<< 無 能 >>





雨の日に痛むのは手足だけじゃない

そんな日に思うのは [ あの人 ] のことだ

こんなふうに途切れなく降る雨を見詰めて

[ 好きじゃないんだ ] と

作り笑いをする [ 大切な人 ] のことだけだ ─



室内を満たすのは、朝から降り続く雨の音。

昼を過ぎ、夕刻を迎え、なお止まない雨の音。


「鋼の?」

背中でロイが呟いた。

「ん─?」

エドワードは身動きもせずに返事をする。

絨毯の上で背中をくっつけて寝転んでいるから、互いにそこに居る

のは分かっているのだが、[ なんとなく ] [ 時々] 声を掛け合う。


「 ・ ・ ・ やまねえな」

「そうだな」

「腹減った」

「そうだな」

「飯くいに行こうぜ」

「 ─ ああ」



外へと出ると、悪天のせいでいつもの時間よりも少し暗く、

早々と点いている街灯 ─

「何食う?」

一つの傘の中で見上げるロイの表情には答える気がなさそうで、

その視線の行き先を黙って見つめた。

もらった心を幾重にも鍵をかけて保存しても。

あっさりとふぬける ─ あっと言う間に持っていかれてしまう ─


ただの [ 雨 ] に負ける。


エドワードは知っていた。

[ 雨の日は無能になっていたほうがいい ] こと。

軍に所属している以上、むやみやたらに [ 戦場 ] に呼び出されて

命を危険にさらすことはないのだから。ロイの部下達がどれほどの

努力をして [ 無能 ] を築き上げてきたのか。

進む事を強いる身体にでも、安全と休息は必要なのだから。

自信過剰で直情的な上司 ─ 護りたいとただ真摯な気持ちで、

今一番 [ 理想の位置 ] に近い上司を。



「雨、止まなけりゃいいな」

傘から落ちる滴を手のひらに落として─ふと口についた・・

「早く上がらないだろうか ・ ・ 」

互いの口から言葉は覆い被さる様に少しずれて ─ 顔を見合わせた。

「あんたが ─ 」

「君が ─ 」


イタミ デ クルシマナイ ヨウニ


ロイは、息を吐き出すようにくすっと笑う。

少しだけ膝を折り、エドワードの耳に唇を寄せた。

「ねえ鋼の。食事はテイクアウトでもいいかい?」

低く、だけど [ 好きだよ ] と言う時の口調に似ていて、思わず肩を

震わせた。

「こんな日は、やはり出歩くのは止めよう」


タガイ ガ タガイ ヲ キヅカッテ


そのうれしさに立っていられないくらいの目眩がおきる。

抱き締めたくなる ─



「ローストビーフのサンドイッチに、デザートは
   ラムとライムのシャーベットではどうかな?」

「うん」



ロイは屈んだまま、傘を少し傾げた。

その肩を濡らしていく雨。

目を閉じずに待つ。

近づいてくる顔を少しでも長く見ていたくて。


「早く 早く 帰ろ ・ ・ 」

このキスが終わったら ─





                       

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