その日は朝から変だった。
昨日見た夢のせいかもしれない。
目の前にいる直江と、なんだか顔を合わせられなくて、
高耶は見てもいないテレビに夢中なふりをしていた。
「高耶さん?」
怪訝そうな声が、甘く耳に残る。
伸ばされた指先の、繊細な動きに視線が釘付けになりそうだ。
こんなの変だ…
どうしてこんなに体が熱くなるんだ?
何もしてない
直江は何もしていないのに…
どんどん困った状態になっていく自分の体が、
いつのまにか期待してしまう心が、
恥ずかしくて居たたまれない。
赤く染まった耳が、どんなに直江を刺激しているかも知らず、
高耶はひたすら自分の想いを散らそうと、心の中で奮闘していた。
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気を散らそうと思っても、すぐ傍に直江がいて、
うなじに息が触れたりするのだから、もうどうしようもない。
高耶は目いっぱい腕を伸ばして、直江を押し退けると、
「来るな! 頼むから離れてろ!」
と泣きそうな顔で懇願した。
「どうして? なぜ逃げるんです?」
直江の手を拒んで、体を竦めて後ずさりながら、
高耶は答えられずに首を横に振った。
逃げたいんじゃない。
どうしたらいいのかわからないんだ。
訴えるように直江を見つめる潤んだ瞳が、荒くなった呼吸のたびに煌く。
高耶の動揺をよそに、その姿は息を呑むほど扇情的だった。
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その瞳をじっと見つめたまま、直江は逃げる暇も与えず高耶を抱きしめた。
「だめだ。直江! こんなの…違う…」
消えそうな声しか出なかった。
抱きしめられて、心地よさに身体の力が抜けていく。
俺はおまえの体が欲しいんじゃない。
そう言いたくても、高耶の体は直江の体を求めていた。
「違わない。あなたは俺の体も欲しいんだ。魂も身体も。
それがなぜいけないんです?」
あなたはもっと欲しがっていい
もっと素直に、もっと心のままに
「ねえ。俺はいつだってあなたを欲しがってるのに、
どうしてあなたはダメだと思うの?
もしかして、俺が欲しがるのを嫌だと思ってるんですか?」
キスの雨を降らせながら、直江が笑って尋ねる。
嫌だと言われても、辞める気など全くないという顔で…
答えの代わりに、高耶は直江の身体を抱きしめた。
「直江…」
名を呼ぶだけで安心する。
心と身体がひとつになって、直江を求めているのがわかる。
高耶の胸に、もう夢の影はなかった。
2007年4月14日