『魔法使いの休日』

先日までの曇り空が嘘のように、明るい日差しが降り注ぐ。
珈琲を入れようとキッチンに立った直江の耳に、
ピーィトゥルルルル
覚えのある音が聞こえた。

「またか…」

むむぅと唸って、外に意識を向ける。

思った通り、結界スレスレを飛んでいるのは、
飛竜の中でも抜群の強さと気位の高さで知られる『はぐれ』…銀星だ。

今日の爽やかな秋空を、高耶と一緒に飛びたくて、誘いに来たのだろう。
だが、それは直江も同じ。

直江はサッと魔法の杖を取り出し、素早く呪文を唱えた。

 

「ちょ…っ何やってんだ!直江…?」

いきなり腕の中に飛ばされて、高耶は思わず手を突っ張った。

「嫌です!」

直江は高耶が抵抗しても、ギュッと抱き締めて離さない。

「直江?…銀星の声が…」
言いかけた言葉を、
「嫌です!」
強く遮って、直江は高耶の肩口に顔を埋めた。

「嫌…って…」

駄々っ子みたいだ…

何が嫌とも言わないで、ただギュウッとしがみつく直江の体に、
高耶は自由を奪われた手の先を伸ばした。

そっと背中に触れる。
直江がピクンと緊張したのがわかった。

「直江。」

呼びかけて、少し緩んだ腕から抜け出すと、
高耶は笑って直江の瞳を覗き込んだ。

「ちょっと行ってくる。」

もう、嫌とは言えなかった。

走り去る高耶の足音を聞きながら、直江はうなだれて目を瞑った。

銀星が大きくピューイと鳴いて羽ばたいた。

行ってしまう…!

思わず窓に走り寄った直江は、背中から優しい温もりに包まれて息を呑んだ。

「高耶さん!」

愛しい名前を呼ぶ。

景色が、瞬く間に鮮やかな色に染まった。
幸福という名の、優しい色に…

2008年11月1日

 

秋の休日。今日は晴れて気持ちいいです! 直江はホント幸せだな〜(^^)

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

  小説のコーナーに戻る

TOPに戻る