夕暮れの街にイルミネーションが輝く。
捜査を終えて署に戻ると、
「お疲れ。仰木は明日休みだな。愛しの美弥ちゃんによろしく〜♪」
「バァカ。おまえの事なんか言わねえよ。」
サンタ帽の千秋課長に、いつもの調子で悪態をつく高耶が、ちょっと照れた顔をした。
え?…今の表情…
もしかして本当に恋人と…
今夜はイブだ。明日わざわざ休みをとって、しかも千秋の言葉を暗に認めている…
直江は驚きを隠すことも忘れ、戸口の近くに立ったまま、茫然と高耶の動きを目で追った。
心なしか高耶の顔が嬉しそうに輝いて見える。
「じゃあな」と高耶が部屋を出ようとしたとき、緊急連絡の電話が鳴った。
ハッと高耶が振り向く。
「大丈夫ですから」
と戻りかける高耶を手で制し、直江は千秋の指令を聞いて、ひとり階段を駆け下りた。
「待てよ!俺も行く。」
追いかけてきた高耶に、
「結構です。デートを邪魔してトナカイに蹴られるのは御免です!」
足を止めずに言い放つと、高耶がプッと吹き出した。
「トナカイって何だよ、俺はサンタか?」
笑いながら隣に並んだ高耶は、
「いいから急げ!事件になってからじゃ遅い。サッサと行くぞ!」
表情を引き締めて直江を見上げた。
頷いた直江が車に走る。当然のように助手席に乗り込む高耶を、もう帰そうとは思わなかった。
幸い事件は、単身赴任の父親が家族を驚かそうと内緒で家に戻ったところ、
たまたま留守だった家族が泥棒と勘違いして通報したという、笑い話のような他愛ないものだったが、
二人がようやく現場を後にした時は、既に凍えそうな夜になっていた。
「あ〜あ、やっぱ乗り遅れちまったな。」
肩を竦めて、高耶が苦笑いする。
直江の胸に重苦しいモヤモヤが蘇った。
高耶に恋人がいても、何の不思議もない。そう思うのに、どうしてこんなに苦しくなるのか…
「…車で…送って行きますよ?」
言ったとたん、高耶が目を丸くして直江を見た。
「送るって…長野だぜ。長野の松本。
いいよ、どうせ美弥だって今日は友達と会うって言ってたし、明日の朝でもいいんだ。」
「そう…ですか。」
複雑な気分で頷いた直江は、続く言葉に目をみはった。
「妹…っても、もう大人なんだけど、
クリスマスの朝にプレゼント置きたくなる…なんて、バカだよな俺は。」
高耶の声が、少し切なく掠れて聴こえる。
直江は思わず力強くハンドルを握った。
「送ります。大丈夫、間に合いますよ!」
驚く高耶に微笑んで、直江は心も軽く松本を目指した。
クリスマスの夜が、静かに更けてゆく。
空に細い月が輝いていた。
2008年12月26日
背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→
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