焔 華 2
白い霧が薄い布のように目の前にある
払っても、払っても ─
纏わり付いて果てが見えない
それとも初めから教えるつもりもないのか?
ただ迷わせて─
東方司令部はある意味迷路。どのドアも廊下も同じに見えて戸惑う。
迷わず行けるのは、限られた場所。 食堂と資料室と執務室と─大佐の・・・・
別に不自由はない、けど・・
大佐のいる部屋の前で足踏み。 ノックしかけては止めている。 もう何度も。
長い息をオレは吐いた ─
俯き加減の気持ちは、自分でも嫌になるくらい不本意で・・
だけどそれは全部このドアの向こうに座っているはずの人のせいで。
─ キスしようか? ─
ぶんぶんと振る頭の中で、あの時の映像がぐちゃぐちゃに混じる。
「何をしているんだ?入らないのか?」
背中で声 ─ 飛びのくほど驚く。
大佐は意味有り気に薄くほほ笑む。
「どうした?また外出許可願いか?」
オレの右手に視線。そして受け取って書類の内容をざっと目で追った後ドアを押し開けた。
机の引き出しから承諾印をだし、事も無げに押す。
「そうだな、旅費、諸費用等は見積もり通りに午後には用意が出来るだろう
出納課に出向きたまえ」
水平に差し出された紙。白い手で折りしまう。
その間も感じる大佐の視線は槍。
「随分、今回は遠い場所まで行くのだな」
「理由は書いたはずだ・・ちゃんと」
「これでは、君がいつ頃戻ってこれるのかさっぱりだがね」
「別にいいだろう。オレはここに必要無いし」
「何故?」
「あんたが許可したんだ。印を押して」
そっぽを向くと、大佐は少し声を出して笑った。
突っ立っているオレの側に屈み込んで顔を覗いてくるから強く目を閉じる。
「まさか、あの程度の事で君が逃げ出すとはね」
肩を引き付けられて ─ 瞼に唇 ─ じんと耳鳴り。 髪の中に指 ─ 背中が総毛立つ。
「逃げて・・いるもんか」
「そう?」
少しの沈黙の後 ─
「いいけどね・・逃げてもどうせ」
囁きは、
「君が帰って来れるのは、ここしかないのだろうし」
耳の奥に深く刺さる。
人の心は迷路だと言う。
でも、この人にあるのは ─
オレを閉じ込めるための完全な迷宮。
─ next ─ ─ back ─
戻る