ブリルアン散乱
Brillouin Scattering
ひとことでの説明: 媒質中のフォノン(音波)による光の散乱。周波数変化を伴う。
イメージ説明: 強い光は光ファイバをたたきながら伝わるため、音が出る。この時出た音のエネルギーだけ光の周波数が減って散乱される。
丁寧な説明:
媒質中に強い光を入射させて散乱光のスペクトルを調べると、入射光と同じ周波数をもつ成分(レーリー散乱光)、入射光と大きく周波数が異なる成分(ラマン散乱光)とともに、入射光と数〜数十GHz程度周波数が異なる成分がみられる。この第3成分は媒質内の音波(フォノン)との相互作用により生じるもので、研究者Brillouinの名前にちなんでブリルアン散乱とよばれる。すなわち、入射光は媒質内の音波が作る、運動する屈折率格子により散乱され、その際、ドップラー効果による周波数およびエネルギー変化にともない音波を放出または吸収する。入射光の周波数νiと散乱光の周波数νsの差はブリルアン周波数シフトとよばれ、散乱に寄与した音波の周波数と一致する。
入射光と散乱光のなす角度をθとすると、運動量とエネルギーの保存則から、
νi−νs=±(2nvνi/c)sin(θ/2)
の関係がある。ここにnは媒質の屈折率、cは真空中の光速、vは媒質中の音速である。散乱光の周波数が入射光の周波数よりも小さい場合、この散乱光をストークス光とよび、逆の場合を反ストークス光とよぶ。
媒質中に入射光と散乱光が対向して進むとき(θ=π)、ある場所で発生したストークス光は、ひきつづいて出会った入射光および音波と更に相互作用し、進行とともに増幅される。このような散乱を誘導ブリルアン散乱という。長さ20km程度の石英系光ファイバに数十MHz程度以下の狭いスペクトル幅の連続光を入射すると、その入射パワが5mW(7dBm)程度をこえるとき誘導ブリルアン散乱が顕著にみられる。すなわち、光ファイバへの入射パワが一定の値を越すと、その大部分は入射端にもどされ、ファイバ出射パワは飽和してしまう。このため、誘導ブリルアン散乱現象はスペクトル幅の狭い光を必要とするコヒーレント光通信において、光ファイバへの有効入力パワを制限する。
ブリルアン周波数シフトの測定により、種種の媒質中の音速が精密に測定できる。また、パルス光が光ファイバ内を進みながら発生するブリルアン散乱光の周波数に着目すると、光ファイバ内の音速分布が測定できる。音速が光ファイバの歪みに対して直線的に変化することをあわせて用いると、光ファイバ長手方向の歪み分布を測定することができ、通信設備や大型構造物の健康診断などの応用が検討されている。この原理の基本特許を日本、および外国において立田らが取得している。
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