『夏の空へ』

  

朝の光が窓からカーテン越しにさしこむ。
「ん〜・・」
まだ眠い。眩しくて寝返りをうった手を、大きな手が包んだ。
そのままかぶさるようにして、頬に優しいキスを落とすと、
「高耶さん。誕生日おめでとう。」
男はそっと耳元でささやいた。

ぼんやりと目を開けて、またすうっと眠ってしまった横顔を、
飽きることなくずっと眺めながら、直江は嬉しそうに微笑んだ。
うつ伏せになっている裸の背をそっと撫でると、高耶がくすぐったそうに体をよじった。
半ば仰向けになった拍子に、滑らかな肩から腰まであらわになって、無意識に直江を誘う。
胸の前に置かれた腕が邪魔だ。
昨夜もあんなに求め合ったのに、こうして見ているだけで、またその気になってしまう。
できることなら、ずっと抱きしめていたい。
直江は高耶の腕にくちづけて、剥き出しになった胸に唇を寄せた。

びくんとしたと思った瞬間、高耶がぱちっと目を覚ました。
バッと起きあがると、直江を見下ろして
「な、な、なにやってんだ! 朝っぱらから・・」
顔が真っ赤だ。ドキドキしているのが息の荒さでわかる。
こんな表情は誰も知らない。
直江にだけみせる妖艶で淫靡な姿態。無意識に放たれる色香。
ささやくような喘ぎも、熱く求めるくちびるも。
愛しさで胸がいっぱいになって、思いが抑えきれずに溢れ出す。

直江は起きあがって高耶をまっすぐ見つめた。
「今日はあなたの誕生日ですね。」
「あ、ああ。そうだな。」
換生者だと知ったときから、誕生日が来るたびに高耶の瞳を悲しみがよぎる。
今もふっと翳った目をしっかりと見つめて、
「だから、あなたの体のひとつひとつに感謝させて下さい。」
直江は真顔で言った。真摯なまなざしには、熱い思いが込められていた。

いつもそうだ。俺たちは体の快楽だけを求めているんじゃない。
互いの全てをぶつけあって、求め合って、そうして魂までも食らいあう。
そんな激しさが生々しく蘇って、高耶は思わず自分の両腕を抱いた。
「なにを思い出したの?」
微笑みながら問いかける直江の視線が、さらに羞恥を煽って体が熱くなる。
直江の手が高耶の髪に触れた。そのまま指が頬をすべり顎にかけて輪郭を辿ってゆく。
眉に、瞼に、鼻のてっぺんに、優しいキスを繰り返して、くちびるを重ねる頃には、高耶の腕は直江の首に廻され、やがて直江がなごり惜しげにベッドを離れたときは、もうとっくに昼を過ぎていた。

けだるさのなかに甘い余韻を残したまま、高耶は窓を開けて眩しい夏の空を見上げた。
はおった白いシャツが、風を受けてはらむ。
キツイ日差しが照りつけても、真っ青な空にまっすぐ目を向けて、遠い空の先を見つめる。
どこまでも続く青の、もっと先にあるものに手を伸ばす。

届かなくても、いつか届くことを信じよう。
おまえが俺の大地。
大地にしっかりと足をつけて、はじめて空に手を伸ばせるのだと、お前が教えてくれた。
直江。
俺を繋ぎとめていてくれ。おまえの腕で。
俺は生きていていいんだと、何度でも教えてくれ。
そうして俺は立ち上がって手を伸ばす。この空の先へ。未来へ。

 

ちょっと早いけれど、高耶さんのお誕生日のお話です。
らしくない・・・かも・・(滝汗)私の願望・・かな?(ますます滝汗)

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