『甘い憂鬱』
コーヒーとシリアルとフルーツ。
紅茶とベーグルと厚く切ったベーコンとコールスローとオレンジゼリー。
ゆっくりと、コーヒーカップを口元へ持っていきながら、ロイは向かいの
エドワードを眺める。
少し粘質のあるベーグルを根気よく噛み、冷めた紅茶で飲み下す。
続けて、焼き色がほぼ均等な一口サイズのベーコンに、フォークを
突き立てて口へとほうり込む ─
再び刺して、そこで顔を上げ、やっとロイと目を合わせる。
「ちょっと・・」
「ん?」
「ん」
フォークを突き出されたロイが首を傾げると、エドワードはもう一度同じ
動作をした。
「じっと見てられたら食いにくいって、いつも言ってんのに。
それに、食いたいなら、そう言え」
「・・・・」
ああ・・とロイは納得したように頷き。
ふっと表情を僅かに崩し、突きつけられている、ベーコンを頂くべく
口を開けた。
「 ─ 自分のも焼けばいいじゃないか」 どうせ作るんなら ─ などと、
ぶつぶつと文句を言うくせに ─
食事を続けるエドワードの耳は赤く、そういうのも見ていて楽しいものだと
ロイは思う。
「その時は、欲しくなかったしね」 正直に答える。
今だって、ねだって見つめていた訳ではないのだが、と言いかけて、
まあ余計だなと思い返し、ロイはコーヒーと共に言葉も飲んだ。
一言でもそんな言葉を発したなら、もう二度と、一緒に食事をしてくれそうに
ないほどの罰を受けてしまうのだろうから。
「もっといるか?」
「いや ─ ごちそうさま」
「ふぅん」
エドワードはサラダの皿も空にして、ゼリーを手前に引き寄せた。
薄いオレンジ色の柔らかな山を銀のスプーンが崩していく。
細かい果肉が交ぜてあるそれは、以前東方司令部の誰かが差し入れだと
持ってきたのを、丁度報告で居合わせていたエドワードにも渡り、喜んで
食べていた物で ─
にこにことして平らげる様を見せてくれただけでも、わざわざ用意したロイと
しても十分満足に値した。
「はあーやっぱり、うまいよなこれ」
スプーンを銜えたまま行儀悪く話す。 それを、咎めようとしたが、喜んでいる
顔がまた、しかめっ面になるのも嫌だから、良かったなとロイも頷いた。
「もうないの?」
「ランチ用にとってはあるが?」
「 ─ そっか」
銜えていたカトラリーをクロスに置いたエドワードは、勝手知るキッチンの方を
見て席を立った。
「 ─ 上の段の手前だ」
ロイが、そう教えてやると、うんと頷いて小走りにその場所まで行く。
冷蔵庫から迷わず取り出すと、テーブルへと戻って来てロイの前に置き、
それから、自分の椅子をガタガタと音を立てて引きずり、ロイの隣へと
持って来てそのまま、すとんと座った。
「どうした?」
ロイは、いったい何を始めるのかが全く解からないという表情で顔を覗き
込むとエドワードは答えずに、先ほど使ったスプーンを手にしてゼリーを
ひとすくいした。
「・・オレ、昼にはもう大佐とめし一緒に食えないから ─」
ゼリーはふるりと揺れる。
「だから ─」
「そうか・・もう、発つのか」
ずっと持っていたコーヒーカップを置き、ロイは神妙な顔付きをした。
エドワードはゼリーを口に含んで、少し飲みにくそうにして嚥下した後、
ポケットから四角く折り畳んだ許可証を取り出して、テーブルに置いた。
ロイは、仕方がなさげに指先で引き寄せ、見たからに億劫そうに、のろ
のろとそれを開き、目を通してまた元のように畳んだ。
「あんたがそんな顔をすると・・困る」
「そう?」
「だからオレ」
「言えなくて、こんなギリギリに?」
「ごめんて」
「いいさ、別に今更驚きはしない」
そう言いながら、ロイの腕はエドワードの両肩を擦り抜けて小さな頭を
抱え込んだ。
「夕食用にもあるのにね」
小さなため息。
エドワードが、胸に顔を押し付けて来たのを感じ、そろそろと頭を撫でると、
背中に回った指先が服を強く握った。
「今度はどんなものを用意すれば、
君は今より長くここに居てくれるんだろうな」
ロイは、食べかけのゼリーを見つめた。
脆く、柔らかい ─
甘く、甘く、甘い ─
「残さずに、食べていけよ?」
こくりと、頷いたエドワードの顔が、胸からようやく上げられて、オレンジ味の
キスがロイへと送られた。
まったくもって甘い ─ ロイはそう胸の中で呟いた。
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