誓い編

「結婚式はしない。」
あのとき直江が言ったように、儀式も形も二人には必要ないと、高耶は思っていた。
そんな高耶に、ある日潮から写真が届いた。
それはいつか潮と一緒に行った無人島の写真だった。
高耶の胸に、島の風景が鮮やかに蘇った。

心が洗われるような、手付かずの自然がそこにあった。
虚勢をはることも、自分を卑下することもない、裸の心になれる場所。
 直江とこの島に行きたい、と思った。
このままふたりで暮らすのは簡単だ。けれど、けじめをつけておきたい。
それには、この島が一番ふさわしい気がした。

「直江。この島に行ってみないか?」
高耶は潮の写真を見せて言った。
突然の誘いに内心とまどった直江だったが、
高耶が行きたいというのを断わるはずがない。
なにより潮の写真が、圧倒的な魅力をもって直江を誘っている。
行きたい、と直江は答えた。

 高耶がさっそく氏康公に頼み、ふたりは空から島に向った。
 青い海を、遥か上空から見下ろしていた高耶が、この辺りだと合図した。
 直江は高耶の肩越しに、海に浮かぶ小さな緑の島を眺めた。

 島のまわりの海は、海底が透けて見えるほどで、青い海と緑の島のコントラストは、
こんなところがまだ日本にあったのかと思うくらい美しい。
 ゆっくりと島に降り立つと、氏康公はふたりを下ろし、もう一度上空へと飛び立った。

感謝を込めて手を振り、高耶は砂浜から山の方へと上っていく。
直江は氏康公に深く一礼して、高耶の後を追った。
 しばらく行くと緑が濃くなり、近くを流れる川のせせらぎが聞こえてきた。
爽やかな空気の中を歩いていると、どんどん心が澄んでいく。
土と水と草木の香りが、身体の内の野生を呼び覚ます。
よけいなことが全て消えて、ありのままの自分になっていくようだ。

 先を歩いていた高耶が立ち止まった。
目の前に荘厳な滝があった。
清冽なしぶきが、木漏れ日を浴びてところどころに虹をつくり、深い淵へと流れ落ちる。
ここにはきっと神がいる。
そう思わせる神聖さが、そこにはあった。

 突然、高耶が服を脱ぎ捨てると、川に身を沈めた。
禊をするように、全身を水に浸す。
 直江も服を脱ぎ、水に入った。
驚くほど冷たい清水に、身も心も引き締まる思いがする。
やがて水から上がった二人は、静かに見つめあった。

「直江、これはゴールじゃない。この先も俺達の最上のあり方を求めると誓えるなら、
この手をとれ。」
高耶の体から真紅のオーラが躍り上がった。
誇り高い野生の虎が、真摯な瞳で見つめている。
直江はその目をじっと見つめた。
美しい琥珀色のオーラが強い輝きを放って立ち昇る。

 直江は厳粛な思いで、高耶の手をとった。
そのまま高耶を引き寄せて、くちびるを重ねると、
ありったけの思いを込めて抱きしめる。
 天と地の見守るなかで、ふたつのオーラが交じり合い、
赤とも金ともつかない美しい輝きを放ちながら、二人の体を包んでいた。

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