『桜吹雪』−2

  

  夜の闇に浮かぶ限りなく白に近い薄紅の花。
  月を背にした桜は、昼間とは違う表情を見せる。
 その桜は、山の中の古びたお堂の脇で、見事な花を咲かせていた。

「直江。本当に綺麗だ。お前が言った通りだな。」
高耶が肩越しに振りかえって微笑んだ。
風に花びらを散らす桜と、その木に触れようと手を伸ばす彼の姿態が月明かりに浮かぶ。
直江は言葉も無く魅入っていた。

「あなたに見せたい桜があるんです。一緒に行きませんか。」
花見の後、直江が高耶を誘った。
ふたりだけで行きたいのだと、直江の目が言っていた。
「行こう。ふたりで。」
高耶はそう言って頷いた。
「ふうん、二人きりで・・ね。」
千秋は冷やかすように言うと、
「いいんじゃねえの。美弥ちゃんは俺と成田が送ってくから、安心して行ってこいよ。」
「うん。大丈夫だよ、高耶。俺が一緒だから。」
「成田、それってどういう・・」
にっこり笑っている譲に、千秋はがっくりと溜息をついた。
「ねえ美弥ちゃん、今夜はあたしと一緒に泊まろ。もっといっぱいお話しましょ。」
綾子の誘いに、美弥が目を輝かせた。
「ホント? あたし泊まりたい!」
いってらっしゃ〜いと送り出されて、二人はお堂に向った。

それは仕事の途中に通りがかった山の中で、偶然見かけた木だった。
見たとたん、なぜか心惹かれて動けなくなってしまった。
過疎の進んだ山里で、命の限りに今を生きている。
たぶん樹齢100年は超えているだろう。
その間、毎年こうして美しい花を咲かせてきたに違いない。
誰も見る人もなくても、誇り高く咲いているその姿が孤高を感じさせた。
「景虎さま…」
ふとそう呼んでいた。
あの人と一緒に見たい。この桜を見て、彼はなんと言うだろう。
そうして今、ここで高耶と桜を見ている。
夜の桜は、妖しい艶を増して、いっそう美しく咲き誇っていた。

強風は、いつのまにか春の嵐になっていた。
風に舞う花びらを纏って立つ高耶の瞳が直江を煽る。
堪えきれずに抱きしめた。
服を剥ぎ取るようにして肌をあわす。
暗闇に白く浮かんだ裸体が、ほんのりと桜色に染まり始める。
昂ぶる快感に喘ぐ声を聴いていたくて、わざとゆっくり追い上げる。
触れるか触れないかのところを撫でる指先。
ついばむようなキスをしながら、吐息と共に全身を這う舌。
焦らされて求める声が愛しくてたまらない。

激しい風よりも、もっと激しい熱情に、狂おしく堕ちてゆく。
桜吹雪の舞う夜に…。

裏企画へようこそ(笑) 夜桜編です。
エロティックな二人が見たい〜っていう欲求だけで書いちゃった。
感じて頂けると嬉しいんですが・・・(^^;

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