て居た。
少年が、セバスチャンと共に、やって来た事で少し騒ぎ立てる子供達。
そこへ、時間になったからか、シスターがやって来て、子供達を叱りながらも、
セバスチャンに気付き、貴方の前で伴奏するのは、嫌だわ…と、笑う。
流れる空気は、温かい物だが、
セバスチャンは素直に受け入れる事が出来なかった。
やがて、子供達の歌声が教会の中を満たして行く、
無垢なまだ人の世の汚れを知らないからこその、
澄んだ歌声に、セバスチャンは包まれる。
一曲終わる頃に、セバスチャンは、他の部屋へ移動する。
そんな彼を、マザーが見つけて声をかける。
やっと来てくれたと喜ぶが、自分から来たのでは無いと理解して居た。
マザーに対しては、ストレートに神への不信を口にする。
マザーは、神を信じられなくなったのは、
目の前で人の血が流されたからですか…。と、問う。
それは、あります…いや、それだけでは無い…と、
自分の怒りが何処へ向けられて居るか、自分に問い掛ける。
マザーは、人は皆が正しい道を歩む訳ではありません…
正しいと信じるから、道を踏み外す事もあります。
心弱い人間だから、神様の愛に縋るのです…と。
正しい者とは、誰の事ですか!!間違った者とは…。
自分は、あの惨劇の前に、皇帝一家にお会いしました。
穏やかな方で、家族を愛していらっしゃる事も、
短い時間でも、充分わかりました。なのに…。
民衆の声に耳を貸さなかった。
それどころか、皇帝を信じて集まった彼らに、銃を向けて…!!
セバスチャンは、話ている間に、あの時の事が鮮明に蘇って来るのが、わかった。
人が人を手にかける、民衆は皇帝を信じて集まって来ただけなのに、
彼らの声に少しだけ、耳を傾けてくれていれば…。
マザーは、セバスチャン貴方は、神と皇帝陛下を重ねているのですか?
と、聞く。
セバスチャンは、自分の苛立ちを言い当てられて、逆に言葉に詰まる。
マザーは、続けて皇帝陛下の、取った行動は正しいと言えるか、間違っているかは、
これからの歴史が決めてくれる事でしょう。
貴方は、それを見届ければ良いのです、怒りを封じ込めなさいとは言いません。
でも、貴方は、生きて戻ったのです。
その事に、意味がある筈、何故あの惨劇に立ち会わなくてはならなかったか、
恐怖し、苦しまねばならなかったか、すぐには見つからないでしょう。
だからこそ、答が見つかるまで、ここに通って来なさい。
神と話をするので無く、自分と対話する気持ちで…。
そして、生かされた意味を、見つけなさい。
と…。
以前、誰かも同じ事を言ったような、記憶の中を探す、セバスチャン。
再生
あれから、セバスチャンは、自分でも信じられないが、
マザーに言われた通り毎日教会に通って行った。
礼拝堂にずっと居ても、そこに座って居るだけだったし、
子供達の歌を聞いて帰るだけの日も多かった。
しかし、彼の中の何かが変化して行くのは、セバスチャン自身が感じて居た。
いつものように、教会から帰ろうとして、シャルロットに、呼び止められる。
シャルロットの話で、最近イヴェットが、バレエのレッスンを休みがちだが、
何か理由に心あたりが無いかと聞かれたのだ。
セバスチャンは、勿論理由処か、レッスンを休んでいるとは思っていなかった。
教えてくれた、礼だけ言って帰宅する。
部屋で、彼なりにイヴェットが、レッスンを休む理由を考えていた。
思い当たる事は、レッスン代が不足している事…。
セバスチャンの、治療費や生活に必要なお金は、彼の貯えから出ていた筈だが、
あの日から、随分日が過ぎて居た事に、今更気が付いた。
今、仕事の出来ない、セバスチャンの生活は、彼女が支えてくれていた。
働く…ピアノだけで生きて来た、セバスチャンにとって、
どうすれば良いのか、分からなかった。
ドアを、ノックする音がする。
呼びかけてみる。イヴェットだ。
シャルロットが、セバスチャンに、話た事を知って
心配しないでと、言いにやって来たのだ。
でも、セバスチャンは、仕事を探すと約束する。
やはり、明るい表情になる、イヴェット。
そして、実はバレエのレッスンでの、
ピアノ伴奏者を探している事を聞いて帰って来て居た。
ピアノ…セバスチャンは、即答出来ずに、イヴェットを帰す。
イヴェットを、帰してから…迷いながら、ピアノの前に行くセバスチャン。
自分に、もう一度ピアノを弾けるかどうか…触れる事にすら、恐怖を感じて居た。
それでも、イヴェットの笑顔を思い出して、自分を奮い立たせて、ピアノに向かう。
そして、無意識に十字を切って祈りを捧げてから、
ピアノの蓋を開けて、ゆっくり弾き始める。
天の音は、戻らない。
しかし、セバスチャンのピアノは、イヴェットの為に蘇った。
セバスチャンの、ピアノに合わせて、イヴェットが踊っている。
イメージで、終わる。
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