「明けましておめでとう!」
綾子の元気な声が飛びこんできた。
「ちょっと待てって。いきなり開けて、真っ最中だったらどうすんだよ。」
車から降りた千秋が叫んだとたん、アパートのドアから高耶が顔を出した。
「ばっかやろ。なに言ってんだ!ったく正月の朝なんだから、ちっとは静かに
しろ。」
「高耶さん。正月から怒らなくても・・」
後から直江が苦笑いしながら現れた。
「明けましておめでとう。晴家、長秀。」
高耶もぼそっと「おめでとう」とつぶやいて、照れたように微笑んだ。
「直江、和服すっごく似合ってる。やっぱいい男ねえ。景虎も着ればいいのに」
そういう綾子も、振袖が良く似合っている。
「ねえねえ、これから初詣に行こうよ。」
「色部のとっつぁんとは、むこうで待ち合わせしてんだ。一緒に行こうぜ。」
断わる理由なんて、あるわけなかった。
嬉しそうに仕度をしに戻る高耶について戻ろうとした直江を呼びとめて、
「すまねえな、二人っきりの正月を邪魔してさ。」
千秋がいたずらっぽく笑って肩を叩いた。
「誘ってくれてありがとう。高耶さんも喜んでいる。」
余裕の笑みを返す直江に、笑うしかなくなった千秋だ。
綾子は横でお腹を抱えて笑っている。
「えっと・・直江んちのお兄さんがくれたんだ。正月だから・・な。」
出てきた高耶は、着物を着ていた。
すっと立つ姿勢も眼差しも、やはり景虎だ。空気がぴりっと引き締まる。
「さあ、初詣に行こうか。」
「はい。」
4人で車に乗り込む。
「あ〜あ、俺も着物にすりゃあ良かったな。」
ぼやいて千秋が笑った。明るい笑い声がこだまする。
雪深い海辺の町を、4人の乗った車は、色部の待つ毘沙門天に走る。
ささやかな、けれど確かな幸せが、続くことを願って。
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