聖バレンタインズデイ?

  

    お兄ちゃんへ
  このチョコレートケーキはお母さんと一緒に作りました。
  上手に出来たでしょ?
  今日は大好きな人に贈り物をする日なんだよ。
  だから一番最初のケーキ、お兄ちゃんにあげるね!
  二つ目はお父さんにあげるの。三つ目は…内緒vv
  春休みには遊びに行くから待っててね。   美弥より。

 嬉しそうに包みを抱えていた高耶は、複雑な顔で手紙を閉じた。
 「内緒ってなんだよ。ちゃんとした奴なんだろうな?」
 こたつの真中にケーキをおいて、頬杖をついた。
 見ていると美弥の笑顔が浮かんできて、自然に笑みがこぼれてくる。
 「ありがとな。美弥」
 ボーンボーンと時計が10時を告げている。バイトの時間だ。
 今日は直江より早く帰れる。高耶はホーネットを走らせた。
 「高耶さん、ただいま」
 息をはずませて直江が帰ってきた。
 「お帰り。今日はおでんだぞ。」
 台所から高耶の声がする。
 コートを脱いで部屋に入ったとたん、こたつの上を見てパアっと顔が輝いた。
 そのまま高耶のところに飛んでいって、直江は背中から抱きしめた。
 「直江っ・・こらっ。こぼれるって!」
 「高耶さん、ありがとう。」
 「???」
 やっと直江の勘違いに気付いたものの、こんなに喜ばれては言い出しにくい。
 「あの、さ。それ…。」
 「やはり先に夕食ですよね、おでん美味そうですねえ。」
 直江は嬉しそうに鍋を運んでいく。きっかけを失って高耶は途方に暮れた。

 食卓についた直江の隣に座って、高耶はついに呼びかけた。
 「直江」
 「はい?」
 高耶の苦しげな表情に、具合でも悪いのかと心配になって直江はじっと見つめて待った。
 「そのケーキ…美弥が送ってくれたんだ。俺…その…。」
 俯いて言葉を探す高耶に、一瞬呆けてしまった直江だったが、
 「そうだったんですか。ははは、すみません、早とちりでしたね。」
 照れたように笑うと
 「よかった。また具合が悪くなったかと思ってしまいました。」
 ほうっと安堵の吐息をついた。
 優しく見つめるまなざしが胸に痛い。
 なにも言わず、高耶は直江にキスした。
 この気持ちを表す言葉なんて思いつかない。

 ためらうように軽く触れたくちびるはとても甘くて、そのまま退こうとした高耶を
 ぐっと強く抱き寄せると、直江は深く口づけた。逃さないで更に深く舌を絡ませる。
 「ん・・ん。」
 ようやく離れるころには息があがって、ほほが熱い。
 このまま抱いていたい。
 そんな直江の気配を察したのか、高耶がいきなり姿勢を正すと、
 「さあ、メシ食おう!」
 と茶碗にごはんを盛って直江に差し出した。
 まだ紅潮したままで、呼吸さえ整っていないくせに、流されてくれない。
 さっきとは違う溜息をひとつ。直江は茶碗を受取った。

 美弥のケーキは、ほんの少しスポンジが固いけれど、優しくて暖かい味がした。
 「美味しいですね。」
 「うん。」
 もくもくと美味しそうに食べる高耶を嬉しそうに眺めながら、
 直江はワインを注いだ。
 赤ワインとチョコレートは相性がいい。
 ケーキを食べ終えて、ゆっくりとワインを楽しむ。
 いつのまにか肩が寄り添って、グラスを見つめる瞳が揺れるままに、そっと手を重ねて
 指を絡めると、冷たいはずの冬の夜がしっとりと熱くなっていく。
 今度こそお預けにはさせない。くちびるで吐息で抱きしめる腕の強さで・・逃さない。

 夜中に目を覚ますと、枕元に小さな包みがあった。
 直江から高耶に。メッセージもなにもない、シンプルなチョコレート。
 口に入れると滑らかにとけてゆく。想いが体に染み渡る気がした。
 バレンタインなんて女のすること・・そう想っていたけれど。
 「来年は、やってもいいかもな。」
 チョコレートで想いを伝える。そういうことも悪くない。
 恋人たちの幸せを願った聖バレンタインの日なのだから。

 「あれっ?これ・・」
 「どうしたんですか?」
 「直江、お前。いくらなんでも多すぎないか?」
 「え、いや…高耶さんと食べようかと…。食べ物は粗末にしちゃいけませんし…。」
 「………」
 大きな紙袋いっぱいのチョコを見て、やっぱり来年もあげるのはよそうと思う高耶だった。
 実はこの中には高耶あてのチョコもあるのだが、先回りして阻止した直江の努力を
 もちろん高耶は知らない…

 

甘〜いお話を書きたかったんですが、私が書くとあんまり色っぽくない〜!このあたりが限界か・・・

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