眠れない夜

  ごそごそと高耶が寝返りを打った。
  「眠れないんですか?」
  「あ、すまん。起こしちまったか・・。」
  「いえ。私のことはいいんです。それより、どうしました?」
  心配そうな直江の首に、何も言わずに高耶がそっと手を廻した。
  そのままぎゅっと顔を埋める。
  直江はそんな高耶の背中を優しく抱いた。
  「直江・・。」
  高耶が直江を見つめた。
  その瞳に切実な思いを感じて、心の奥を探ろうと見つめ返した直江を
  遮るように、いきなり高耶が口づけた。
  貪るように熱く舌を絡めて、吐息の全てを奪うほどに深く唇を重ねる。
  抱きしめた手が切なく背を這う。
  昂ぶった熱のままにきつく抱き返すと、高耶は小さく喘いだ。

  堪らず覆い被さって、シャツを剥ぎ取った。
  首筋に舌を這わせ、耳たぶを甘く噛む。
  「は・・っあ・・ぁ」
  さざめくように、閉じた瞼が震えた。
  その睫に光る涙のつぶを見つけて、直江は動きを止めた。
  「高耶さ…」
  言いかけたとたん、高耶が直江の頭を抱きしめて裸の胸に押し付けた。
  「抱けよ。抱いてくれ。」
  心臓が早鐘を打っていた。しっとりと潤んだ肌が吸いつく。
  しなやかな腰を引き寄せると、冷たい足がなまめかしく絡んだ。

   もっと強く抱いてくれ。 何もかも忘れるくらいに。
   この体が、この魂が、お前だけを求めて泣いている。
   胸の内に湧き上がる不安を、どうすればいい?
   お前と交わる幸福と同じだけの切なさが追いかけてくる。
   求めれば求めるほど、いつか訪れる別れが怖い。
   ここにいると、ずっと離さないと、その熱さで教えてくれ。

   別れなんて来ない。
   どんな運命が待っていても、あなたを離さない。
   不安も哀しみも、この想いを越えられはしない。
   眠れない夜には、俺があなたを寝かせない。
   不安が安堵に変わるまで、ずっと抱いているから…。
   欲しいだけ奪っていい。俺の全てを奪っていい。
   この想いは、あなたを思うたびに生まれてくるのだから。

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