「風の生まれる場所」

  

土手の桜が、暖かい日差しを受けて、ほころび始めている。
木の下に座ると、千秋は手をかざしてゆったり空を見上げた。
空の薄い青をバックに、濃いピンクのつぼみと柔らかい薄紅の花びらが、ふわりと揺れる。
「いい天気だなあ。」
ごろりと寝そべると、草と土の匂いがした。
川から来る風は、まだ冷たい。
それでもここにこうしていると、季節はもう春なのだ。と体中の感覚が告げてくる。
う〜んと伸びをすると、千秋はそっと目を閉じた。

「おい。起きろ!千秋っ! んなとこで寝てるとバカでも風邪ひくぞ。」
揺すぶられて、ハッと目を覚ました。
「んだよ。足で起こすな、足でっ!!」
「しょうがねえだろ。両手がふさがってんだよ。」
高耶はそういうと、千秋の隣に座り込んで、手に持った包みを開いた。

「へえ。桜餅じゃねえか。どしたんだ、これ。」
「買ってきた。」
千秋はポカンと高耶を見つめた。
ここは民家もほとんどない山の中である。
こんな和菓子を売っているような店など、この辺りにはあるはずもなかった。

「食えよ。嫌いじゃねえだろ?」
「あ、ああ。」
戸惑いながらひとつ口に入れた。桜の香りが広がる。
「美味いだろ?」
「ああ。」と答えると、嬉しそうに高耶が笑った。

今夜は宴会だからな。と告げて去っていく後姿を見送り、千秋は残された桜餅を眺めた。
「どうなってんだ?」
今日の景虎は、なんだかおかしい。
桜もまだほんの少ししか咲いていないのに、宴会?
首をかしげた千秋だったが、夜になって謎が解けた。

「誕生日おめでとう!」
綾子の音頭で、直江、色部、高耶の4人がいっせいに声を上げた。
「な、なんだよ。てめえら…」
オレを泣かすつもりか? ったく…。こんなのって…。
「よ〜し! 今日はオレが主役だ! 景虎、酒持って来い!」
「長秀! 調子に乗るんじゃない!!」

朧月に照らされて、笑い声が響く。
千秋の胸を、生まれたての柔らかい風が、優しく甘く揺らしていた。

 

          2005年4月1日

       

千秋のお誕生日。高耶さんはケーキを買うつもりだったようですが、無かったらしい(笑)
桜餅は、やはり本物の桜の葉でなくちゃ。私は葉っぱごと食べるのが大好き! 春の味がします〜(^^)

小説に戻る
TOPに戻る