『直高の浦島太郎』

 

ある日、亀を助けた直江は、お礼に竜宮城へ招待されました。

そこで待っていたのは、美しい乙姫さま。
でも直江は竜宮城で過ごすうちに、亀の世話係をしている高耶という青年を好きになってしまいます。

人間が竜宮城に居られるのは、乙姫さまの許しがあればこそ…

なのに高耶とばかり一緒にいて、乙姫さまからの誘いを断り続けた直江は、とうとう陸へ帰されることになりました。

「直江は俺が陸へ送っていく。」

竜宮城を出る当日、別れの挨拶も済んで、さあ出発という時になって、
高耶は支度をしていた亀を下がらせ、グイッと直江の腕を掴んで飛び出しました。

怒っているような顔が、頬が触れ合うほど近くにあります。
ほんの少し首を伸ばせば、きっとキスだって奪えるのに、
まだ一度も触れたことのない高耶の唇は、ギュッと結ばれたまま開こうとしませんでした。

 

やがて陸に上がった二人は、肩で息をしながらグッタリと浜辺に座り込みました。

細い月と小さな星の粒が、墨を流した空に光っているだけの、誰も見ていない夜でした。

貰った玉手箱が重くて、直江は手に絡んだ紐を解き、蓋を開けようと手を伸ばし…

「ダメだ!直江!開けるな。開けるんじゃない!」

玉手箱の蓋を押さえ、高耶が悲鳴のような声を上げて、直江に縋りついたのです。

高耶の瞳は、溢れる涙に濡れていました。

「高耶さん…」

別れが辛くて泣いてくれたのでしょうか?
それなら、どんなに嬉しいでしょう。

この地上で共に暮らせるはずのない人だと、わかっていても放したくない…
いっそこのまま、自分の命が尽きれば良いとさえ思うほどの、強い衝動に駆られて、直江は心が張り裂けそうでした。

けれど高耶の想いは、それよりもっと強く深いものだったのです。

玉手箱の中身…それは竜宮城と地上の時間差を埋める特別な煙でした。

直江が竜宮城で過ごした数ヶ月は、地上では数十年に当たります。
煙を浴びれば、一挙に年寄り。
必要な措置とはいえ、それは高耶にとって耐え難いことでした。

直江が高耶を好きになったように、高耶も直江を想っていたのです。
自分の全てに換えてでも、守りたいと願うほどに…

「直江…俺を喰え。」

高耶の言葉に、直江は思わず目を剥きました。

「俺には乙姫ほどの力は無い。竜宮城で変わってしまったおまえの体を、元に戻してやれないんだ。
 だけど俺の体をおまえの血肉にすれば、きっと時差に耐えられる。
 いきなり爺さんになって死なずに、ちゃんと生きられるはずだ。だから…!」

「それはつまり、あなたには時差に耐えて地上で生きる力がある…ということですか?」

頷く高耶の真剣な顔を見つめ、直江が少し悪戯っぽい瞳で微笑みます。

ン?と怪訝な表情になった高耶の唇に、直江はそっと自分の唇を重ねました。

「高耶さん…本当に、頂きますよ?」

覚悟を決めた高耶は、ギュッと目を瞑り、直江の為すがまま身を任せています。

服を剥ぎ、滑らかな肌に触れて…

もちろん直江は、高耶を食べたりしません。

「直江…どうして…」

「心配しないで…高耶さん。これで良いんです。
 ほら、ちゃんと貰っているでしょう? あなたの…」

「言うな!」
真っ赤になって、高耶は直江を抱きしめました。
直江は幸せそうに笑いながら、言葉に出来ない熱い瞳で、高耶を見つめてくるのです。

本当に効き目があるのか、明日も明後日も、こうして生きてゆけるのか、
それはわかりません。

ただ、二人はとても幸せでした。

 

 
さて、それから二人はどうなったでしょう?
ひとつだけ、申し上げておきます。
直江は高耶さんの体液を、ちゃんと貰っていたんです。
え?うんうん。そう、その通りです。体液って、色々あるんですよね〜(笑)

直江と高耶さんは、その後もず〜っと幸せに暮らしましたとさ。

おしまい。

  

              2009年5月20日

      

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