てぬぐいの
ひきだし
歳時記

てぬぐいの│ひきだし
 歳
 時
 記
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tenugui book 新年

糊のこる手拭いの香の春まつり tenu挽き終わる汽笛が鳴って春立てり藤も夜に入れりひとふし唄ひけり酌むほどに藤むらさきを長くしぬ春の涛の刺身にひびく箸を割る畳の間女臭たくわへ夕永きあたたかく旅も半の銭数ふ木の芽吹く夜の雲月をさかのぼる

遠山のむらさきが引く凧の糸春麗を吸いこむがごと口ひらく人かげに水もりあげて鱒育つざわめきの癒えるを待たず夏芝居 tenu冬服を感じをるなり金魚玉竈火にあぐら刺されて味噌焚けり六月の旅にかがやく襞の雪星空のまるみ感ずる五月来ぬ

夕焼けのテントが孕む飯が噴く茗荷汁匂ふ朝から山羊が呼ぶ川向ひ蝉はしぐれてつかまつる雨に散り金木犀は眠りつき tenuひげ剃って顔から踊る盆の夜鵙の声はしるましらに似てねむる穂草道峡の一戸につながりぬ架け稲や月のほそきをたよりにす

なつかしきはがき一枚赤蜻蛉夕刊は見処すこし黍太るうすもみじ灯の襞空へにげてをり秋の夜しまりくるなり琴聞けば菊の香のうすうすと灯に影並べ名月や雲のうすきが濃きが伸び血を継ぎし長きまゆ毛に霧感ず雁来紅錆びぬ極楽地獄の図

山の灯のまばたくかぎり秋の声ふところのひんやりしきぬ月病めば婆の褄片方垂れて鰯雲初霜の万両の実をなでみがき tenu山枯れてかりうど山を私し凶作の餅熱く胃に落ちにけり豆撒きの声休み田に吸はれけり淡雪におんなからだを歪め寄る

日曜の炬燵に溢れ一家族とのゐの夜雪のくずるる音とがむ嫁がせて夜寒の夫婦残りけり川涸れや鳴かねば石となる千鳥木枯や漬菜の石は夜沈む水底の雲すくいゐる寒魚取り一本の鮭を吊して年まつる陽溢る空に鼻歌うたい初 tenu

元日や仕ふる年の減ってきぬ元日や嫁はしずかにむつき干す初明かり鶏大股に来て匂ふ


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句は洲石著「祭笛」(昭和44年刊)より引用。
キャプションとして付けた手拭いの柄、文様の名称は、私が勝手に命名したものもある。