2007/09/16 by てるてる
ミンナウリのカード~プロローグ~
~(一)~
~(二)~
秋の午後の陽射しが、天井まで届く大きなガラス窓から差し込んでいた。格子の形が床に十字架のような影を落としていた。
ぶ厚い、重いカーテンが、窓の両脇に寄せられ、紐でくくられて、ゆるやかなカーブのたるみを見せていた。
窓の外には、建物の三階まで届く大きな樹木があり、その影が、部屋の中央に大きく落ち、風で少しゆらいでいた。
窓のある側と反対側、および両側は、これも天井まで届く書棚がびっしりと並び、三方のそれぞれの前に、上の棚から本を取るための踏み台が置かれていた。窓の反対側の、ドアのある部分だけが書棚と書棚との隙間になっていた。
部屋の中央、ちょうど部屋の外の樹木の幹の、太い枝が左右に伸び、たくさんの葉や枝の影がピラミッドのような形を作っているその中央の辺りに、わたしがすわっている机と椅子があった。年代物の古い重厚な木製の机の表面は、磨きこまれた瑪瑙のように見えた。椅子もまた古い物だった。革張りの、深い安楽椅子に腰掛けて、わたしは、一冊の書物を広げ、その最初のページの口絵を眺めていた。
この建物そのものが古く、書斎の中にあるものも古い物ばかりなのだが、その中でも、この書物は、他の多くの古い書物とは、さらに、変わっていた。著者も出版年もはっきりしない。印刷されているのだし、欠けたり破れたりしているページもないのだから、当然どこかに記されているはずであるのに。この本は私家版で僅かの部数印刷されたもの、ではあるらしい。
最初のページの口絵は、朝鮮王朝時代の、身分の高い若い男の絵である。ゆったりとした、くすんだ青い色の韓服を着て、黒っぽい色の笠を被っている。男の笠の紐と、服を腰で結ぶ紐とが、ちょうど天人の裳のように、男の両側に長く優雅な線を描いて伸びている。男は両袖を胸の前で交差させて、手は隠れており、空中に浮かんでいるようであった。その背後には、丸いステンドグラスのような美しい花模様の絵が描かれていた。これは、「ミンナウリのカード」なのだ。
「ミンナウリのカード」とは、宮中の女官たちの間で、幸運を齎し、守護してくれるお札として、重宝がられたものだという。最初にこのカードが作られたのがいつなのか、誰が最初の持ち主だったのか、わからない。カードは数枚、作られて、長い歳月の間にいたんでくると、また新しくカードが作られ、全部で数十枚、作られたらしい。そのカードを持ち歩いた女官たちがどんな人柄で、どんな顔立ちをしていて、どんな人生を歩んだのか、わからない。女官たちは、王の女として、側室にでも選ばれない限り、一生、結婚も恋愛も許されず、王宮の仕事をこなし、病気になると退廷させられ、最期は尼寺でひとり寂しく亡くなるのだ。ミンナウリのカードを持っていれば少しでも幸せになれたのか、何も具体的な話は伝わっていない。それでも、このカードは女官たちにとって宝物のようにだいじにされたのだった。わたしはこのカードの話を、こどもの頃、祖母から聞いたことがある。祖母は実物を見たことがあったのかどうか、わからない。ただちょうど今わたしが観ている絵のようなものだったと、聞いた覚えがあるのだ。
「ミンナウリのカード」を持ち歩いた女官たちひとりひとりの話は何も伝えられなかった。にもかかわらず、カードに描かれたミンナウリという男については、長い物語が伝えられている。それは最初はおとぎばなしのような、短い物語だったのだろう。一人の女官を愛した男の話だと、いうことだけは、わたしも祖母から聞いていた。それが長い間、女官たちによって語り伝えられる間に、話が膨らみ、長い、数奇な男の人生の物語となった。そして、その長い物語が、このカードの口絵の次のページから、綴られているのだ。
誰かが、朝鮮王朝末期に、女官たちに語り伝えられた物語を書き綴り、少部数印刷した。それ以上のことは、わからない。この本がなぜこの書斎の中に残っているのかも謎だ。だが、今は、謎は謎のままにしておこう。女官たちに語り伝えられた物語に、わたしも耳を傾けるとしよう。眼を閉じれば、そこに、黒味を帯びた青い韓服の男が、街を歩く姿が見えるようだ。ゆったりとした袖と裾、両手を後ろ手に組み、市場の雑踏を、急ぎもせず、まるで水の中の魚のように、自在に、闊歩している。眉も、髭も、凛々しく、美しい、若い男だ。彼はまるでこの世に何も気懸かりなことなど一つもないように、市場の人々の声や、足音や、匂いを、味わい、楽しむかのように、歩いていた。
~~~~(一)~~~~
ミンジョンホはどこから見ても、ゆったりと散歩を楽しんでいる若旦那だった。人々があくせく働くこの昼日中に、市場の雑踏のなかを、悠々と歩いていた。その優雅な物腰、今にも微笑を浮かべそうな眼差しと口元は、何も不足のない幸せな若者であると、見る人々に思わせた。だが、チョンホは、そのようにして誰にも気取られずに、ひとりの男をずっとつけていたのだ。ある店で、その男はひとりの女にそっと巻物を渡した。チョンホはその女をつけねばなるまいと思った。ところが、内禁衛の兵士達が現れ、巻物を受け取った女の隣に立っていた若い女を連れ去ってしまった。チョンホは、間違えたのだな、と思った。放っておいて巻物を受け取った女の尾行を続けようかと一瞬迷ったが、すぐに内禁衛の兵士達の後を追った。
兵士達は若い女を地面に引き据え、取り調べようとしていた。ミンジョンホは声をかけた。
市場に戻ったとき、チョンホは娘に言った。
チョンホはゆらりと雑踏の中に入り、娘から遠ざかった。先程と同じようにゆったりと散歩しているように見えるのに、その足は速くなっていた。兵士達の後から、自分も巻物を受け取った青い服の女を追っていった。
しかし今度は、チョンホがつけられていた。しばらくしてチョンホはそのことに気づいた。青い服の女に巻物を渡した男であった。チョンホはやがて市場を離れ、漢陽へ向かう街道の方へ入っていった。
街道から、細い近道が分かれていた。少し山の中に入るが、大して困難な道ではない。ミンジョンホはそちらに折れた。案の定、男が追って来た。峠に差し掛かったところで、男が剣を鞘から抜き、斬りかかって来た。チョンホはさっと身をかわし、男の方に振り返った。チョンホは剣を持っていなかった。右手にあるのは閉じた扇であった。男はただの扇に遮られ、踏み込む隙を見つけることができなかった。しばらく睨み合ったまま、じりじりと円を描くように移動していたが、やがて男とチョンホとの距離が徐々に縮まってきた。男は再びチョンホに斬りかかった。チョンホは軽く身をかわし、その身が一瞬にして空中で舞ったかと思うと、男の頭を強く脚で蹴っていた。男は地面に倒れ伏した。完全に気を失っていた。チョンホは男に近づき、剣を持っている手の手首のあたりを踏んだ。気を失った男が手を開くと、チョンホが剣を蹴り上げ、自分の左手に収めた。
そのとき、空を切る微かな音がした。チョンホは振り向き、男から奪った剣で防いだ。金属がぶつかる音がして、手裏剣が足許に落ちた。市場で男から巻物を受け取った女が木陰にいた。女を追って行った兵士達は、まかれてしまったらしい。女は次々と手裏剣を投げたが、すべてチョンホが剣で防いだ。
そこへ、さっき、この女と間違われた娘が、通り掛ったのである。手には錦鶏を持っていた。港に着いた明国の船の商人から買って、急いでここまで歩いてきたらしい。青い服の女は、この娘を狙って手裏剣を投げた。咄嗟にチョンホは剣を投げ、手裏剣に当てて落とした。しかし、次の手裏剣がチョンホの胸に刺さった。チョンホは胸を押さえて地面に膝を突いた。錦鶏を持った娘が、自分が歩いてきた道の方を振り返って叫んだ。
青い服の女は舌打ちをして、森の方へ姿を消した。
金鶏を持った娘はチョンホに走り寄った。手裏剣は急所をそれていたが、血が流れ、チョンホはほとんど声も出ず、息が苦しかった。役人の姿は見えなかった。
娘はチョンホの笠を脱がし、錦鶏を地面に置いてその上に被せ、石を置いて笠が跳ばないようにした。そして自分の下着の白い布を破ってチョンホを止血した後、薬草を探しに行った。
娘はチョンホの許に戻って来た。役人は来ていなかった。薬草を石で擂り潰し、着物を脱がせてチョンホの傷口に塗った。そしてまた自分の白い下着を破って包帯にし、着物を着せた。もう暗くなっていた。役人はまだ来なかった。娘はチョンホの笠の下から錦鶏を取り出し、急いで立ち去った。
~~~~(二)~~~~
ミンジョンホは武官の官服を着て、内禁衛の兵士達の訓練のようすを、樹蔭の石に腰掛けて眺めていた。胸の傷はほとんど癒えていた。時々思い出したようにかすかな痛みがあったが、それはからだで感じているのか、それともこころで感じているのか、判じ兼ねた。今しもふと、胸が疼いた。チョンホは袖の中に隠してあるものを取り出した。それはノリゲであった。このノリゲには、小さな筆と墨壺と小刀が付いていた。小さいながら、どれもよく出来ていた。ノリゲは、傷を負って倒れていたチョンホのそばの、地面に置かれた笠の横に落ちていた。あの傷の手当てをしてくれた娘が落として行ったに違いない。娘の賢さと美しさは、ノリゲの持ち主にふさわしいと思われた。
あのとき、娘は咄嗟に、役人が来ると嘘をつき、密偵の女を追い払った。チョンホは倭寇の密偵を探索していたのだ。配下の兵士達は、娘が立ち去った後で、やって来た。それで倒した男を捕縛し、連行することができた。
チョンホは、自分を助けた娘は宮廷の女官であろうと察していた。錦鶏を持っていたところを見ると、そのために黙って宮中を抜け出したのだろう。自分の手当てをしてくれたために、帰るのが遅れ、重い罰を受けているのではないかと心配した。娘に会った翌日、宮廷に出ると、さっそく、王の誕生祝いのために来朝した明国の使者のことを太平館に問い合わせた。使者は錦鶏をお祝いの贈り物として持参し、水刺間で料理されるということであった。
チョンホは内侍府の、大殿担当の尚醞に会いに行った。尚醞は誕生祝いの宴の準備に忙しそうだったが、内侍のひとりに、僅かの時間で済むからと言って脇へ呼んでもらった。
尚醞と二人で王庭の松の樹蔭に立つと、ゆうべ、水刺間の女官が宮廷から抜け出したという話を小耳に挟んだのですが、と問い掛けた。尚醞は驚いた顔をして、どうしてそれを知っているのか、と言った。やはり、とチョンホは思った。
「その女官はつかまりましたか」
その翌日、チョンホは内侍府の尚醞から、錦鶏を買いに夜中に宮中を抜け出した女官が、菜園に追放処分となった、と知らされた。尚醞は、その女官はことし料理試験を受けて正式な女官となる予定だったのだが、追放処分が解けなくては料理試験を受けることもできまい、と付け加えた。
チョンホは、よほど菜園に行き、この間の礼を言ってノリゲを返そうかと考えた。しかしそうしたところで、娘にとっては料理試験が受けられないことに変わりなく、かえって追放処分の原因となった男の顔を見てつらさが増してしまうかもしれない。そう思い直して、行くのをやめた。かわりに、菜園の管理官チョンウンベクのことを調べてみた。ウンベクは、元は内医院の医務官だったが、酒の上の失敗で職を追われ、菜園に遣られたのだという。そのような男の許で、あの娘は堪えられるだろうか?
その後たびたび、チョンホはノリゲを取り出して見つめながら、自分はあの娘からたいせつなものを奪い去ってしまったのではないか、と煩悶した。菜園は内禁衛の兵士達の訓練場から近かった。訓練場は谷にあり、菜園は山の中腹にあるのだった。チョンホは兵士達の訓練の合間に、ノリゲを手にして菜園の方を眺め、悩ましげな表情をすることが多くなった。
そしてきょうもまた、山の中腹のあたりの菜園を見上げたとき、役人達が菜園に入っていくのが見えた。チョンホは立ち上がった。副官を呼び寄せ、しばらくここはおまえに任せると言うと、菜園を目指して足早に歩き出した。
チョンホが菜園の入口近くまで来たとき、役人達が、縄を掛けられた男を連れて出て来た。チョンホは役人の頭に軽く会釈をして脇に寄った。通り過ぎていく役人達の一番後ろの者に話しかけた。
翌日の夕刻、チョンホは、内侍府の尚醞に会いに行った。尚醞は、チョンホの顔を見ると心得たように、きょう菜園に参議が出向き、キバナオウギを育てたという女官をほめ、近く水刺間に戻されることになった、と告げた。そのうえ、女官のなまえはソジャングムという、とまで付け加えてくれた。
キバナオウギは栽培がむずかしく、明国から法外な高値で輸入していた。その取り引きはチェパンスル商会が独占して、暴利を得ていた。菜園で育てていたキバナオウギは、一度、発芽直後に、奴婢の男のひとりに掘り返されていた。管理官のウンベクがその男をつかまえて監督官に引き渡すと、ことをうやむやにし、キバナオウギの栽培を諦めろと言われた。そこでウンベクは、わざと市場でキバナオウギを売り捌き、宮中の菜園で採れたものだと自慢気に言い触らしたのだった。
チョンホはその話を聞き、奴婢は監督官に命じられただけであり、監督官は誰か高官の息のかかった者ではないかと考えた。しかし、そこにまで調べが及ぶことはなかった。
その翌日の午後、チョンホは書庫に入ると、声もなく、全身で驚きを受け止めた。ソジャングムが書庫の中にいた。チャングムは書棚の間を歩き回り、次々と経書を手にとっては読み、棚に戻していた。何冊目かを手にしたとき、「司空(サゴン)って、なにかしら」とつぶやいた。チョンホは、「司空(サゴン)とは、民を治める管理官です」と答えた。そして、チャングムが立っている書棚の間の列に、自分も立った。チャングムは、あの錦鶏を買いに行ったときに会った男がそこにいるのを見て、驚いた。チョンホはほほえんだ。
「あなたとは御縁があるようですね。しかし以前お会いしたときには兵士達から解き放って差し上げたのに、きょうはわたしがあなたを捕えなければなりません」
チョンホは、
チャングムは、なぜそんなことを言うのだろうという表情をした。チョンホは、
チャングムは、
今度はチャングムは、市場で「黙って出て来たのでしょう」と言われたときとそっくりの表情をした。その顔を見て、チョンホはますます愉快になった。
そのとき、人声がした。チョンホの上司が来たのだ。チャングムは、急いで書庫を出て行った。チョンホは上司の許へ急ぎながら、ノリゲを返すのを忘れたことに気づいた。
~~~~プロローグ~~~~
「お待ちなさい。そのひとではありません。巻物を受け取った女は、市場の中を港の方へ歩いて行った」
穏やかな声にもかかわらず厳として揺るぎない力が籠っていた。兵士達はチョンホの方を見て、すぐに若い女から手を離した。チョンホは兵士達に言った。
「行きなさい。青い服を着て、髪を後ろで一つに束ねて垂らし、眼の鋭い、痩せた女です」
兵士達は黙って礼をし、すぐに立ち去った。チョンホは、若い女に、優しく話しかけた。
「おけがはありませんか」
娘は立ち上がって顔をそむけながら答えた。身分のある若い女は男に顔を見せるものではないとされていた。
「はい。ありがとうございました」
チョンホは言った。
「あの兵士達を許してやってください。あなたを市場までお送りしましょう」
「あなたは黙って出て来たのでしょう。用事を終えたら急いで帰られた方がいいですね」
娘は驚いて振り返り、思わずチョンホの顔を見た。その瞳の生き生きとした輝きと顔立ちの愛らしさ美しさに、チョンホは強い印象を受けた。娘は言った。
「どうしておわかりになるのですか」
チョンホは答えた。
「あなたの物腰、服装、態度からわかります。道中お気をつけて」
「お役人様、早く来てください!」
尚醞は心配そうに答えた。
「今朝早く、宮廷に入ろうとしているところを衛兵たちに捕まえられた。鞭打ち二十回の後に宮廷から追放されることになりそうだ」
チョンホは単刀直入に言った。
「その処分はお取り消し願いたい。私はきのう、賊に襲われ、傷を負ったところを、錦鶏を持った女官の手当てを受けて、命を拾いました」
尚醞はチョンホの顔を見た。チョンホは、
「胸に傷を負っているのです」
と答えた。
「菜園の管理官殿に借りた金を返しに来たのだが……」
話しかけられた男は答えた。
「じゃあよかったですね。当分、管理官殿は監察長の取調べを受けますから」
チョンホは、男と並んで歩きながら、何をやったのかと尋ねた。
「菜園で育てたキバナオウギを市場で売ったんですよ。酔っ払って自分は菜園の管理官だと触れ回りながら」
チョンホは意外だというような顔を見せた。
「キバナオウギが出来たのか」
男も、そうなんですと頷いた。
「わたしも、へえ、と思ったんですがね。市場で押収したのは確かにキバナオウギでしたよ」
チョンホは男と別れて、内禁衛の訓練場に戻った。
チャングムは、なぜというような顔をして、「え?」と小さな声で言った。
「ここは、女が入ってきてはいけない場所です」
チャングムは、手紙を差し出した。
「菜園の管理官のチョンウンベク様から、こちらの書庫のパク様へ、お手紙を預かって参ったのです。この部屋に入ったとき、どなたもいらっしゃらなかったので、つい本を読んでしまいました。申し訳ございません」
「パク殿はかなり前に異動になりました。チョン殿はそれを御存知なかったようですね」
と言いながら、手紙を受け取った。中を開くと、この手紙を持って来た娘に本を貸してやって欲しい、という内容だった。文官や武官は、縁を結んだ女官に本を貸してやることがある。この娘は優秀で研究心が強く、ひとりでキバナオウギの栽培を成し遂げた。本を貸してやれば、必ずや優れた業績を挙げるだろう、と書かれていた。チョンホは手紙をたたみ、再び、チャングムを見て、言った。
「わたしは内禁衛の兵士達の訓練を行っています。そこは女官見習の子供達のいる場所の近くです」
「そこに来れば、本を貸してあげます。あなたに本を貸し出すようにという手紙でした。都合の良いときに来てください」
と続けた。
「女官の身で書物を読むなどと……」
と言った。チョンホは、
「人が身分を問うのであって、書物は身分を問いません」
と返した。チャングムは、たちまち花が開いたようにうれしそうな表情をした。チョンホはその表情を楽しみながら、
「詩経がいいですか?」
ときいた。
「詩経ばかり読んでおいででしたから」
そう言って、少し悪戯っぽい目をして、にっこりと笑った。