「生体肝移植ドナー体験者の会」から自民党への要望書

自民党「脳死・生命倫理及び臓器移植調査会」
  会 長  宮崎 秀樹 様  

              

要    望    書

   私達は「生体肝移植ドナー体験者の会」に集う生体ドナーです。私達は、生体肝移 植医療におけるドナーへの配慮や、術後の健康状態や精神状態の調査の実施を求め て、2002年秋にこの会を立ち上げました。生体肝移植医療が社会に登場してからはや 10数年の歳月が流れ、その間この医療は飛躍的な勢いで症例数を増やし、今では多く の方々にその存在を知られるところとなりました。しかしながらこの医療に不可欠な 生体ドナーの抱える問題については、レシピエントの成功例の影に隠れて、これまで ほとんど注意が向けられたことがありませんでした。当初は幼い子供達を救うべく緊 急避難的に始められた医療であり、何よりもドナーの安全性を重視することが優先さ れていました。しかし、1998年以降、その対象がそれまでの幼い子供だけではなく広 く成人にも拡大されてくると、ドナーとなる人達から切り取られる肝臓は右葉部分 (全体の3分の2以上)が中心となり、それまでの左葉部分(全体の3分の一程度)よ りも大きな部分がドナーとなる人たちの肝臓から切り取られるようになり、以前より も提供手術によるドナーの体の負担が大きくなってきました。また、こうした提供手 術による体の負担がかかる問題だけではなく、提供手術後、様々な深刻な問題に直面 しているドナーは多数います。こうした問題の例を以下にあげます。

  1. ドナーの再手術、再入院 (イレウスや胃の変形、胆汁漏れ等)   
  2. 肝機能の快復の遅れ(術後半年以上肝機能が戻らないケース)
  3. 術後長期にわたる肉体的違和感(傷周辺の鈍痛や部分的皮膚感覚の麻痺、お腹が張り易い)
  4. 将来における体力への不安感 (ドナーが突然死した例もある)
  5. 患者の死に伴う精神的な苦悩(患者を救えなかったという焦燥感や自責の念、等)
  6. 家族、親族間の人間関係の問題(離婚、離散、絶縁等)
  7. 職場における評価の変化(体調が良い場合でも、肝臓を切ったのだから普通の 仕事は無理という見方をされることもある。)
  8. 高額な医療費(移植手術費用、提供者の術後の医療費の工面(提供者が一生に わたって服用しなければならない免疫抑制剤は保険適用ではない。)

概観して解るように、ドナーを取り巻く問題には医学的な側面だけでなく心理、社会 的な側面が含まれるにもかかわらず、これらの実態をきちんと把握する為の調査は、 昨年まできちんとした形で行われたことがありませんでした。日本で生体肝移植がは じまって約13年経った昨年に、ようやく日本肝移植研究会が中心となって調査が準備 されつつありますが、ドナーをフォローする体制は各移植実施施設にまかされてお り、大半の施設ではそうした体制は出来ていません。こうしたことから、現在の段階 では様々な深刻な問題に直面しているドナーが多数いるにもかかわらず、生体肝移植 医療において、ドナーは置き去りにされた存在であることは明らかです。

 そこで私達「生体肝移植ドナー体験者の会」は、現状における生体ドナーの処遇を 改善するべく、今回の「臓器移植法改正案」の中に、「生体ドナーを守る為の規定策 定」を取り入れ、その内容を具体的な形で示し法律本文に盛り込むことを要望しま す。

 私達が要望する内容の骨子は下記の通りとなります。

  1. ドナーの要件を法的に明確にする。
  2. ドナーへのケアを保証する。
  3. ドナーとなる事に伴う費用を術前、術後ともに保険適用とする。
  4. ドナーの術後の経過に関する継続的な調査の実施と実態把握を移植実施施設及び関連学会に対して義務付ける。

(要望の主旨)

  1. ドナーとして臓器を提供する人の要件を法律の中で明確に規定し、広く国民にその基準を明らかにする。ドナーの適用範囲が拡大する方向にある現在、ドナーとなるか否かの選択を迫られる患者家族の苦悩を少しでも軽減するために、その範囲を明確にする事は極めて重要な事と考えられる。但し、特別な事情により、その基準に外れる場合は個々のケースで慎重に検討するものとする。

  2. ドナーとして臓器を提供する人に対して、医療期間は「安全、かつ万全なケアに努める」ことを保証し、手術後一定の期間、経過観察を行うことを義務付ける。

  3. ドナーとして臓器を提供する人の治療、及び検診にかかる費用を「保険適用」とし、術後も安心してケアが受けられるようにすると同時に、この取り決めをすでに手術を受けたドナーに対してもさかのぼって適用する。

  4. 生体移植実施施設及び関連団体(学会)に対し、ドナーの術後の経過に関する継続的な調査の実施と実態把握を義務付け、さらにそれらの情報を広く社会に対して公開することを求める。

 今現在進められている「臓器移植法」改正の動きは、「脳死移植推進」の立場から 見た改正の議論であることは明らかです。しかし、日本の現状からいって、今後も脳 死移植の数が欧米並みに多く行われるまでには時間がかかり、それまでの間、生体移 植の実施は避けて通れないものと考えます。また、臓器の提供後もその人の人生を まっとうするために生き続けることが原則である生体ドナーの立場は、脳死臓器提供 におけるドナーとは又違った意味で複雑なものです。現状のように違法でも合法でも ない、当事者間だけの合意で成り立つこの生体移植医療行為には不確かなことも多 く、法的に明確に位置付けられ守られるべき存在として規定されることが必要と思い ます。様々な問題を抱えながらも、患者や家族の手前それを公表することをためらう 風潮がこれまで生体ドナーの中にはありました。そして自らの臓器を提供したのにも 関わらず家族を亡くしたドナーにいたっては、細々と行われる調査対象からもはずさ れ、存在しない者として扱われてきました。今後これまで以上に社会全体に対して移 植医療への理解を求めていく為にも、これまでと同じように生体ドナーの問題を積み 残したままにしておくことは望ましいことではないと考えます。何卒私達の真意を御 汲み取りいただき、本国会期間中における「臓器移植法改正」の中に、「生体ドナー の保護規定策定」という観点を含めていただけますよう、重ねて御願い申し上げま す。

2004年 2月 10日
生体肝移植ドナー体験者の会

代 表 若山昌子
事務局 鈴木清子
他ドナー 13名