『プレゼント』

 

「なあ。おまえが欲しいものって、なんかある?」
話のついでのように、あのひとが言った。
さらりとした口調とは裏腹な、真摯なまなざしが俺を見つめている。
欲しいものなら、ある。
欲しくてたまらないものが…。

「ええ。ありますよ。」
「それ何? どんなものが欲しいんだ?」
無邪気な顔で知りたがるその答えは、きっとあなたが思いもよらないもの。
それを告げてしまおうか。
そうしたら、あなたはどんな顔をするだろう。

「本当に、知りたいですか?」
一瞬、馴染みのない光が、直江の瞳をよぎった気がした。
わけのわからない不安を感じて、高耶はごくりと唾を呑んだ。
「もったいぶらずに言えよ。何が欲しいんだ?」

目がくらむ。
底に僅かに怯えを含んで、それでも揺るがない、強い意思に輝く瞳。
その瞳が、まっすぐに直江を見ている。

「では、あなたが俺に一番似合うと思うものを。」
見る見る高耶の表情が変わった。
「おまえっ!! ズルイぞ。…んなの、答えになってねえ!」
怒る高耶を見つめたまま、直江は困った顔で微笑んだ。
「すみません。でも、本当にそれが欲しいんです。」

何でもいい。それを選ぶ間、あなたは俺のことを考えてくれる。その瞬間が欲しい。
本当に欲しくてたまらないものは、他にある。
けれどそれは、望んでも得られないもの。
あなた自身が俺にくれようとしても、与えようのないもの。
ならば、そのかけらでいい。俺だけを想ってくれる時間が欲しい。

視線をそらさず、じっと直江の目をみていた高耶は、やがてひとつ溜息をつくと、
「わかった。」と頷いた。
これじゃ何もわからないのと同じだ。
でも、おまえがそれを望むなら、探してやる。おまえに一番似合うものを。

  
まもなく。高耶はそれが、途方もなく難しいことに気づいた。
直江に似合うものなら、それこそ掃いて捨てるほどある。
とにかく何でも似合ってしまう男なのだ。
和風洋風を問わず、上質なものなら何でも似合うといっても過言ではなかった。
けれど、では何が一番かというと、どれも違う気がする。
その間にも刻々と、タイムリミットが迫ってくる。
かつてないほど真剣に迷ったあげく、高耶は荷物を抱えて店を出た。

 
「高耶さん! どうしたんです? その荷物…これは一体…?」
驚く直江の脇を抜けて、高耶はさっさと家の中に入った。
「見りゃわかるだろ。今日の食料と俺の着替えだ。それと…」
これはお前に似合わないけど。と言いながら、高耶はケーキを出してテーブルに置いた。

「誕生日おめでとう、直江。」
にっこり笑った高耶を、直江は言葉もなく見つめた。
なにか言うと、想いが堰をきって溢れそうで。息をとめたまま、ただじっと見つめていた。

「今日一日、お前の傍にずっといてやる。いいか、今日だけだからな。」
指を一本立ててビシッと言い放つと、後ろを向いてガサガサと食材の袋を開けだす。
耳が真っ赤だ。
そっと手を伸ばして耳に触れると、高耶はピクンと肩を揺らした。
そのまま後ろからギュッと抱きしめる。
もう言葉などいらない。熱い吐息と抱きしめた腕の強さが、思いの全てを語っていた。

そう。その瞳だ。
その輝きだ。
おまえに一番似合うもの。
激しくてせつない。優しくて凶暴な。俺を求めるときの、おまえの瞳。
俺だけしか知らない。おまえに一番似合う光。

おまえにやるのは今日だけ。
だから、あとはおまえが奪いに来い。
俺の全てを
それは、おまえだけが得られるもの。
俺の全てを。 おまえに…。

       2005年5月4日          桜木かよ  

直江に一番似合うもの。それを考えてて、一日遅れてしまいました(^^;
私はこれが一番だと思うのですが…。に、しても直江…羨ましすぎる…(爆)

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