ショーケースの時計を眺めて、高耶はフウとひとつ溜め息を吐いた。
「やっぱ全然足りねえ…」
頑張ったつもりでも、しがないバイト学生に貯められる額など、たかが知れている。
肩を落として歩きかけた時、ふと横の棚に目が止まった。
**************
「これを私に?」
高耶から誕生日のプレゼントを貰えるなんて、まるで夢のようだ。
「開けていいですか?」
嬉しさに目を輝かせて直江が尋ねると、高耶は照れくさそうな顔で視線を逸らし、
「うん」と小さく頷いた。
箱を開けた直江は、思わず頭を傾げた。
入っていたのはシンプルなジッポのライターと、茶色の…
「サンドペーパー?」
不思議に思いながら、ライターを手にすると、ちょうど薬指と小指の辺りに、
表の美しい線描とは違うザラリとした感触がある。
それは、高耶が自分で彫ったらしい『N・T』の文字だった。
「ペーパーで擦れば消せるからな!」
怒ったような口調は、高耶の照れ隠しだと分かっている。
「そんな勿体無いこと、する訳がないでしょう」
とろけそうな声で言いながら、直江は文字を何度も指でなぞって、
抱きしめるようにそっと手の中に包み込んだ。
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